【コロナ迷走】政権中枢の不協和音 菅首相と麻生氏の間にある「因縁」

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「菅は虚像が大きくなっている」

 12月16日に発足から3カ月を迎えた菅義偉内閣は、コロナ対策で迷走し続けている。その様子をすぐそばから冷ややかに見つめる男がいる。副総理の麻生太郎だ。

「菅は虚像が大きくなっている」

 麻生は菅が「令和おじさん」として一躍脚光を浴び、ポスト安倍として存在感を高めていったときから心中穏やかではなかったという。麻生は菅という人間を政治家として信じ切れないでいた。その理由が『喧嘩の流儀 菅義偉、知られざる履歴書』(読売新聞政治部・著)には克明に記されている。

菅は、安倍に「降りて幹事長狙いだ」と持ちかけた

 たとえば、麻生が2008年9月の首相就任直後に衆院解散を模索した際のいきさつだ。

「選挙対策副委員長だった菅は解散先送りを訴えた。内閣支持率の伸び悩みやリーマン・ショックの余波もあり、麻生は菅の言い分を受け入れて解散を断念した。だが、09年8月に行われた衆院選で、麻生率いる自民党は民主党に歴史的大敗を喫し、下野することになった」(同書より)

 また、民主党からの政権奪還を目指した12年9月の自民党総裁選では二人の間に食い違いが生じたという。このとき、麻生と菅はともに、総裁返り咲きを目指す安倍を支援した。国会議員と党員による投票の結果、トップに立った石破茂と2位につけた安倍晋三による決選投票にもつれ込んだのだが、ここで麻生と菅の間に、ひと悶着あったというのだ。

「菅自身は否定しているが、麻生によれば、『菅は決選投票の時、安倍に「降りて幹事長狙いだ」と持ちかけた』という。安倍は降りることなく国会議員票の上積みに成功し、総裁の座をつかんだ。菅の話題になると、麻生はよく、このエピソードを持ち出す。麻生は『おれと菅はあの時から決定的に違う』と考えていた。『菅は虚像が大きくなっている』」(同書より)

政治は“人のなす業”

 麻生と菅の間には別の因縁も生まれていた。原因は、麻生派の国土交通副大臣だった塚田一郎の発言である。19年4月1日、塚田は北九州市での集会で、現地と山口県下関市をつなぐ下関北九州道路構想に触れ、「安倍首相や麻生副総理が言えないので、私が忖度した。国直轄の調査(対象)に引き上げた」と語った。山口は安倍、福岡は麻生の地元である。野党は「典型的な利益誘導政治だ」と一斉に批判した。

「塚田は麻生の元秘書だった。子飼いの失言に、麻生は『辞めるほどのことではない』と守ろうとした。安倍も麻生への配慮からか、4日の参院決算委員会で『職責を果たしてもらいたい』と繰り返した。

 一方、菅は容赦なかった。『何の権限もないのに背伸びして』と塚田への不快感をあらわにし、水面下で塚田辞任に動き始めた。4日の参院決算委の後、菅は塚田に『身の処し方は自分で考えてほしい』と迫った。菅に引導を渡された塚田はこの夜、麻生に『迷惑をおかけした。辞任したい』と伝え、翌5日、国交相の石井啓一に辞表を提出した。

 塚田は17日に自民党新潟県連会長を辞めた。菅は『遅かったね』と突き放した」(同書より)

 政治家も人の子。付き合う期間が長いほど、恩義や恨みなどが重なって、相手に対するスタンスが決まっていく。政治は人のなす業なのだ。政権中枢の不協和音は、今後のコロナ対策にも大きな影を落とすに違いない。

デイリー新潮編集部

2020年12月21日掲載

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