悪徳支援業者に連れ去られPTSDに…「ひきこもり問題」裏の裏

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 ヒット漫画『「子供を殺してください」という親たち』では、精神疾患を抱え、ひきこもりとなった人を救出する様が描かれる。ただ、先ごろ判決の下ったひきこもり支援業者を巡る裁判はそれとは随分と違う様相を浮き彫りにしていた。その背景を探ると……。

 件(くだん)の裁判は、東京・調布市の「エリクシルアーツ」というひきこもり支援の業者を相手取り、30代の女性とその母親が起こしたものだ。

 コトが起きたのは、2015年9月。業者の職員が一人暮らしをする娘のマンションの玄関のチェーンをバールで壊して立ち入り、業者の寮であるアパートに連れ去った。翌年1月に彼女は脱出し、今もPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされている。結果、昨年12月26日、東京地裁は業者に約500万円を支払うよう命じたのだ。

 女性の代理人・望月宣武(ひろむ)弁護士によれば、

「もともと母娘の関係が悪く、ある日、口論になって娘が母を平手で叩いてしまった。気が動転した母親は解決策をスマホで検索するうちに業者を見つけ、相談を持ちかけました。娘はひきこもりではなかったのに、業者から7時間近く説得され、契約してしまう。額は約570万円。娘は脱出を試み、連れ戻されることもあった。裁判では認められていませんが、暴力を受けたり、長時間の正座も強制されました」

 エリクシルアーツは控訴せず、判決は確定済。昨年、元農水次官がひきこもりの息子を殺害した事件もあり、問題への関心が高まる一方、悪徳業者もいるわけだ。

「親が業者と契約するのは、子供がひきこもりとなり、行政に相談しても改善せず、何年も悩んで、というのがほとんどです。業者は当人を一軒家などの施設に連れ出し、似たような境遇の人と共同生活をさせます。お金や携帯などは没収、行動を厳しく制限し主従関係を作っていくのです」(同)

 3カ月単位で契約することが多く、期間を過ぎると、契約を更新させようとする。だが、今回のケースは特殊なものだった

「億単位の金」

「今回、裁判になっている女性はアルバイトをしていたので、そもそも、ひきこもりではありません」

 とは、『「子供を殺してください」という親たち』の原作者であり、同名のノンフィクションの著者である押川剛氏。漫画でも描かれる(株)トキワ精神保健事務所の創業者だ。

「家庭内のトラブルが原因のひきこもりを業者に丸投げすれば家族の問題はますますこじれます。私どもが手掛けるのは、そうした事案ではなく、精神疾患を持つ方を対象にした移送サービス。その場合、ひきこもりは重症化しているケースが多く、長期間、家族が手をつけられずにいるのです」

 精神疾患であるかどうかは、普段の生活から病気の特徴を観察して見定める。

「誰かに見張られている、盗聴されると言って窓に目張りをする、鍵を複数取りつけるなどです。精神疾患が疑われれば、私どもが家族と一緒に保健所へ。ただし、行政が介入するケースは少ないので、精神科病院に相談します。入院が必要と判断されれば、本人と関係を築き、根気よく説得します」

 そうした経験から、先の問題はさらに根深いと押川氏は指摘する。

「入院させても退院した後、親が面倒を見切れないケースがあります。すると、民間の施設に億単位の金を払い、丸投げする。重度の精神疾患を持つ方が適切な治療を受けられず、10年、20年とその施設の管理下に置かれることになるのです。なぜかこういう問題は報道すらされません」

 ひきこもり問題の裏の裏、である。

週刊新潮 2020年1月23日号掲載

ワイド特集「ガラスの人間動物園」より

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