西日本豪雨から1年 「賀茂台地」に実る絆――かがやいてる、元気な農家

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 1日にして多くの人の暮らしや営みを奪う自然災害。令和元年も全国各地で台風や豪雨の被害が広がっています。改めて被災された地域の皆様に心よりお見舞い申し上げます。

「平成30年7月豪雨」(西日本豪雨)では、14府県で死者・行方不明者の数が270人を超すという平成最悪の水害となりました。とりわけ大きな被害を蒙ったのが、130人以上の犠牲者を出した広島県。今回、私が訪ねた東広島市河内(こうち)町の宇山地域でも、集落のあちこちに流木や大きな石が見られるなど、1年以上を経た今も豪雨の爪痕が色濃く残ります。

 広島県の中央部に広がる賀茂台地。その一角を占め、標高350メートルの山紫水明の地・宇山の集落で、複合農業を展開されているのが、「農事組合法人うやま」の皆さんです。

 代表理事の坂田正広さん(74)によると、同法人が発足したのは、今から9年前のこと。法人が地区の68戸の農地を預かり、水稲、麦、そば、アスパラガス、白ネギ、大豆などを作付けし、地域の農業を守ってきました。7月豪雨では管理する40ヘクタールの農地のほとんどが被害を受け、「途方に暮れた」と坂田さんは振り返ります。「半数が壊滅的。農道は土砂で塞がり、行くことができない農地もあった。被害を免れた水田も水路が壊れ、水を通せない。鳥獣害防止の柵も流され、イノシシやシカに荒らされるのに任せる以外なかった」。それでも、「生活道や水の確保など、自分たちでできることは何とかした」と坂田さん。地域農業を担う同法人の苦境を前に、地元のJA広島中央が支援に乗り出します。「JA広島中央をはじめJAグループから、述べ200人にも及ぶボランティアの支援をいただいた。有り難かった」

 水路の使えない水田は大豆や白ネギ、青ネギの畑へと転作を図る中、希望の灯を点したのは、5年前から「新たな収入源」にと取り組んできたアスパラガス栽培でした。

「幸い、ハウスも露地の畑も無事。ちょうど最盛期を迎えていたが、JAグループ支援隊に収穫や草刈り作業を手伝ってもらい、助かった」と話す坂田さんの横で、アスパラガス栽培の責任者の安本明雄さん(33)が「目標は県下のナンバーワンになること。いずれ現在10トンの収穫量を倍にしたい」と誓います。

 広島県の他地域出身の安本さんは、この法人の仲間になって3年目。アスパラガス栽培はゼロからの出発でしたが、今では「世話をかければかけるだけ応えてくれる」とすっかり、今の仕事に溶け込んでいます。

 新鮮な風味があり、栄養価の高いアスパラガスは私も大好物です。が、栽培現場を見るのはこれが初めて。ユリ科の植物で、株の養成に2~3年かかり、収穫開始後は10~15年間ほど収穫可能なことなどを知り、改めてアスパラガスへの興味が湧いてきました。実際、とれたてを生で食べてみると、甘みがあり、とても美味しいのに驚きました。

 集落の中心には、旧宇山小学校の廃校を活用した宇山地域センターがあり、地域の人たちの憩いの場となっています。併設の「さわやか茶屋」では、地元で収穫し挽いたそば粉で打ったそばが食べられ、大人気です。元小学校のプールには豊富な地下水が貯水されており、それがパイプラインを通してアスパラガス栽培のハウスや露地の畑に届けられます。その創意工夫には脱帽するばかり。

 源流水で米づくり 豊かな土でそば作り 皆で生かす我らの農地 明るく楽しく共同作業 収穫の顔幸せ一杯――。農事組合法人うやまが掲げるキャッチフレーズの通り、災害を乗り越え、今、宇山の里には大きな絆が実ろうとしています。

 JA広島中央は、1997(平成9)年、旧東広島市・旧賀茂郡の8JAが合併し、誕生した。管轄するのは、広島県のほぼ中央部に広がる賀茂台地。山々に囲まれ、豊富な水資源に恵まれた農地では、稲作を中心に、アスパラガス、ナスなど、多彩な作物を生産している。日本酒の銘醸蔵が集中する酒都(しゅと)・西条を管内に擁し、酒造米の栽培も盛んだ。

 昨年の7月豪雨では、JA広島中央の管内でも、14人の犠牲者(死者13・行方不明者1)を出したうえ、全壊・床上床下浸水などの住宅被害は938戸、土砂流入、冠水などの農地被害は1448ヘクタールに及んだ。JA広島中央の河野孝行組合長が言う。「共済金の素早い支払いはもちろんのこと、管内の組合員全戸の聴き取り調査を行い、被害の全容を把握すると共に、被災された組合員には見舞金を支給させていただきました」

 JAの施設も被災した。三原市大和町(だいわちょう)のカントリーエレベーターが土砂崩れで破損し、多くの共同利用施設が全半壊。「9月上旬の米集荷に間に合うよう、迅速に復旧工事を進め、水路も今年3月末までに復旧を目指し、田植えの時期に間に合うよう全力を挙げ取り組んだ」

 豪雨被害が原因で農家が営農意欲を失い、耕作放棄地が増加するなどの影響も懸念される。そんな中、今年5月、JA全農ひろしまとの共同運営となる「とれたて元気市 となりの農家店」がオープン。復興の拠点となることが期待されている。

「農家の皆さんが“作る楽しみ、売れる喜び”を感じてもらえれば幸い」と河野組合長。中国・四国地区のJA山口県(旧JA山口中央が4月に合併)、JA鳥取中央、JAえひめ中央、JA佐伯中央、JA広島中央の5JAが「JA中央サミット」を編成した動きも注目を集める。農産物の販売連携や人材交流、自然災害の相互支援。協同という名の連携力が復興への歩みを加速させてゆく。

村上佳菜子の目
アスパラガスは私の大好きな野菜のひとつ。でも、とれたてのシャキシャキを生でいただく味は格別でした。昨年、西日本を襲った豪雨は記憶に新しいところ。中でも被害の大きかった広島県の山間の里で、農地を復旧させるべく努力されている農家やJAの皆さんの姿に接し、頭が下がる思いです。しかも、復興へ取り組む姿勢はどこまでも前向きで、取材する私の方がエネルギーをいただいたような気がします。「とれたて元気市」はとても品揃えが豊富でびっくり。こんな素敵な産直市が身近にある東広島市の皆さんが本当に羨ましい。

[提供]JAグループ [企画制作]新潮社 [撮影]荒井孝治 [ヘア&メイクアップ]岩澤あや [スタイリング]吉田謙一(SECESSION)

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