ワクチン副反応対策で注目 「鎮痛剤」の基本知識を薬剤師が解説

ドクター新潮 医療

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 新型コロナワクチンの接種が進むとともに、副反応への対策として市販の痛み止め薬を買う人が増え、店頭では品薄状態になっているとも伝えられている。

 特に入手が難しくなっているといわれるのが、アセトアミノフェンという成分の鎮痛薬(商品名:「タイレノールA」など)だ。しかし、厚労省はアセトアミノフェンだけでなく、イブプロフェン(商品名:「イブ」、「リングルアイビー」、「ナロンメディカル」など)、ロキソプロフェン(商品名:「ロキソニンS」など)といった成分の鎮痛薬も副反応に使用してよいとしている。そうとなれば、入手しやすさはぐんと上がるだろう。

(新型コロナウイルスと鎮痛剤をめぐる騒動については、以下の関連記事を参照)
 関連記事:〈新型コロナ〉“飲んではいけない鎮痛薬”? 真偽を薬剤師が解説
 https://www.dailyshincho.jp/article/2021/07070615/

 選択肢が多いことは、店頭での品切れ、パニックといった状態をなくすには良いことだが、一方で「何を選べばいいのか」「どう違うのか」と迷う方もいるかもしれない。

 先日は元SMAPメンバーでタレントの中居正広(49)が、副反応対策のため鎮痛剤をドラッグストアで探し、パッケージに「生理痛」と書いてあるのを見て“自分が飲んでよい薬なのか”を薬剤師に確認したとラジオで発言して話題となった。

 そもそも鎮痛剤とはどういう薬なのか。薬剤師としてブログやSNSで消費者向けの情報を発信している久里建人さんの著書『その病気、市販薬で治せます』から、鎮痛剤について一般消費者が知っておいて損はない基礎的な解説を以下、引用して紹介しよう。

 なお、市販薬は同じブランドのシリーズでも商品によって成分が異なることがあるため、購入の際には必ずパッケージに表示された成分を確認することをお勧めする。店頭の薬剤師に相談する際には、ワクチンの副反応対策という用途とあわせて、希望があれば商品名よりも成分名を告げたほうが確実だ。

薬選びは「商品名」でなく「成分名」が大事

 体調不良で向かったドラッグストアの薬売場で、愕然(がくぜん)とした経験はありませんか。何なんだ、この種類の多さは……、と。

 ドラッグストアの薬売場では、そのあまりの種類の多さに立ちすくみ、パッケージを見比べながらウンウン唸っているお客さんをよく見かけます。市販薬はとにかく種類が豊富です。似たような効果の薬だけでも数十種類あり、薬選びに困るのは当然です。

 たとえば解熱鎮痛剤と呼ばれる痛み止めの商品は、厚労省から製造承認が下りているもので現在400種類以上はあります。正直にいえば、ドラッグストアの薬剤師でさえ「聞いたこともないような薬」がごまんとあるのです。

 では、薬剤師はどのように薬を見比べ、評価しているのか。着目するのはもちろん「成分」です。お客さんから聞かれた際にも、薬の成分を知っていればその特徴をある程度答えることができます。それに、実は市販薬の成分には、ジャンルごとにいくつかの“パターン”があるのです。そのパターンを知っていれば、薬の特徴は一目瞭然です。

 違いがなさそうで、意外とあるのが市販薬。個々の薬の知識を通じて、市販薬選びの“心構え”を提案していきたいと思います。

おさえておきたい四つの成分

 市販の痛み止めには、おさえておきたい四つの成分があります。伝統派の【アセチルサリチル酸(アスピリン)】、新興勢力の【イブプロフェン】と【ロキソプロフェン】、穏健派の【アセトアミノフェン】です。他にもあるのですが、これらの成分が鎮痛薬市場の四大勢力といっていいでしょう。この四つを知ることで、初めて「痛み止め」という広大な地図の全体像が見渡せます。ひとつずつ見ていきましょう。

 アセチルサリチル酸は1897年にドイツで開発された、昔ながらの痛み止めの代名詞です。ヤナギの木の抽出物を分解したサリチル酸を元に作られた成分で、高い鎮痛作用が評価され、世界中で使われるようになりました。今でも日本の病院で使われている薬ですが、現代においては痛み止めというよりも、血栓をできにくくする薬(抗血小板薬)として認知されています。代表的な市販薬には「バファリンA」がありますが、アセチルサリチル酸だけを鎮痛成分として配合した薬は今やかなり少数で、同じバファリンシリーズでも「バファリンプレミアム」はアセトアミノフェンとイブプロフェンの配合薬でアセチルサリチル酸は使われていませんし、「バファリンEX」はロキソプロフェンが成分です。

(記事注:アセチルサリチル酸(アスピリン)は、厚労省がワクチンの副反応に使えるとした「非ステロイド性抗炎症薬」に属します。米国疾病予防管理センターのサイトでは、医師に相談した上で副反応に使える成分として、イブプロフェン、アセトアミノフェンとともに紹介されています)

