疲労軽減物質「イミダペプチド」を多く含む食品は? 鶏むね肉が発揮する驚きの効果
疲労が軽減する食成分
運動に限らず、せっかくの休日だからと外出したりすると、ハードスケジュールで疲労がたまっていても、楽しいと脳が思うことで疲労を感じなくなってしまう。それでリフレッシュしたと誤解してしまうことが珍しくありません。あえていえば、世の中で「リフレッシュ」と名のつくものの大半は“嘘”なので、休日はその名の通り家でゆっくり休むことが重要です。
だからといって、まったく運動をしなければ、食べすぎで肥満となり死亡率が上がるケースもあります。100歳以上の長寿の方で、ハードなスポーツを続けてきた方はほとんどおらず、少なくとも65歳ぐらいまではさほど肥満体ではありません。
そういった方の食生活をつぶさにみていくと、65歳くらいまでは脂っこいものを避けて、70歳を超えてからは、むしろ肉を食べるような生活に変えた方が長寿であることがわかっています。
より良い食事で疲労を改善することはできるのです。では、どんな食事をとることが望ましいのか。結論からいえば、鶏のむね肉に多く含まれるイミダペプチドという成分が、身体的な疲労感を軽減する効果があると科学的な検証で認められています。
私自身、その検証プロジェクトにリーダーとして参加したのですが、話は2003年にまで遡ります。大阪市立大学、大阪市および食品メーカー、医薬品メーカーなど18社と、総合医科学研究所が産学官連携で、「疲労が軽減する食成分」を探す試みをしました。
これまでお話しした「疲労の正体」にまつわる知見は、このプロジェクトによって得られた成果によるところが大きいのですが、実験は96名の被験者に固定式自転車を4時間漕ぎ続けてもらったり、4時間のデスクワークを続けてもらった後に4時間の回復期を設けて、その間における疲労の蓄積と回復の度合いを多角的に計測、評価していきました。
この方法に基づき、プロジェクトでは疲労回復に効果があるとされてきた23種類の食品に含まれる成分を評価。具体的にはビタミンC、クエン酸、コエンザイムQ10、アップルフェノンR、カフェインなどですが、そのうち最も効果的だというエビデンスが得られたのがイミダペプチドだったわけです。
この聞き慣れない成分が多く含まれているのが、鶏のむね肉なのですが、スタミナがつくイメージのある牛肉や豚肉と比べると、カロリーも低く地味な存在であることは否めません。
けれど、季節に応じて北極圏から南極圏までを縦横無尽に行き来する渡り鳥の飛行能力を思い浮かべていただければ、合点がいくのではないでしょうか。
渡り鳥が長時間、疲れずに飛び続けることができるのは、羽を動かす筋肉であるむね肉の部分に、抗疲労成分であるイミダペプチドが大量に蓄えられているからなのです。
もちろん渡り鳥のような野鳥と違って、市販されているむね肉は家畜化された鶏のものですが、それでもイミダペプチドはきちんと含まれています。また渡り鳥と同じように長い時間海の中を回遊しているカツオやマグロにも、同様の成分が豊富に含まれていることがわかりました。
この成分には疲労を引き起こす原因となる活性酸素による酸化ストレスを軽減する抗酸化作用があるのです。鶏のむね肉以外にも、ビタミンA・C・Eやポリフェノールなど活性酸素に対抗する抗酸化作用を持つ成分は存在します。けれど、その多くが体内で数時間内に代謝されて効果がなくなってしまうのに対し、イミダペプチドは体内で吸収された後、脳内で再合成されることで長時間、活性酸素に対抗しつづけるという際立った特徴があります。
そして数々の実験を経た結果、この成分を1日あたり200ミリグラム、鶏むね肉に換算すると100グラムを最低2週間、毎日とり続ければ抗疲労効果が現れることが明らかになりました。
鶏のむね肉は安価で入手しやすい上に、低カロリーなので毎日食べても肥満に繋がりにくい食材です。肝心のイミダペプチドは長時間直火で炙るのはNGなのですが、加熱にも強く、普通に焼いたり蒸したり、自由に調理しても差し支えありません。時間のない時は、茹でたむね肉をサラダに添えるだけでもいいですし、さっぱりしているので暑い日にもぴったりの一品になると思います。
日々の疲れに気づきながらも、多忙を理由に治療や抜本的な回復を試みることを避けている人も多いと思います。今回の記事で「疲労の正体」とその対処法を理解されたなら、さっそく実践し、生き生きとした人生を送っていただければと思います。
〈梶本氏の処方箋は、夏のみならず寒さが厳しい冬も含めて、あらゆるシーズンで我々の体に生じる疲労を克服するためのヒントに溢れているのだ。〉
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