人口減少が進む日本で「戦略的に縮む」方法――河合雅司(人口減少対策総合研究所理事長)【佐藤優の頂上対決】

ビジネス 週刊新潮 2020年9月17日号掲載

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 昨年度の出生率がまた下がったところに、コロナ禍がやってきた。経済への影響が深刻化し、賃金が下がれば、結婚や出産を躊躇う人はさらに増えるだろう。これから顕在化する人口減少社会に歯止めをかけ、現在の生活水準を維持するには何をすればいいか。『未来の年表』著者による日本「再構築」策。

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佐藤 人口減少を続ける日本の未来の姿を描き出してベストセラーになった『未来の年表』(2017年刊)は、画期的な本でした。未来予測という点では、日本版の『ホモ・デウス』(ユヴァル・ノア・ハラリ著)だと思いました。

河合 ありがとうございます。でもそれは褒めすぎですよ。

佐藤 そんなことはありません。いま新書で3冊と、コロナ後の世界を描いた最新作『「2020」後 新しい日本の話をしよう』などがありますが、年表シリーズは有識者や新聞記者にはとても大きな影響を与えています。みんなこれらを参照しながら、状況を読んでいる。

河合 私は少子化に伴うさまざまな社会変化を「静かなる有事」と呼んできました。少子化は、国境で紛争が起きたり、目の前にミサイルが飛んできたりといった目に見える有事と同等、あるいはそれ以上に、国家を揺るがす大問題なんですね。

佐藤 人がいなくなれば、国家が成り立ちません。

河合 その通りです。少子化も高齢化も人口減も、いまや小学生が習うような時代になっているのに、この問題に対して日本中が鈍感すぎます。その鈍感さに非常に強い危機感を覚えています。

佐藤 2020年には「女性の2人に1人が50歳以上に」、24年には「3人に1人が65歳以上の『超・高齢化大国』へ」、そして日本最大のピンチと位置づけられている42年は「高齢者人口が約4千万人とピークに」と、トピックスの見せ方が絶妙ですね。

河合 やはり「見える化」をしないと、誰もこの問題に真剣に取り組まない。実は『未来の年表』を出す2年前に『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)という本を出しています。少子化問題について3年がかりで資料を調べて書き上げた本ですが、やや学術的で、アカデミックな世界では受け入れられたものの、市中にはあまり広がりませんでした。

佐藤 タイプ分けをすると、学術一般書ですね。

河合 そうですね。いい本にはなったのですが、読者は限定的でした。だからこの『未来の年表』はとにかく多くの人に届けようということで、編集者の力も借りて思い切って簡略化し、何年に何が起きるという形で書きました。

佐藤 少子化には今回のコロナも大きな影響を与えるでしょうね。

河合 もちろんです。事態はさらに深刻化しています。連日、コロナの感染者数が大きく報じられる中であまり話題になりませんでしたが、毎年6月に発表される厚生労働省の人口動態統計で、1人の女性が生涯に出産する子供数の推定値である合計特殊出生率が1・36にまで落ちたことがわかりました。これはコロナ禍前の2019年の数字です。このところ1・4台まで回復してきていたのですが、0・06ポイント下がった。

佐藤 数で言うと、どのくらい減るのですか。

河合 前年比で5・3万人も減りました。これまで政府は現実的、楽観的、悲観的と三つのシナリオを書いてきましたが、悲観的なシナリオにかなり近づいてきました。

佐藤 そこにコロナの感染拡大がやってきた。

河合 コロナの経済的な影響は非常に大きい。これから雇用が崩れていくでしょう。失業者が増え、同時に非正規雇用が増加する。多くの会社では業績も下がりますから、少なくとも賃金は下がり、収入が減る。