 これに対して商品数が多いのは、新興勢力の【イブプロフェン】という成分です。イブプロフェンはアセチルサリチル酸(アスピリン)の弱点を克服するために作られた薬です。その経緯を簡単に紹介します。

 イブプロフェンは、イギリスのブーツ社で作られました。発見したのはスチュワート・アダムスさんという薬剤師で、同社の研究部門に身を置いていました。

 その頃の彼の仕事は、副作用が少なく効き目の高い関節リウマチの薬を作ることでした。当時はアスピリンが鎮痛薬として有名でしたが、大量に摂取すると重篤な副作用が生じることがあったため、イギリスでは1950年代には人気を失っていたのです。

 そのためアダムスさんは、アスピリンに代わる、副作用の少ない鎮痛薬を作るための研究を重ねました。10年越しの研究の末、開発された成分は【イブプロフェン】と名付けられ、1961年に特許を申請、その8年後に病院用の処方薬として発売されます。市販薬としてドラッグストアで売られるようになったのは1983年のことで、アメリカでも翌年から市販化されました。アダムスさんは2019年1月に95歳で亡くなりましたが、その物語はBBCのニュースにもなり、世界を変えた鎮痛剤の発見が称えられました。なお、これほどの快挙を成し遂げたアダムスさんではありますが、生前に会社から支払われた特許料は1円もなく、「この薬で損をしたのはたぶん自分だけだろう」と冗談のように語っていたそうです。

 イブプロフェンは日本では頭痛・生理痛薬の成分として、「イブ」シリーズをはじめ多くの商品に使われています。イブプロフェンを配合した鎮痛薬には「アダムA錠」という商品もありますが、これが開発者アダムスさんからとられた名前なのか、それとも先行商品「イブ」から“アダムとイブ”の連想でつけられた名前なのかはメーカーに問い合わせても分かりませんでした。

日本人には定番の「ロキソニン」、穏やかな「アセトアミノフェン」

 もう一つの新興勢力は【ロキソプロフェン】。「ロキソニンS」等の成分です。これもまた、胃への副作用が少ない痛み止めとして開発されました。

 ロキソニンは“内弁慶”な薬です。開発したのが日本の製薬企業ということもあり、日本国内では幅を利かせた存在ですが、国外に出ると存在感はほぼありません。2018年時点で中国やベトナム、タイなど海外27カ国の市場に出ていますが、先述の【イブプロフェン】の代表的な製品である「ブルフェン」が米国・英国をはじめ90カ国以上で承認されているのと比べると、その販路は非常に限定的です。私自身、海外のドラッグストアで「ロキソニンを下さい」と聞いても、「それは何の薬ですか?」と首をかしげられた経験が何度もあります。

 世界保健機関(WHO)が効果や経済性などを総合的に評価した必須医薬品モデルリスト「WHO model list of essential medicines」の2019年版にも、アスピリンもイブプロフェンもアセトアミノフェンも入っていますが、ロキソプロフェンはありません。だから薬として劣っているというわけではありませんが、海外では入手困難なので、鎮痛薬を購入したい場合はイブプロフェンなどで代替する必要があるでしょう。

 さて、最後の派閥である【アセトアミノフェン】は、誕生は1800年代と古い成分ですが、痛み止めとして世界的に使用されたのは1949年以降とされています。アセトアミノフェンは穏健派の薬です。今まで見てきた三つの薬と違い、胃への負担の心配がなく、何より胎児や小さな子供への影響が少ないことから、妊婦さんやお子さんにも使いやすいという特徴があります。医療用の薬はカロナールといい、代表的な市販薬には「タイレノールA」があります。

 アセトアミノフェンの欠点は、炎症を抑える効果が弱いことです。他の3つの痛み止めが炎症と痛みを両方取り除く効果のある成分であるのに対して、アセトアミノフェンには炎症を抑える作用はほとんどないと考えられています。そのため市販薬においては、関節痛や歯の痛みなどの炎症を伴う痛みには、別の薬を選ぶ方が好ましいとされています。また、効果もマイルドです。アセトアミノフェンはある程度の量を飲むと高い鎮痛効果を得られることが分かっていますが、日本の市販薬に配合されるアセトアミノフェンの量は抑えられているので、医療従事者からすると「え? これしか入ってないの?」と思うことでしょう。他の痛み止めと比べると、効果で見劣りするかもしれません。

 いかがでしょうか。どれも同じように見えて、実は成分ごとの違いはさまざまです。そして、多くの市販の鎮痛薬は、四大成分のいくつかが併せて配合されていたり、さらに別の成分が追加されていたりして、とても複雑です(複数の成分を掛け合わせることで効果が増強されると考えられているためです)。なかなか簡単な比較はできないからこそ、断片的な情報で自己判断するより、薬剤師・医薬品登録販売者に「これとこれは何が違うの?」と個別に聞くことをお勧めします。

デイリー新潮編集部

2021年8月26日掲載

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