コロナ禍で愛人と“おこもり”したタイ国王 国民は前代未聞の王室批判を展開

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 猛威をふるう新型コロナは、“微笑みの国”として知られるタイも襲った。5月26日現在、感染者数は累計3045人で、死者は57人。が、タイ国民にしてみれば、この騒動によって国王の奇行が世界に喧伝されてしまったことが、なによりの禍(わざわい)かもしれない。東南アジア情勢に詳しいジャーナリストの末永恵氏がリポートする。

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 3月末、タイのチャクリー王朝10代目「ラーマ10世」ことワチラロンコン国王(67)の振る舞いが、世界を仰天させたのをご存じだろうか。舞台となったのは、タイから約9000キロ離れたドイツ。国王は、側近数百人を引き連れ、アルプスを一望できる有名リゾート地・バイエルン州のガルミッシュ・パルテンキルヒェンにある高級ホテル「グランド・ホテル・ゾンネンビッヒル」を貸し切り、“コロナおこもり”ともいえる自主隔離生活を送っていたことが発覚した。第2次世界大戦時にはナチスの野戦病院としても使われていた歴史ある施設だ。スクープしたのはドイツ紙『ビルト』である。

 いうまでもなく、世界は新型コロナパンデミックの真っただ中。ドイツでも大規模な検疫が実施され、国境が封鎖されていたにもかかわらず、ドイツ当局はタイ国王の入国及び滞在を特別に許可していた。さらに驚くべきは、国王ご一行の中には、愛人20人を伴っていたという事実。コロナ禍の最中に、ドイツで“ハーレム”状態にあったというのだ。

 2016年12月に就任した国王は、3度の離婚歴の持ち主でもある。昨年5月には4人目の妻となるスティダー王妃と結婚している。ところが今回の自主隔離に、この新妻は同伴せず。『ビルト』は、「ドイツに同伴した国王側近のうち119人が新型コロナ感染疑惑でタイに送還された」と報じている。

『CEO WORLD Magazine』などによると、タイ国王は“世界一リッチな王”で、資産は約430億ドル。英エリザベス女王の個人資産の約80倍にも相当するという。日本のメディアでは報道されていないが、今回の大胆すぎる“自主隔離”について、英紙『タイムズ』が「コロナパンデミック中、どうやら国王は、2月から海外で“自主隔離中”のようだった」と書いたほか(ドイツ以前にスイスのチューリッヒでも目撃談があったそうだ)、英紙『インディペンデント』、仏紙『ル・モンド』、米紙『ニューヨーク・ポスト』といった世界の主要メディアが報じているのだ。

 タイは、中国・武漢在住者から最も人気の旅行先とされ、昨年12月からの春節休暇期間中には、およそ2万人が訪れていた。1月13日に国内で初の感染者が確認され、国王の“自主隔離”が発覚した3月末には、感染者が1500人を超え、死者十数人の非常事態宣言下にあった。ロックダウン措置もとられ、予測されていた失業者数は1000万人。生活苦による無理心中なども発生し、まさに国家的な危機的事態にあった。

 当然、タイの国民の怒りは爆発。タイ語で「我々はなぜ、国王が必要か」というハッシュタグが登場し、ツイッターには国王を批判する150万件以上の投稿が寄せられた。このタグは、一時タイ国内の「Twitterトレンドワード」トップになったほどだ。

 厳しい批判を受けた国王は、歴代国王を恭敬する重要儀式のため、4月6日の「チャックリー王朝の日」に一時帰国したものの、翌日、ドイツにトンボ返り。5月1日になって、タイ政府は「国王が見守る中、スティダー王妃が国民に配布するマスクを縫う写真」を公開した(ちなみに日本のJUKIミシンを使用)。コロナ禍で失業者が相次いでいる中、国民の怒りの矛先は政府へと向かっている。写真公開は批判をかわす目的だったろうが、SNS上に巻き起こる非難の声は止まらなかった。

 しかし、タイ国内でこうした国王批判が展開されるのは異例のこと。タイには、国王や王妃、王位継承者、さらには国王の愛犬の“ロイヤル・ドッグ”までも対象に、批判や侮辱を厳しく罰する「不敬罪」(刑法112条)が存在しているからだ。これまで、例年、平均で数十人単位が逮捕・起訴されてきた(ちなみにロイヤル・ドッグを侮辱し、86日間拘留されたケースがある)。

 こうした厳しい法律があるだけに、国民は王族批判を公には行えなかった。それだけに、今回の批判噴出は前代未聞といえるのだ。

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