法廷で「よっしゃー!」と喜んだ「アポ電」強盗犯 裁判官が見誤った“酌むべき事情”

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検察側は無期懲役を求刑したが……

 公判で争点となったのは、加藤さんの死因だった。検察側は「首を圧迫させたことによる窒息死」だったと主張し、強盗致死罪で最も重い無期懲役を求刑した。一方、弁護側は「事件によるストレスで慢性心不全が急激に悪化して死亡した」として、懲役22〜26年の有期刑が相当と訴えた。

 東京地裁の守下実裁判長は、弁護側の主張を認め、死因を「慢性心不全の急激な悪化によるもの」と認定した。その上で、主犯格の須江被告に懲役28年、他2人の被告に27年を言い渡した。

 検察側は、被告らが加藤さんの頸部を圧迫させたことを示唆する所見として、眼瞼や眼球結膜に高度の溢血点や溢血斑が発現していたと主張したが、判決では「ステロイドを比較的長期にわたって、服用していたことで血管が脆くなって出血しやすい状況にあった可能性がある」と退けられた。地裁は、頸部の表面に目立った内出血等が見当たらなかったことも重視し、加藤さんが窒息死した可能性はあるとしながらも、慢性心不全で亡くなった可能性を排斥できない限り、「疑わしきは被告人の利益に」の原則に従うべきだとした。

 量刑理由で守下裁判長は、「死因の一つの要素である被害者が慢性心不全の状態にあったことは被告人らが知り得ない事情」だったと述べ、先に笹塚で起こした緊縛強盗で被害者に傷害を負わせていなかった点にも言及。その上で、「被告人らが行為に及ぶ際に、被害者を死亡させるリスクを想定するのは容易ではなかった」と指摘した。

 また、一連の犯行が短期間で、犯罪で得た収益の取り分の多くを得るべき「上位者」がいたことも考慮した上で、酌量軽減し、有期懲役刑とすべきと判断したと述べた。

量刑理由で述べられた「酌むべき事情」

 このように、弁護側の主張が全面的に認められた判決だった。無期懲役と有期刑は雲泥の差である。

「現在の運用では、無期懲役に処せられると、少なくとも30年を経過しないと仮釈放の対象とはなりません。仮釈放は申請したからといって簡単に認められるものではなく、日弁連は“無期懲役は事実上の終身刑”と批判しているくらいです。一方、有期刑の場合、模範囚であれば3分の2くらいの刑期で仮釈放を得られる可能性があります」(司法関係者)

 だからこそ、須江被告は「よっしゃー」と叫んだのだろう。

 守下裁判長は須江被告に対し、“酌むべき事情”として、次のようにも述べていた。

「罪を認め反省の弁を述べており、一定程度内省を深めていることがうかがわれる。強盗致死の被害者遺族に被害弁償を申し入れている」

 だが遺族は、須江被告が見せた態度から反省の情を感じただろうか。28年という刑期で、この男が更生し、社会復帰できるとは到底思えない。

デイリー新潮取材班

2021年3月16日掲載

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