ハーバード大「慰安婦」論文を批判する韓国系教授のロジックは強引ではないか(前編)

国際 韓国・北朝鮮 2021年04月13日

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 ハーバード大学のマーク・ラムザイヤー教授の書いた「慰安婦」論文への批判は今なお韓国メディアを中心に止まない。しかし、こうした批判の多くは、誤解や誤認に基づいていると一貫して指摘しているのは、有馬哲夫・早稲田大学教授である。公文書研究の第一人者として知られる有馬氏は、ラムザイヤー教授の論文と、批判する側の言説を極力客観的に見て分析を続けている。今回と次回は、ラムザイヤー教授の同僚でもある韓国系の教授の批判を取り上げる。この教授の批判は、多くのフォロワーを生んでいるようだ。以下、有馬教授の特別寄稿である。

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ソク教授のエッセイについて

 筆者はこれまで4回にわたって、ハーバード大学ロースクールのマーク・ラムザイヤー教授の論文「太平洋戦争における性契約」に対する批判の分析を行ってきた。

 韓国メディアなどの批判は、言論弾圧ともいうべき大バッシングにも思えるが、そのソースを調べてみると、かなりの多くのものが、同じ批判文と雑誌記事に依拠している。

 このようなソースになった批判文として、前回の記事では、ハーバード大学ライシャワーセンター所属の日本史専門のアンドルー・ゴードン教授と東アジア言語文化専門のカーター・エッカート教授の批判文を取り上げた。

 これに次いでよく言及されているのは、ハーバード大学ロースクールのソク・ジヨン教授(英語名 Jeannie Suk Gersen)が『ザ・ニューヨーカー』に寄稿した「慰安婦の真実を求めて」(Seeking the True Story of the Comfort Women)というエッセイだ。

 とくに韓国メディアの報道と日本の市民団体の批判文は、このエッセイを踏まえているようだ。

 そこで、今回はソク教授の批判記事について検討してみたい。

 まず、この記事の日本語版の電子テキストをダウンロードし、精読するとともに、私たち研究者が新聞記事やテレビ番組によく行う内容分析を試みた。

 結論からいうと、ソク教授は、他人を非難するのに、自分の言葉を使わず、他人の言葉を使うというレトリックを多用している。これはいわば「責任転嫁レトリック」とでも言えばいいだろうか。

 また、本題とあまり関係のないものの、読者を刺激する事柄への言及を繰り返すことによって、ラムザイヤー教授への悪印象を強くするテクニックも用いている。これは印象操作である。

エッセイの構成要素

 具体的な内容分析に移ろう。エッセイは次の3つの構成要素からなっている。

(1)ラムザイヤー教授が書いたコラムと論文に対する彼女自身の批評。このコラムとは、2021年1月12日にJAPAN Forwardに掲載された「慰安婦の真実を取り戻す」のことである。また、論文というのは、ほぼ同時に電子版で発表された「太平洋戦争における性契約」のことである。

(2)ラムザイヤー教授の著作物(必ずしも前述のコラムと論文ではなく、著作物全般)に対するソク教授以外の研究者のコメント。

(3)ラムザイヤー教授の著作物とは直接的に関係しない日米韓政府の動き、および慰安婦問題に対するアメリカの世論。

 まず、ソク教授がこの3つの構成要素に、エッセイ全体のどのくらいのスペースを割いているか「文字カウント」の機能を使って調べてみた。なおエッセイのテキストは日本語版を使った。

 その結果は、(1)が約8・8%(2)が約32%(3)が約21・6%だった。

 全体で1万6286語からなるエッセイのなかで、彼女自身の言葉でラムザイヤー教授および彼の著作物の批評に費やしたのはわずか1442文字で全体の8・8パーセントだった。

 一方で、他人の言葉によるラムザイヤー教授批判には、全体の約32%で5208文字使っていた。つまり、他人の言葉を自分の言葉より3・8倍も多く使っていたのだ。ここから、彼女の戦術がはっきり浮かびあがってくる。

 それは、自分の言葉ではなく、他人の言葉でラムザイヤー教授と彼の著作を批判し、そこに日米韓の政府の動きの記述を絡めていくというものだ。

 彼女に公平であるために一言いうと、そういうやり方で他人を批判する人は珍しくない。

「〇〇さんはあなたを嫌な女だといっている」と相手に言うのだが、実はそれは言っている本人の本音だというあれだ。

 そもそもソク教授は慰安婦の研究者や専門家ではない。だから、本人からすれば他の専門家に頼るのは仕方がない、ということだろうか。

 彼女は「私自身がハーバード・ロースクールでアジア系アメリカ人の女性として初めて、そして韓国系としては唯一テニュア(終身在職権)を授与されている人物だ」と自己紹介しているが、彼女の専門についてはともかく、慰安婦についての知識は自分独自で論文を書けるレヴェルにはないので、他人に頼らざるを得ない。

 ちなみにハーバード大学にはテニュアを授与された日本人教授は多くいる。アンドルー・ゴードンの前任者の一人入江昭・元教授などはアメリカ歴史学会の会長を務めた。

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