「日本人のメルペイから抜き取ったカネで――」コンビニで60万円分を“爆買い” 中国で売りさばく「転売ヤー」の手口
推しグッズに限定品、発売前から人気の新商品――需要が供給を上回ると見れば、品目を問わず大量に買い占めては高額で売り飛ばす。それが「転売ヤー」だ。中国では「海外ブランドの加熱式たばこ」を扱う業者が増えて、値崩れが起きるほどだという。だが、その原資には、他人から抜き取った電子マネーが使われているらしい。奥窪優木氏が転売ヤーたちに密着した『転売ヤー 闇の経済学』でその手口を見てみようる。(引用はすべて同書より)【前後編の後編/前編を読む】
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電子マネーから抜き取った金を加熱式たばこに
日本クレジット協会の統計によれば、2023年のクレジットカードの不正利用による被害額は540億円を超えており、過去最悪となっている。2020年と比べると2倍以上の被害額だ。その背景には、コロナ禍でオンラインショッピングの利用機会が増えたことが挙げられる。
クレジットカード以外にも、他人名義のキャッシュレス決済で購入された商品が転売されて現金化される例はある。
2023年9月、大阪府警は、他人名義の電子マネーを不正利用したとして、中国籍の男女3人を詐欺容疑で逮捕・送検した。彼らは2022年4月からの約1年間、フィッシング詐欺の手口でアカウントを乗っ取った他人のauペイやクイックペイを大阪市内のコンビニなどでの支払いに約200回利用し、総額600万円以上を決済していた。
こうした不正利用によって購入していたのは、もっぱら加熱式たばこだった。彼らのうちの一人は、1日に4000箱もの加熱式たばこを購入することもあり、のちの取り調べで中国向けに転売する目的だったことを明かしている。
また2023年5月には、他人名義の「メルペイ」(メルカリの電子決済サービス)を不正利用したとして、都内在住の30歳の中国籍の男が、神奈川県警をはじめとする合同捜査本部に不正アクセス禁止法違反の容疑で逮捕されている。男は、2021年12月から22年1月に、あらかじめ入手したメールアドレスやパスワードを使い、12人のメルカリアカウントに不正接続していた。男の関係先から押収されたパソコンには、約290万件のIDやパスワード、約1億件のメールアドレスが保存されていたという(この件についてメルカリに取材したところ「個別の事件等については、本件に関わらずコメントは差し控えさせていただいております」とのことだった)。
たばこ集めの報酬は2~3万円
実はこの男、中国に拠点を置くフィッシング詐欺グループの中心人物のひとりだった。
同グループは、日本国内でいわゆる闇バイトを募集し、不正利用の実行役とさせており、22年6月以降、中国籍の男女13人が逮捕されていた。
彼らが乗っ取ったメルペイで購入していたのも、やはり加熱式たばこだった。一店舗であまりにも大量に購入すると怪しまれるためだろう、深夜帯に複数のコンビニをまわり、1カートン5800円ほどのカートリッジをメルペイで10点前後ずつ購入していたようだ。こうした「買いまわり」で約60万円分を購入することを条件に、彼ら実行役は報酬として2~3万円を受け取っていたという。
少し遡ると2019年にも、セブンペイの約900人分のアカウントが乗っ取られ、5000万円を超える被害が出た事件や、他人名義のTポイントおよそ400万円分を不正利用した事件が起きている。不正利用によって購入された物品の多くはやはり加熱式たばこだった。
値崩れが起きた中国たばこ転売市場
なぜ、彼らは加熱式たばこにこだわるのだろうか。貿易会社を経営する在日中国人の馬氏(仮名)が明かす。
「中国では、海外ブランドの加熱式たばこの販売や流通が規制されていて、コンビニなどの実店舗で買えるのは国産ブランドのみ。ただ、ネットやSNSで非正規に売られている海外の加熱式たばこを好む愛煙家も多いのです。特に人気なのはフィリップ・モリス社のIQOSやJTのプルームX。うちはここに目をつけ、2017年に日本から中国に並行輸出するビジネスを始めました」
