「裸にならなきゃ美術館に入れないの?」 世界の美術館に女性の作品が極端に少ないワケ

アート 2019年3月8日掲載

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 ピカソ、ゴッホ、モネ、フェルメール――。美術界にはたくさんの有名画家が存在している。では女性画家の名前をあげてくれと言われて、すんなり答えられる人はどれくらいいるだろうか。答えられなくても全く不思議ではない。実は世界の美術館を見回してみても、女性の作品は極端に少ないのだ。3月8日は国際女性デー、それにちなんで今回は「芸術新潮」3月号より、美術史に名を残す女性画家について紹介しよう。

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 昨年、ロンドンのナショナル・ギャラリーが17世紀の画家アルテミジア・ジェンティレスキ(1593~1653頃)の作品《アレクサンドリアの聖カタリナとしての自画像》(1615~17年頃)を購入した。その際、ある意外な事実が判明した。

 同館は13世紀~20世紀初頭の西欧絵画を中心に2千点以上の収蔵品を誇るが、女性作家による作品は、新規購入したアルテミジアの作品を含めて、たったの24点だというのだ。にわかには信じがたい話だが、ガブリエーレ・フィナルディ館長は「当時、女性芸術家は男性と同等の機会を与えられていなかったため、作品自体がほとんど残っていない。ナショナル・ギャラリーのコレクション自体が、その事実を物語っている」と公式サイトでコメントしている。その上で、今後は企画展示などで女性アーティストを積極的に採り上げてゆくつもりだと意思表明をした。
 
 古代ギリシアの時代から女性画家は存在していたとされるが。だが、女性差別という時代背景や、女性が職業画家として活躍できなかったなどの諸事情から、活躍の範囲が制限されてきたことは事実だろう。そんな中で、アルテミジアは、イタリア・バロック絵画の巨匠カラヴァッジョの画風を継承し、さまざまな逆境を乗り越えながら画家として生き抜いた稀有な存在だった。

 長い美術史を振り返ってみると、実は、彼女以外にも、ユニークな女性画家たちの存在が浮かび上がってくる。

 画家ギルドに登録して工房を構え、親方として腕をふるったオランダの風俗画家ユディット・レイステル(1609~60)。南米にまで赴いて実見した植物の図譜を制作したマリア・シビラ・メーリアン(1647~1717)。馬や犬などの動物を主題に超大作を描いた男装の麗人ローザ・ボヌール(1822~99)……。

 いっぽうで、社会的な制約によって道を閉ざされ、忘れ去られた女性画家は星の数ほどいたことだろう。

裸にならなきゃ、美術館に入れないの?

 女性作家が活動しにくい、認められにくい状況は、実は20世紀に入ってからも続いていた。ジョージア・オキーフ(1887~1986)は、ニューヨーク近代美術館で女性として初めて個展を開いた偉大なるアーティストだが、彼女の妹アイダ・オキーフ(1889~1961)は、才能に恵まれながらも姉ほどの成功をおさめることはできなかった。昨年、アメリカ・ダラスの美術館で初の回顧展が開かれ、ようやくアイダの作品にスポットが当てられた。最新の構図理論を採り入れた抽象的な作風は、今見てもクールで新鮮だ。

 冒頭に挙げた美術館コレクションの「偏り」はナショナル・ギャラリーに限ったことではない。2012年には、アメリカのボストン美術館前に、あるプロパガンダを掲げた大型トラックが停車した。

「女性のヌードを描いた作品はたくさんあるのに、女性作家の作品はたったの11パーセント。裸にならなきゃ、美術館に入れないの?」。

 匿名のフェミニスト・アーティスト集団「ゲリラ・ガールズ」によるパフォーマンスだった。

 日本の美術館でも、同様の「偏り」が見られると東京国立近代美術館主任研究員・保坂健二朗氏は指摘する。いっぽう、近年では、世界各地で、そうした偏向を「是正」しようという動きも、確実に起きている、ということも。

 ところで、現代日本では美術系大学の男女比は、いまや女性が7割を超えているという。かつては美大への入学すら許されていなかったのだから、なんとも劇的な変化ではないか。

 ともあれ、心打つアート作品を生み出すのに性差は関係ない。21世紀になって、ようやくこうした意識が一般に根づいたようだ。

デイリー新潮編集部