ラムザイヤー教授「慰安婦論文」を批判するハーバード大学教授は文献を読めていないのではないか(前編)

国際 韓国・北朝鮮 2021年4月5日掲載

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騙されることは想定されていない?

 2人はさまざまな論点からラムザイヤー論文を批判しているが、そのうちの主たるものは次の2つだ。

(1)朝鮮人女性あるいは彼女の親が署名した契約書の実物の提示がない。したがって、どんな契約をしたのかわからない。

(2)したがって、女性あるいは親が契約に自発的に同意したのかわからない。おそらく、周旋業者は嘘、あるいは不明瞭な言葉を使って騙したに違いない。だから、自発的同意がないのだからラムザイヤー論文は根底から覆る可能性がある。

 しかし私が見るところ、彼らの批判には矛盾や間違いがある。では、それらはどんなものなのかを見ていこう。ちなみに、ゴードン教授とエッカート教授の共同声明で、どちらがいったことかわからないので、主語は「彼ら」とする。

 彼らはこう述べている(以下、全て筆者訳)。

「女性とその親との口頭でのコミュニケーションにおいて、求められている仕事の性質を不明瞭にすることは簡単だ。実際、彼女たちがすることになっている仕事の性質に関して騙されたという証言が多い。われわれが疑っているように、もし契約書自体がこのような不明瞭な言葉を使っているとすれば、このことは一層重要だ。もちろん、契約書のサンプルも実物もないとしたら、契約書が不明瞭な言葉を使っていたかどうかも確かめられないことになる」

 わかりにくいので補足しよう。

 彼らが考えているのは、契約書の実物があれば、そこにどんな仕事をすると書いてあるのかわかるので、騙したことが証明されるということだ。彼らは、契約書には女性側(親も含む)を誤解させるような言葉が使われていると想定している。そして、契約の実物が出てくることによって、そのような言葉があることが証明されれば、女性たちは、契約を結んだのではなく、騙されたことになり、ラムザイヤー論文は成り立たなくなると思っている。つまり、この論文は、女性たちが騙されることは想定されていないと思い込んでいるのだ。

根拠を無視している

 しかし、前の記事でも書いたように、ラムザイヤー教授は女性や親が騙されたことを把握しているので、女性が騙されることも想定している。もう一度引用しよう。

「朝鮮は日本とは違った問題を抱えていた。それは、職業的周旋業者の一団で、彼らは長年騙しのテクニックを用いてきた。1935年朝鮮の警察の記録では日本人が247人、朝鮮人が2720人検挙された。(中略)1930年代後半に朝鮮の新聞は11人の周旋業者のグループが50人以上の若い女性を売春所に売り飛ばしたと報道した」

 ここでは明確に「職業的周旋業者の一団」が騙しのテクニックを用いてきたと書いている。だから、そもそも彼らの思い込みは間違っているのだ。

 女性や親が騙されていたら、ラムザイヤー教授が論文で示した経済法学的モデルは根底から覆るのかといえば、そうではない。

 前の記事でも書いたが、騙された女性もそうでない女性も、基本的契約(必ずしも契約書になっていない)、すなわち前渡し金、年季、料金、取り分、生活費・食費の負担が同じであれば、待遇はあまり変わらない。そして、これらは「米国戦争情報局心理戦作戦班日本人捕虜尋問報告書四九号、一九四四年一〇月一日」などアメリカ軍の報告書に何度もでてくる日本軍の慰安所管理規則やそれについての報告書からわかる。これがラムザイヤー論文の立場である。

 彼らはこれらの文書の内容を認めようとせず、論文の註の文献を読みつつも、無視して、朝鮮人女性か親の署名入りの契約書を出せないなら論文を撤回しろの一点張りである。

 ラムザイヤー論文は根拠を示していないのではない。彼らが、それらを無視しているのだ。そして、彼らはなぜ無視するのかについて何も述べていない。

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