彼は、小売価格の10%引きの仕入れ値で買い付けることができるよう、たばこの販売許可を持つ事業者を買収。さらに、中国のSNSの小紅書とWeChat(ウィーチャット)に加熱式たばこの情報を発信するアカウントを開設し、フォロワーに向けて販売を始めた。
多くの国々と同様、中国にたばこ類を輸入する際には高額な関税がかかる。そのため、馬氏は他の貨物に紛れ込ませて密輸することで、課税を避けていたという。
「2017年当時は、IQOSのヒートスティックはマールボロ1箱460円だったが、中国に持ち込めばほぼ倍の900円ほどで売れた。同業者が少なかったこともあり、2019年は6000万円ほどの利益が残りました」(馬氏)
しかし、2020年に始まったコロナ禍で物流が混乱し、それまで利用していた密輸ルートが使えなくなったため、一時的に頓挫した。2021年の春頃には新たなルートを確保して輸出と販売を再開したが、事情はまるで異なっていたという。
「その時にはマールボロのヒートスティックは550円に値上がりしていたのですが、中国で売られている並行輸入品の相場は逆に800円ほどに下落していた。コロナ前と比べると、需要はほぼ同じでも参入業者が数倍以上に増えており、値崩れが起きていたのです。さらに2021年10月には日本での定価は580円に値上げされた一方、中国での相場は変わりませんでした。これでは送料などを含めると、どうそろばんを弾いても、利益が出ないどころか原価割れです。ビジネスとして成り立たせるには、最低でも900円ほどで売る必要があるが、それだと買い手はつかなかった。もはや弊社が加熱式たばこのビジネスを継続する意味はありませんでした」
嗜好品転売は在庫管理が楽
撤退を決めた後も、なぜ他の業者が原価割れの転売を継続しているのか、彼の中で引っかかり続けた。そこで従業員に指示してその謎の調査に当たらせてみたという。
「模造品の可能性もあると思い、中国のSNSで日本製の加熱式たばこを販売するいくつかの業者から注文しましたが、いずれもホンモノだった。ただ気になることがあった。同じ銘柄を5箱ずつ購入したのですが、パッケージに刻印されたシリアルコードを見ると、1ヶ月くらい違う製造日の商品が混在していたり、すべての製造日が違っていたりする場合もあった。弊社のように、販売業者としてJTから直接仕入れている場合、同じロットには基本的に同一の製造年月日のものが梱包されているので、複数の店舗で購入したものを混ぜて売っていると考えるほうが自然。ただそうなれば、市販の価格で仕入れていることになり、相場で販売すればますます赤字になるはず」
こうした状況から導き出されたのは「合法的に仕入れられたものではない」という推定だった。
「最初に疑ったのは、横流し品か盗難品ではないかということです。しかしJTの流通管理は厳格なので本格的な横流しは起きようがない。大規模なたばこの盗難事件も報じられていない。となると一番可能性があるのは、電子決済の不正利用によって仕入れられた商品であるということ。他人の財布で仕入れをするんだから原価ゼロ。値崩れが起きようが痛くもかゆくもない」(馬氏)
その場合、数ある転売商材の中で、フィッシング詐欺集団はなぜ加熱式たばこを現金化の手段として選ぶのか。
「電子決済で購入できる商材のなかでは、加熱式たばこは現金化が容易。嗜好品というのは、一度顧客を捕まえるとリピーターとなって同じ銘柄を反復的に購入してくれるので、何をどの程度仕入れればいいか予想がついて在庫管理も楽です。それに何より、犯罪絡みの商品を売る場合、常に新規顧客を開拓しなければならない商品より、目立たずに継続的なビジネスができるので、好都合なのでしょう」(同)
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この記事の前編【在日中国人が集うSNSで“格安販売”されている「チケット」とは 日本で金儲けする「闇のカラクリ」】では、日本人が知らないその驚愕(きょうがく)のカラクリについて報じている。
※『転売ヤー 闇の経済学』より一部抜粋・再編集。