白内障手術で「認知症発症リスク」は30%低減 50代で2人に1人、80代でほぼ全員が発症

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「認知症発症リスクそのもの」との関係

 ところが昨年12月に発表された米国の研究結果では、私たちや奈良県立医科大学の論文では触れられていなかった、白内障手術と「認知症発症リスクそのもの」の関係が明らかにされたのです。なおこの調査は、対象人数が多い上に、複数年にわたって追跡調査をしている点で、手法においても優れていたといえます。

 具体的には、認知機能が正常で、白内障や緑内障を患っている65歳以上の4508人を対象に、白内障の症状があって手術を受けた人とそうでない人を比較し、人によっては10年など長期にわたって追跡調査。すると、前者のほうが認知症発症リスクが約30%低かったことが分かったのです。

 ではなぜ、白内障の手術を受けると、認知症発症リスクが下がるのか。その因果関係は、眼科の範疇を超えるところもあり、はっきりとしたことは申し上げられませんが、推測することは可能です。

 一般的に、難聴の方も認知症になりやすいといわれています。それと同様に、白内障になることで目を通じて脳に入る刺激が少なくなることが直接的な要因としては大きいのではないかと考えられます。なにより、人間は情報の約8割を目から得ているともいわれていますので、目が濁り、「情報入手」に支障をきたすことが脳に与える影響は決して小さくないといえるでしょう。

ブルーライトとの関連性

 また、社会行動学的な要因も考えられます。耳が聞こえにくくなったり、目が見えづらくなると、出歩くことがおっくうになりがちです。外出の機会が減れば、人とも会わなくなり、社会的なアクティビティーが減少して脳への刺激低下につながることが考えられます。

 さらに、ブルーライトとの関連性も考えられます。白内障になると水晶体が黄色く濁ります。すると、黄色系の補色である青色系の光、ブルーライトが網膜まで通りにくくなります。

 網膜の細胞の中には、青や紫の光を感知することで「日内変動」の役割を果たす細胞があります。日内変動とは、いわゆる体内時計です。白内障によってブルーライトが網膜まで通らなくなり、1日の体内リズムがくずれることで日常生活に異常をきたし、認知症につながっていくのではないか――こうした仮説があり、白内障の手術によってこの「ブルーライトリスク」が軽減されることが影響している可能性も考えられる。ブルーライトは、寝る前に見ると寝つきが悪くなるといわれている一方、日中にはある程度目にしていないと体内リズムを整えられないのです。

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