佐藤 将来の不安が増せば、当然、その中では子供を作らない選択をする人が増えます。

河合 少子化はさらに進んで『未来の年表』を書き換えなければならないほどの事態になってくるのではないかと思っています。

結婚=出産の東アジア圏

河合 もっともコロナがあってもなくても、日本の場合、少子化の最大の原因は結婚しなくなったことです。

佐藤 夫婦間で産む数の問題ではないということですね。

河合 これは東アジアの国々の特徴で、結婚と出産は一体化しています。つまり結婚しないと、子供が生まれない。

佐藤 文化や家族類型が関係しているわけですね。そうするとフランスのように婚外子の不利益をなくす政策をとっても、簡単には増えない。

河合 そうです。フランスがいい、日本が悪いという話ではありません。日本を含む東アジア全般の文化です。台湾などもその傾向が強い。

佐藤 考えてみれば、デキ婚も順序が逆なだけで、結婚へのプロセスになっている。

河合 結婚すれば、いまも夫婦間には、2人くらいは子供が生まれます。夫婦の最終的な平均出生子供数を完結出生児数と言いますが、最新の2015年の調査では1・94です。

佐藤 兵庫県明石市では、2人目からを支援していますね。暴言で話題になった泉房穂(ふさ ほ)市長が言っていました。1人目はよくわからないうちにできてしまう、そして子育てにはこんなにお金がかかるとわかったところへ、市として2人目の支援をする。するとそれを見て、明石へ引っ越してくれる人が出てくるんだと。その結果、明石市では人口の流入出がプラスになる「社会増」になっただけでなく、出生数が増え、死亡数を上回る「自然増」にまでなりました。

河合 日本では、結婚すれば子供が生まれます。どんな世論調査でも男女ともに8割以上、8割5分くらいがいずれ結婚したいと答えている。だからそれを叶えてあげれば、直接、出生率に跳ね返ってきます。

佐藤 でも実際には、結婚は簡単ではない。橋本健二氏の『新・日本の階級社会』を読むと、非正規労働者、つまりアンダークラスの男性600万人強の有配偶者率は25・7%です。

河合 日本の場合、統計的にだいたい年収300万円を割り込むと、途端に未婚者が増えます。

佐藤 年収300万以下は全労働者人口の4割と言いますね。

河合 そこに大学を卒業して就職した人もかなりいます。どうしてそんなことになってしまったかと言えば、日本の産業界が構造転換をしてこなかったからです。

佐藤 具体的にどう転換すべきだったのでしょう。

河合 戦後の焼け野原から出発した日本は、最初は欧米企業が作らなくなったもの、コスト的に合わなくなったものを、作り方から教わって製造し、復興してきたわけです。日本は、安い人件費で欧米人が満足できる品質のものが作れる唯一の国でした。しかも人口が増え、大きな国内マーケットもあった。

佐藤 高度経済成長は、人口ボーナスと言われていますね。

河合 それが1980年代以降、コンピュータの普及が進んでくる中で、日本以外の途上国でもそこそこの水準の製品が作れるようになってきた。そこで一人勝ちだった日本の経済モデルが破綻します。その80年代から90年代に、欧米のように高品質で付加価値のある商品作りにシフトしていかなければならなかったんです。

佐藤 でも成功体験に囚われて変われなかったわけですね。

河合 そこから日本は、人件費を圧縮して価格面での国際競争力を維持しようとしました。最初は中国人の人件費と争い、次にベトナムなどアジアの国々と競争していく中で、まず主婦パートなど女性を安く雇い、やがて正社員にも手をつけて、大卒の非正規雇用にも踏み切っていった。言うなれば、この国を支えていく人たちを犠牲にして、価格競争、薄利多売の発展途上国モデルを続けてきたわけです。

佐藤 個々の企業の生き残り戦略としては、それが合理的でしたからね。

河合 目先のことだけを考えるなら合理的ですが、当時は内部留保もあった。だから産業構造を転換して、日本人の人件費を上げる方向にシフトしていれば、若者たちは結婚でき、少子化もここまでではなかった。

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