【追悼】志村けんさん 生前に語った結婚観「子供をつくってバカ殿2世をやらせたい」

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 新型コロナウイルスによる重度の肺炎を患い入院中だった志村けんさんが、3月29日に逝去した。生涯独身を貫いた志村さんについて、私たちは「なぜかいつまでたっても結婚しない人」という印象を持っていたのではないだろうか。しかし、自伝『変なおじさん 完全版』(新潮社刊)を開いてみると、結婚して子供をつくりたいと願いながらも、家庭を持つことへの葛藤を抱えていた、「変なおじさん」の生身の姿が浮かび上がってくる。

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独身を続けた理由

 まだ独身を続けている。その理由は、きっと僕がわがままだからだろう。一緒に暮らしていても、どうしても仕事中心の生活になっちゃう。だから1週間のうちでも、一緒にいて欲しい時と一緒にいて欲しくない時期が出てくる。本番が近づくと、そばに寄ってこられると嫌になる。ましてや本番の日は、特にピリピリしているし。

 コントを考える時も、あまりそばにいて欲しくない。そんなふうに一緒にいたくない理由が僕の勝手だから、相手に説明できない。それが困る。今すぐ出てってくれとか言えないし。それを言って、気まずくなるのが嫌だから。僕はもめ事がすごく嫌いで、「自分が我慢すりゃあいいや」と思っちゃう。

 だから今の理想は、週のうち4日一緒にいて、3日別々にいる関係だ。ずっと別々は嫌だ。夜寝る時に、やっぱり寂しいから。寂しい気持ちをやわらげるためにつきあうわけじゃないけど、人間は一人じゃ生きていけない。だから今度は失敗しないようにしたい。できれば妻も子供も、そして家族も欲しい今日このごろである。

 まだ独身の僕だけど、子供は欲しい。もう果たせないことだけど、オヤジと酒を飲むのが夢だった。時々だけど、実家に帰って兄貴たちと一緒に酒を飲んでると、兄弟っていいなあと思う。子供の時はあんなにケンカばかりしたのに、大人になってみたら、何も言わなくてもわかりあえるものがある。そうやって兄弟で酒を飲んでると、ふと、ここにオヤジがいてくれたら、どんなに楽しかっただろうと思う。

 だから、今度は自分が早く男の子をつくって、子供と一緒に酒を飲んでみたい。それでクラブやソープにも連れてって、というのが昔からの願いだった。でも、もう50歳になっちゃうからなあ。早く子供をつくらないと、子供が20歳になったら、僕は70歳だ。それもきついな。

 でも、もし子供ができたりしたら、コントにも影響が出そうだ。ネタが変わってくるんじゃないかとひそかに思っている。振り返ってみると、お笑いの世界に入ったころは、一人前になったら結婚しようと思ってた。けど、この仕事というのは、なかなか一人前になれないものだ。「ウソつけ、コノヤロー」って思われるかもしれないけど、自分では今でも新人の気分でいる。お笑いの仕事に百点満点はない。その点で、まだまだ中途半端だと思ってる。

 ということは、お前は一生結婚できないんじゃないかって? そう言われれば、そういうことかもしれない。最近は僕も、いい仕事をするためには、いい家庭が必要だと思うようになってきた。

子供をバカ殿2世にするのが夢

 結婚のことは、おふくろからもずいぶん言われている。昨年の秋の話だけど、おふくろの80歳の誕生日を祝う会があった。久しぶりに兄弟3人がそろって、親族10人くらいが集まって食事をして、花を贈ったら、おふくろが「私のために集まってくれて…。長生きしてよかった」なんて泣いてる。それで僕も、おふくろが元気なうちにがんばらなきゃいけない、と思ってたら、「お前が結婚するまで死ねない」だって。おふくろからはけっこう電話がかかってくるけど、決まって「誰かいい人いないの」という話になる。

 3人兄弟のうち独身は僕だけで、兄貴たちのところはそれぞれ子供がいて、もう大学を卒業して働いている。おふくろには「早く孫の顔が見たい」って、しょっちゅう言われている。

 僕も、子供が欲しいというのはすごくある。こないだ中山秀征とゴルフに行ったら、「子供ができると変わりますよ」って言ってた。渡辺徹やスタッフなんかも同じようなことを言ってたけど、子供の話になると僕は入っていけない。

 ほんとにかわいいみたいだ、自分の子供って。僕も早く子供をつくって、顔を白く塗ってバカ殿2世にして、親子で共演するのが長年の夢だ。まあ、そのあたりは自然に任せるしかないんだけど。

 けど、結婚となると、考えてしまう。ものをつくってる人はある程度自由じゃなきゃいけないし。人のよさを売ってる人とか、もっともらしい家庭人を演じるのならいいんだろうけど、お笑いはどうかなあ。もちろん、家庭でいいお父さんで、いい夫婦で、なおかつ仕事もできるって、両方できる人は立派だけど。僕はできる自信がないから。自信があるのは仕事だけだ。たけしさんも、一緒にゴルフをやってて、「やっぱり芸人は結婚しないほうがいいんじゃないの」と言っていた。

 第一、自分のこともよくわからないのに、相手のことをわかれ、というのが僕には難しい問題だ。自分で正直に生きてるつもりでも、時々こんなふうに見えたらいいなって、仮面をつけてる時がある。一人きりでもそんな時があるんだから、本当に正直になれる時って、ないんじゃないかとも思う。

 で、自分が幸せな時っていつだろう、と考えたら、やっぱりコントをやってまわりが笑ってくれる時が一番幸せだ。ウケてる時が。特に舞台で会場が揺れるほど笑いが起きる時。それ以上の幸せが、夫婦になったからといって手に入るのか? そう考えたらね…。

 子供は、さっきも言ったように、自分が生きてた証拠という意味でも、欲しいと思ってる。けど、夫婦ということは、本当は真剣に考えたことがない。というか、本気で考えたくないのかなあ。でも、寂しいのはたしかだ。

 今、家に犬が4匹いる。犬たちは、僕が飲んで遅く帰っても、「どこで?」「誰と?」とも聞かないし、よけいなことも言わない。でも、いい仕事をした時に、誉めてもくれない。好きな人がそばにいるのが、やはり一番だ。

デイリー新潮編集部

2020年4月9日掲載

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