白内障手術で「認知症発症リスク」は30%低減 50代で2人に1人、80代でほぼ全員が発症

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唯一の根本的治療は?

 このように、目の濁りはごく自然な老化現象であり、過度に心配する必要はない一方、「濁っていないレンズ」を取り戻すことができると、QOL(生活の質)が向上し、日常が豊かになることもまた事実です。そして、濁った水晶体のせいでかすんでしまう視界を改善する唯一の根本的な治療法はレンズを入れ替えること、すなわち手術なのです。そして、白内障を放っておかずに手術することのメリットのひとつを示したのが、冒頭で触れた「画期的な調査結果」です。

 この調査結果とは、昨年12月に米国ワシントン大学医学部のセシリア・リー准教授の研究チームが、国際学術誌「米国医師会雑誌:内科(JAMA Internal Medicine)」に発表したものですが、その前に白内障手術と認知機能・認知症の関係の研究歴をひもときたいと思います。

手術で認知機能が改善

 2008年、私たちの研究グループは、両目とも白内障の手術をした患者さん102名を対象に、手術前後での視覚関連QOL、うつ状態、認知機能のスコアを比較しました。視覚関連QOLとは、手足に怪我を負っているなどの目以外の要因を含めず、目が見えにくいことに由来するQOLのことです。小さい物が見えにくいといった「直接的」なQOLの変化にとどまらず、目が見えにくくなったことで外出機会が減ったというような「間接的」な変化も含みます。

 そして調査の結果、視覚関連QOL、うつ状態、認知機能、どのスコアも術後に改善していることが分かりました。つまり、白内障によって視覚関連QOLが低下し、気が滅入ってうつ状態になり、また目の衰えに伴い脳機能も低下していた患者さんが、手術したことで「かすんでいないかつての視界」を取り戻し、いずれも改善した。私たちはそう解釈しました。

 ただし注意が必要です。私たちの調査結果で分かったのは、あくまで白内障手術によって「認知機能が改善した」ことであり、「認知症になりにくくなった」ということではありませんでした。認知機能が低下したからといって必ずしも認知症になるわけではありませんから、この点は区別して考える必要があります。

 その後、18年には奈良県立医科大学が研究結果を発表し、白内障の手術をしたグループとそうでないグループを比較したところ、前者のほうが軽度認知機能障害のリスクが低かったことが分かりました。しかしこの調査結果も、あくまで認知機能についてであり、認知症そのものとの関連は示されませんでした。

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