「韓国側の批判は筋違い」、ハーバード大教授「慰安婦論文」批判の悪質な点を指摘する

国際 韓国・北朝鮮

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「論文で書いていない」こと

(4)「10歳の少女」の契約を合法的なものだと主張している

 これもソク教授の悪質なストローマン論法である。

 ラムザイヤー教授は論文で「10歳の日本の少女」の事例を挙げて、契約が自発的であり合法的に行われたと主張した――こうソク教授は述べている。

 つまり、そんな酷い児童買春をラムザイヤー教授は肯定している、許せないことだ、というのがソク教授(や「記事」を書いた側)の言いたいことなのである。

 しかし、ラムザイヤー教授はそんなことは論文で書いていない。

 ここで取り上げられている「10歳の日本の少女」は、ラムザイヤー論文で言及されている慰安婦と同年代の「おさき」という天草出身の「からゆきさん」だ。

 論文によれば、彼女は10歳のとき周旋業者に外国にいかないかと持ち掛けられる。そして、兄弟と相談したうえで300円の前払い金を受け取ってマレーシアにわたった(最初から売春婦になることにはなっていなかったことに注意)。

 13歳になって売春婦として働き始めた。渡航費や居住費で借金が2000円になっていたからだ。彼女は月100円のペースで返し始めるのだが、払い終わる前に売春宿の主が死んだのでシンガポールに移る。

 だが、そこの売春宿の主がひどい扱いをするので逃げ出してマレーシアに戻り、そこでいい雇主を見つけ落ち着く。そのあとイギリス人の現地妻になったりしたあと、最後には天草に帰る。

 ラムザイヤー教授は、「おさき」が契約に自発的に同意したとか、その契約が合法だったなどとは書いていない。契約書を提示され、意思確認が行われたあとで「おさき」が署名したわけではないからだ。

 だが、「おさき」は兄弟に相談したうえでマレーシアに行くことを決意している。兄弟が「因果を含めた」のかどうかはわからない。

 売春婦になったのも、自分の置かれた立場を考えて、あるいは成り行き上、そうなってしまったのだろう。

 このようなケースで、「契約に自発的に同意したか」、「契約は合法か」と問われても答えようがない。ただそのような契約があったのは紛れもない事実である。

 ラムザイヤー教授が言いたかったのはまさしくこのことだ。すなわち当時の「性契約」の実態とはこのようなものだったということである。

 にもかかわらず「性契約」は、彼女たちの働き方、生き方を決めてしまっていた。

慰安婦のことで日本を非難する常套手段

 もちろん現代では、10歳の少女の「自発的同意」は、法的には無効だ。それはラムザイヤー教授もよく知っている。だが、「おさき」は現代ではなく戦前の女性で、日本ではなくマレーシアやシンガポールにいた。

 本人も周囲の人も現代的法観念を持っていなかったし、現代的人権法で護られていなかった。過去のことを現在の基準で判断するのは誤りである。

 ソク教授はラムザイヤー論文を非難するのに、韓国が慰安婦のことで日本を非難するときの常套手段を使っている。

 つまり、当時は違法でも問題でもなかったことに現代の基準をあてはめて問題化し、違法だと非難するやり方だ。これは時際法の原則、つまりその時のことはその時の法で裁く、という原則に反し、国際法上も誤りだし、不当だ。

 さらにいうと、韓国は慰安婦問題を女性の人権問題だというが、それは現在の基準である。当時の日本に対して不公平だった極東国際軍事裁判でも、慰安婦制度も個々の慰安所も、違法とはされず、起訴もされていない。

 ここまでに見た通り、ソク教授を含め韓国メディア報道はストローマン論法を使って攻撃している。つまり、ラムザイヤー教授が論文に書いていないことで、彼と論文をバッシングしているのだ。

 彼は児童買春を肯定してなどいない。実際にあったケースを分析しているだけだ。「慰安婦被害者」を愚弄もしていない。ただ一次資料に基づいて「性契約」の実態を明らかにしているだけだ。

 もちろん反論は自由だが、それにはストローマン論法に逃げることなく、正々堂々と一次資料にもとづいた反証を示さなければならない。

 したがって、批判者であるソク教授は、アジア中の個人宅を家探しして、ラムザイヤー論文を根底から覆すような「朝鮮人女性の契約書」を提示する義務を負っている。彼女が義務を果たすかどうか見守ろう。

有馬哲夫
1953(昭和28)年生まれ。早稲田大学社会科学総合学術院教授(公文書研究)。早稲田大学第一文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2016年オックスフォード大学客員教授。著書に『原発・正力・CIA』『歴史問題の正解』など

デイリー新潮取材班編集

2021年3月17日掲載

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