「“反権力”は正義か」 ニッポン放送飯田浩司アナウンサーはなぜ独自のスタンスを貫いているのか

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 テレビのニュース番組の「キャスター」やそれに類する立場の人は、基本的にあまり自身のスタンスを明確にはしない。局アナがキャスターを務めるNHKでは特にその傾向が強い。また、「偏向」といった批判をよく浴びる「報道ステーション」のような番組であっても、キャスター自身はあまり主張を強く打ち出さず、隣にいるコメンテーターに番組側の望むコメントを出してもらう、というのがよくあるパターン。

 多くの場合、意見が対立している問題については「関係者が納得する結論が待たれます」「難しい問題ですが、解決が望まれますね」。

 政権の関連した疑惑では「襟を正す必要があります」「より丁寧に説明してほしいものです」

 こんな感じのあたりさわりのないコメントを口にして、「それではスポーツです!」と次の話題にいくというのが定番と化している。

 その点、ニッポン放送アナウンサーの飯田浩司氏の「伝え方」は、ラジオの強みを活かし、かなり独自の路線を走っていると言えるだろう。

 パーソナリティを務める「飯田浩司のOK! Cozy up!」(ニッポン放送 月~金:朝6時~8時)で、飯田氏は時に「これがアナウンサー?」と思える熱量で、コメンテーターと共に政治や経済の問題を語る。最近で言えば、消費増税について、増税前はもちろんのこと、増税後でも「本当にこのままでいいのか!?」と熱く疑問を呈し続けている。一方で、安保法制の議論が活発な時期には、大新聞の「反対」一辺倒の姿勢に疑問を投げかけていたこともある。

 早朝の番組ながら、安全保障や外交、経済のテーマを多く取り上げ、専門家に話を聞いているのも異色だと言えるだろう。こうしたスタイルには賛否両論あるのだろうが、熱烈に支持するリスナーも多く、同番組のポッドキャストは常に上位にランクインしている。また、番組コメンテーターと共に行うトークイベントは有料にもかかわらず、ホールクラスの会場が満員になることも。

 独特のスタンスはどこから生まれているのか。初の著書となる『「反権力」は正義ですか ラジオニュースの現場から』を刊行したばかりの飯田氏に聞いてみた。

「番組で政策について扱う時には、常に是々非々で考えるようにしています。当たり前ですが、政府の味方をしようとか、政権を擁護しようといった考えで番組を作ったり、喋ったりすることはありません。気を付けているのは、エビデンス(論拠・証拠)があるか、きちんとしたロジックがあるか、という点だけです。それに基づいて議論を深められれば、と。それらがなければ印象論になってしまいますから。

 日替わりで登場していただくコメンテーターの方も、何らかの分野に精通していたり、きちんとしたロジックをお持ちの方ばかりです。

 安保法制の議論が活発だった頃、番組では反対一辺倒の伝え方はしませんでした。その頃から特に『政権寄り』といった批判の声をいただくようになりましたね。憲法改正といったテーマでも同様の反応がありました。

 しかし、これまで政府から要請も圧力も受けたことなんかありません。味方しようなどという考えもありません。
 そもそも、消費増税をはじめとした経済政策についてはかなりしつこく、疑問を投げかけ、コメンテーターの中には政権に批判的な意見を述べる方もいます。

 また、小沢一郎さん、山本太郎さんをはじめ、野党の議員の方々にも多く登場していただき、じっくりお話を伺っています。

 それでも、少しでも現政権を評価したことを言うと、『政権寄り』と批判されることが珍しくありません」

 最初に述べたように、多くのニュース番組、情報番組はある種の定番コメントを多用しながら「何となく反権力」的なテイストを醸しだしていることが多い。それだけに、飯田氏のような「是々非々」のスタンスは目立つのだろう。

「多分、私の喋り方には以前番組で御一緒していた辛坊治郎さんの影響があるのだと思います。辛坊さんは、時々脱線気味なくらいに熱く持論を語っていらっしゃいましたから。私のロールモデルのおひとりです。

 エビデンスよりも『反権力』的なスタンスを最優先する人が多いのはなぜだろう、とあるコメンテーターの方とお話ししたことが最近ありました。

『結局、そのほうがラクなのかなあ』というのが結論でした。

 とにかく政権を批判する、という具合にスタンスを最初に決めてしまえば、エビデンスなしでももっともらしいことが語れるのです。ロジックをきちんと考える必要もない。

 特に高校、大学時代にある種の思想に影響された世代の方なんかは、そういう方向に進んだほうがラクなのかもしれませんが……。

 反権力か親権力か、右か左かといった党派性を出して他者を批判したり擁護したりする前に冷静に政策を分析する場が必要なはずです。ところが多くのメディアは初めから立ち位置を決め、お互い遠くから石を投げ合いレッテルを貼り合うという状況が続いています」

 こうした考えを端的に述べている文章が、同書の「はじめに」にある。

「例えば、『マスコミの使命は権力と戦うことだ』という意見をよく聞きます。実際にニュース番組をやっているとそうした趣旨で諭されることもあります。

 なるほど、国が進むべき道を誤りそうなとき、マスコミが警鐘を鳴らすべきだという意味では完全に同意します。ならば、報道に携わる人間は政策についてよく学び、国民への影響、メリット・デメリットを是々非々で評価すべきなのではないでしょうか。

 ところが、マスコミの中では多くの場合、『是々非々=権力寄り』と評価されてしまいます。実際に私個人や番組も、少しでも政権について肯定的な考え方を伝えると、そうした評価をされてきました。なぜ是々非々が迎合なのでしょうか?」

 この「是々非々」のスタンスを維持するには、取材や調査が不可欠となる。飯田氏が繰り返し強調するのが「エビデンス」の重要性だ。そのためには自分で資料を読み込む。『「反権力」は正義ですか』の中では、公開資料を読み込んだうえで、加計学園問題についての自説を述べている章もある。

「ラジオはマンパワーも少ないので、自分で資料を読み、取材に行かなくてはなりません。『そこまで手間をかけなくても』と言われることもないわけではないんですが、調べることを怠らないようにしています。

 たとえば最近では、イランのミサイル攻撃で『80人が死亡した』という情報が第一報として出回ったことがありましたが、この時も、イラン側の発表だけでは危ないぞ、と感じたので、そのまま伝えずに、さらに調べるようにしました。見出しをうのみにして、そのまま流すと危ない、と思ったのでその情報を番組の告知などで流すことはストップしたのです。結果として、その第一報はイラン側の宣伝だったのですから、正解だったと思います」

 資料を読み込む以上に、飯田氏が重視しているのは現場取材だ。取材先で名刺を出すと「アナウンサーが自分で取材しているんですか?」と驚かれることもしばしばだ。しかし、早朝からの生放送を終えてもできるだけ現地に出向いたり、勉強会に顔を出したりすることを欠かさないようにしているという。『「反権力」は正義ですか』には、沖縄、福島、香港等々での取材の成果も盛り込まれている。

「被災地などでは現地の方にご迷惑をかけないよう細心の注意を払いながら、取材に行きます。スタジオにいるだけでは、どうしても現場の空気とかけ離れた放送をしてしまいがちです。大手メディアの報道や、ネットからもこぼれ落ちるような情報があります。最近では、千葉の台風被害などの現場でそれを痛感しました。

 現場に行くことで、スタジオと現場の空気の差を埋めることができればと考えています」

デイリー新潮編集部

2020年1月23日掲載

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