NHK「ロシア語番組」終了の波紋 「最悪のタイミング」とロシア語教育の第一人者は怒り心頭

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 ロシアのウクライナへの軍事侵攻からおよそ3週間が経つが、いまだ終結の兆しは見られない。そうした中、Eテレ(NHK)で放送中のロシア語講座「ロシアゴスキー」が3月で放送終了することが分かり、「プーチンのウクライナ攻撃の影響か」との憶測が飛び交った。実際には、侵攻以前から番組終了が決定していたとのことだが、プーチン大統領の暴挙は日本でのロシア語教育、ひいてはロシア研究に「致命的な打撃になる」とロシア語教育の第一人者の黒岩幸子教授は語る。(粟野仁雄/ジャーナリスト)

ロシア語を学ぶ人が攻撃される可能性も

「ロシアゴスキー」は、「テレビでロシア語」の後継番組として2017年10月にスタート。内容はモスクワとサンクトペテルブルクの紹介で美しい街並みや、おいしそうな料理、美女も登場し、筆者もすべて録画していた。放送時間は深夜帯や早朝で、最近は再放送ばかりでテキストも1年分が1冊にまとめられた上、一昨年度のテキストと昨年度のテキスト内容は全く同じだった。「ロシアゴスキー」の終了後は、NHKのロシア語講座はNHKラジオの「まいにちロシア語」のみになる。同番組の講師経験もある黒岩教授は、慶応義塾大学文学部を卒業後、早稲田大学大学院修士課程修了、日本航空モスクワ支店に勤務した。ロシア語通訳協会の元会長を務め、現在は岩手県立大学の教員である。そして、今回のウクライナ侵攻の影響を深刻に捉えている。

「プーチン大統領はなんということをしてくれたんだ、と怒り心頭です。国内で細ってきているロシア語教育に致命的な打撃になってしまう。もっとも心配なのは、多くの日本人が『プーチンイコールロシア』と考えてしまうことです。戦争状態が収まった後も、『邪悪なロシアと正義の西欧』のようなステレオタイプが広がり、ロシア文化やロシア人を無差別に排斥する短絡的な動きにつながりかねない。『なんでロシア語なんか学ぶんだ』と言われたり、ロシアに留学した人などに攻撃の矛先が向けられたりする危険もあります。ただでさえ、以前から『ロシア語を勉強する人物は政治的に左寄りだ』などと偏見を持たれていましたが、今回はそれにさらなる拍車を掛ける事態だと思います」

 NHKラジオの「まいにちロシア語」については、

「『まいにちロシア語』入門編の新作と私が担当した応用編の再放送は予定通り始まります。ただし、2025年からはNHKラジオ放送は3波から2波に整理されることが決まっているので、マイナーなロシア語が削減の対象にならないか心配しています」(同)

ウクライナでも通用するロシア語

 NHKの番組終了だけでなく、今後国内の大学でもロシア語を学ぼうとする学生が減り、ロシア語の授業などがなくなってゆく可能性もある。

「私は今月で、岩手県立大を退職し、4月からは特命教授になります。岩手県立大では、2年前に国際教養教育プログラムが設置されて、6言語開講していた第二外国語は必修科目ではなくなりました。何とかロシア語を選択科目として残そうと画策したのですが、国際教養に特定の言語は不要ということで、結局潰されてしまいました。がっくり来ていたところにウクライナ侵攻です。最悪です」(同)

 ロシア語を学ぶ意義については、

「ロシア語はロシア人だけが話すわけではなく、国際的な共通語としてのロシア語の存在があります。英語がイギリスとアメリカだけの言語ではないのと同様、ロシア語はウクライナでも通用しますし、バルト三国や中央アジア諸国などの旧ソ連圏でも広く使われている言語です。ロシアが軍事侵攻したからと言って世界の語学教育の場からロシア語を排斥するのはお門違いなのですが……」(同)

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