「禊」のツールとなった「第三者委員会」再考――八田進二(青山学院大学名誉教授)【佐藤優の頂上対決】

佐藤優 佐藤優の頂上対決 ビジネス 週刊新潮 2020年9月24日号掲載

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問題だらけの報告書

佐藤 実際に第三者委員会の報告書のくだりを読むと惨憺たる有様ですね。ほとんど及第点に達していない。

八田 経営トップが自分に都合のいいメンバーを入れて、自分だけは免責してもらいたいという発想で作っている面がありますからね。

佐藤 格付け委員会全員が不合格のFをつけたのが、厚生労働省の「特別監察委員会」ですね。賃金や労働時間の動向を示す指標である「毎月勤労統計調査」で、本来とは異なる調査方法が用いられ、データに誤りがあることがわかった。これは国会でもずいぶん追及されました。

八田 この委員会にはまず「独立性」と「中立性」がない。委員長は慶應義塾大学商学部長も務めた樋口美雄氏ですが、厚労省から年間24億円の運営交付金をもらう労働政策研究・研修機構の理事長です。関係者への聞き取りも7割がた同省職員がやっている。もともと厚労省に内部調査チームがあり、それを横滑りさせたためですが、それなら「特別監察委員会」は名義貸しのようなものです。

佐藤 当事者の厚労省ファミリーで作った報告書ということですね。

八田 報告書の書式も官僚独特のものですし、内容も問題だらけです。「法令遵守意識の欠如」と何度か出てきますが、幹部職員までそれを欠いているなら組織の問題です。そこを追及していないし、その事実が伏せられてきたことも「本人が隠したつもりでないから隠蔽とは言えない」と、周囲に確認もせず、その証言をそのまま信じています。

佐藤 朝日新聞の慰安婦報道問題についての第三者委員会は、最低評価のDが3人、不合格のFが5人です。

八田 委員長は弁護士の中込秀樹氏で、他6名は評論家や作家、学者が並びますが、彼らの選定理由が明らかでなく、外部からはその独立性や中立性、専門性がわからない。

佐藤 外交評論家の岡本行夫氏や政治学者の北岡伸一氏、ジャーナリストの田原総一朗氏など錚々たるメンバーでした。

八田 慰安婦問題で虚偽の証言をした吉田清治氏の記事16本の作成経緯と、虚偽の可能性を知りながらなぜ記事を取り消さなかったのかという事実関係、そして朝日新聞の報道姿勢や体質などが調査対象になりました。しかし経営側による報道への干渉は十分に解明されず、焦点の一つだった国際世論に与えた影響については、委員がそれぞれ私見を開陳しただけの研究発表になっています。

佐藤 朝日新聞という頭のとてもいい人たちの集団ですから、他のメディアにいかに叩かれないかを十分計算して作った印象ですね。

八田 そもそも報道の自由を標榜する新聞社であるなら、第三者委員会に頼らず自力で真相究明するべきです。安易に第三者委員会に託したこと自体が問題です。

佐藤 別のやり方もあった。

八田 外国には第三者委員会はありませんから、企業の場合、まずは社外役員が中心になって真相究明に乗り出します。彼らは平時に役に立つことはまずありません。そうではなく、有事にこそ主体的に動き出すべき役割を担っているのです。

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