【新型コロナ】チーム・バチスタの著者が10年前に予見した「パンデミックの現状」が話題

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 新型コロナによる経済的損失はもはや想像のつかない領域に入りつつある。

 日本では様々なイベントが中止され、TDRをはじめ多くのアミューズメントパークが閉園。日経平均株価も3月9日に、およそ1年2カ月ぶりに2万円を下回り下落傾向は止まらない。

 世界全土で人の行き来も制限されつつあり、英調査会社オックスフォード・エコノミクスは、新型コロナウイルス感染のパンデミックで、世界の総生産が1兆1千億ドル(約121兆円)減少すると試算している。

 労働者が仕事を休まざるを得ない状況に追い込まれたことによる生産性の低下、旅行需要の減退や、物流網の混乱、貿易と投資の減少による影響を積み上げた数字だ。

 そんな中、現状をなぞらえるような小説が再読されている。

 1冊目はアルベール・カミュの『ペスト』。

 ノーベル文学賞も受賞している著者による不朽の名作であるものの、約70年前に発表された作品が新型コロナウイルスの流行後の1月下旬から売り上げが急増した。

 外部と遮断された孤立状態の中で、猛威を振るうペストにより、突如直面する「死」の恐怖、愛する人との別れや、見えない敵と闘う市民を描いた『ペスト』はTwitterで「武漢の状況を見ると『ペスト』を思い出す」という投稿が相次ぎ、直近の売り上げは、新型コロナウイルスが話題になる前の13倍を超える。半世紀前に邦訳版が刊行された書籍が、ここまで大きな反響を得ることは極めて異例だ。

 そしてもう1冊「今の騒動とぴたりと重なる」とTwitterで話題を集めているのが「チーム・バチスタ」シリーズの著者である海堂尊の『ナニワ・モンスター』だ。

『ナニワ・モンスター』は医師でもある海堂がちょうど10年前に執筆した小説だが、たしかに現状との類似点の多さには驚かされる。

 作中では「キャメル」という名の未知のウイルスが国外から持ち込まれたことが騒動のきっかけになっている。

 咳、のどの痛み、痰、急激な高熱、吐き気などの症状を引き起こす「キャメル」の患者が急増したことにより、クラスター発生源とされる都市が封鎖される。パニックを起こす住民、過熱の一途をたどるテレビの報道、風評被害の末に待つ大規模な経済打撃……。

 まさに「新型コロナウイルス」が世界に与える影響を予見しているかのようだ。

 海堂は医師ならではの視点で新型ウイルスに翻弄される日本人の姿を迫真の筆で描写する。

 作中で主役の一人である医師が語る言葉が非常に印象的だ。

「季節性インフルエンザの死者は毎年相当おる。2003年~04年のシーズンには2400人、2004年~05年には1万5千人が死亡してると厚労省のホームページに載ってる。それと比べたら新型のキャメルは、蔓延してる国でさえ死者が100人台で、弱毒性疾患なのは明らかや。なのになんでこんな大騒ぎするんか、不思議や」

 そして、パニックの打開を託される検疫官はこう問いかける。

「ウイルスは宿主の制御を外れ増殖する。そう考えれば地球にとって人間はウイルスの一種と同じだよ。そいつらが勝手に増殖すれば、地球にとっては感染症だろう? すると今私たちと相対するウイルスが別の見え方をしてくる。何だと思う?」

 こうした皮肉な見方もあろうが、只中にいる私たちにとっては死活問題だ。人々が世界を行き来し、交流し、触れ合うことでこのウイルスは広がっている。例えばこれが庶民の旅行が認められていない社会であったり、移動手段が未発達な中世であればここまで被害は拡大していないはずだ。人類の叡智ともいえる“自由”こそがこの状況を生み出している。同書で著者は医療や行政、社会のありかたにまで言及し、人々が叡智を結集し、ウイルスを封じ込めてゆく様子を描いている。

 現実社会を生きる私たちも力を合わせ、新型コロナウイルスに打ち勝たねばならない。

デイリー新潮編集部

2020年3月20日掲載

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