性暴力に遭わないための具体的なアドバイスまで フィンランドの性教育はここまで教えていた

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 7月3日放送の「クローズアップ現代+」(NHK)が扱ったのは、レイプドラッグを巡る問題。相手が知らぬうちに、飲食物に睡眠薬などを混ぜてレイプに及ぶ、といった事例が多発しているのだという。

 こうした性暴力からどう身を守るかについて、日本では子どもや若者に学校で教えることはまずない。そもそも性教育そのものに積極的ではないので、ましてや性暴力のことなんて……というところだろう。

 他方、性教育の分野で先進的とされているのが北欧だ。実際にフィンランドで子育てをした経験を持つ岩竹美加子氏の著書『フィンランドの教育はなぜ世界一なのか』によれば、同国はセクシュアリティを「人生を豊かに生きていくための大切な要素」と位置付けているため、小学校の頃から、性交、妊娠、出産などについても教えている。このあたりのことは、よく取り上げられ、議論の俎上に載るのでご存知の方も多いだろう。「子どもに避妊まで教えなくていい」という意見も、日本では根強い。
 しかし、同国の教科書で教えているのはこれだけではない。

 何と「性暴力」についても正面から取り上げているのだ。岩竹氏は、同書で中学3年生用の保健の教科書『ナビゲーター、私はここにいる』を紹介している(以下、引用はすべて『フィンランドの教育は~』から)。

 この教科書では「性暴力と知人による暴力」という章を設けた上で、性暴力を次のように説明している。

「性暴力は、自分の意思に反して起こる性的な行為である。例えば、性的なほのめかし、中傷、触ること、誘導すること、圧力をかけること、強制すること等で、対面で、或いは携帯やインターネットなどを通じて起きる。それを我慢したり、受け入れたり、それに従ったりする必要はない。中学2年生の男子の5分の1、女子の4分の1が、こうしたことを経験している」

「性暴力は、知り合いから受けるケースが多い。隣人、交際相手、同級生、友人、親戚、新しい知り合い。加害者が知人であり、時には愛する人であるということが、他人にそれを話しにくくし、時には恥ずかしいとさえ思わせてしまう。被害者は、たまたま起きてしまっただけだとか、誤解だったとか、自分が悪かったとか考えてしまう。起きた事を忘れ、まるで何もなかったかのように思いたくなる」

「もし、被害にあった場合は、一人にならず助けを求めなさい」
 
 レイプドラッグに関連した記述もある。

「薬物を使って眠らされ、抵抗力をなくした人に対する性的侵害は、犯罪である。たとえば、触ること、写真を撮ることは禁止されている」

 また、こんな注意も。

性暴力が起きた時の具体的な対処策まで

「外見から、性暴力をふるう人を見分けることはできない。美貌、裕福、人気者、頭脳明晰、若い人かもしれない。(略)性暴力は、表に出にくい犯罪である。警察に通報されるのは、実際の行為のごく一部にすぎない。行為について警察に通報したくない、する勇気がない、できない等と感じやすい。それは、若い人にとって性暴力が理解を超える経験で、それが犯罪であると理解していないからである」

 そして、被害に遭った際の対処法が実に細かく、具体的に示されている。

「信頼できる人に話す。助けを求める。一人で抱え込まない。警察に通報する。72時間以内に起きた場合はシャワーを浴びたり、服を着替えたりしない。着替えた場合は、警察の捜査のために洗濯しないでおく」

 捜査に至った時のことまでも視野に入れて教えているのだ。さらに情報を得たり、支援を受けたりできる機関の連絡先まで掲載されているのだという。

 社会の、あるいは人間の暗部について教えることを日本の教育は嫌う。しかし、子どもを狙った性犯罪は日本でも数多く発生しているのは周知の事実。毎年千人前後の13歳未満の子どもが強制わいせつの被害に遭っている。これはあくまでも警察が把握している人数なので、実際にはその何倍もいると見ていい。

 残念なことではあるが、子どもにこうしたことも教える必要がある時代なのかもしれない。

デイリー新潮編集部

2019年7月11日掲載

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