「子殺し」が止まらない──「虐待」の連鎖を生む「児童相談所」の厳しい現実

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虐待が原因で死亡した子供の数は、2016年度は49人

「子殺し」が止まらない。今年1月、千葉県野田市で小4の栗原心愛(みあ)さんが父親の虐待で亡くなった事件、昨年、東京都目黒区で5歳の女の子が虐待死した事件。

 厚生労働省のデータによれば、全国の児童相談所(児相)における「児童虐待相談対応件数」は年間13万件をゆうに超える。この数は統計を取り始めた1990年から減ることは一度もなく、毎年記録を更新している。そして、虐待が原因で死亡した子供の数は、2016年度には49人だったという。

 心愛さんの事件でも話題となっているが、子供の虐待死事件で必ず問題視される児相とは、どのような施設なのか。「選択」編集部編『日本の聖域(サンクチュアリ)―アンタッチャブル』では、その内情について詳細に報告している。「児相は公務員の職場としては下位に属する」という元・児相職員の告発を紹介、そしてこう続く。

「行きたくない職場」

〈すべての部署と比べても職員が「行きたくない職場」が児相なのだ。公務員の異動ペースは特殊な事情がない限り、2、3年おきだ。つまり、児相にいるのは、業務命令によりやむを得ず籍を置き、やがてまた別の部署へと去っていく「お役人」という人種なのである〉

 組織は極めて「官僚的」で、「とかく平穏無事を希求」する。「担当者の責任でできるならやればいい」と言い放つ上司も少なくないという。

 児相には「児童福祉法」で規定された「福祉司」を置くことが決められているが、それも〈一皮剥けばただの公務員〉だと、同書では指摘している。心理学、教育学、社会学などの必要な科目を履修し児相に1年勤めれば福祉司の資格は得られるが、同法によれば「社会福祉主事として2年以上児童福祉事業に従事した者」にも資格が与えられる。しかしその〈社会福祉主事とは、通称「3科目主事」とも言われる公務員の肩書き〉なのだ。

 つまり、社会福祉概論や社会福祉行政論、老人福祉論などといった福祉関係の単位だけでなく、たとえば経済学、法学、民法など、厚労省が指定した34科目のうち、たった3科目を履修していれば、社会福祉主事の資格が取得できるのである。

 同書では、さらに驚きの児相の実態をレポートしている。保護された子供はほとんどの場合、一時保護所に入る。ところがその施設こそ、虐待から保護されたはずの子供に「家に帰りたい」と思わせる場所だという。なぜなら、保護所に虐待が横行しているからだというのだ。

〈職員による虐待もあるが、より深刻なのは子供の間での「虐待」だ。小さなころから虐待を繰り返された子供は、精神形成が健全ではない。親からは暴力という手段しか教わっていないので、施設にいる不安や不満は弱者への暴力という形で噴き出す。暴力ではなく「性的虐待」というケースさえ少なくはない〉

 もちろん子供たちを第一に考え、努力している児相もあるだろう。しかし、上記のように、児相は、「かわいそうな子供が身を寄せ合う場所」とは遠くかけ離れている場合もあるのが現実だ。家も地獄なら、保護されるはずの施設も地獄。同書では、さらに不幸な現実も紹介している。

〈「児童相談所が、一時保護所で問題行動が多く手に負えない子を教護院に送るんです」
教護院とは、現在は「児童自立支援施設」と名前を変えた、非行少年などを収容する施設だ。(略)本来は(子供の)ケアも含めての「保護」であるにもかかわらず、非行少年を収容する施設に「隔離」することで収めようというのであれば、職務怠慢を通り越し犯罪的ですらある〉

 すでに子供の居場所はないのだろうか。

デイリー新潮編集部

2019年3月12日掲載

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