ついに和牛界の「最前列」へ 「仙台牛」ブランドの道のり――かがやいてる、元気な農家

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 みなさんは、和牛の世界にもオリンピックがあるのをご存じですか? 全国和牛能力共進会といい、5年に1度、和牛の産地の持ち回りで開催される品評会です。牛の改良を競う「種牛の部」と牛肉の肉質を競う「肉牛の部」からなり、全国から約500頭のエリート牛たちが一堂に集います。

 昨年、宮城県仙台市で開催された第11回大会では、「種牛の部」の2区(生後14~17か月未満の若雌が対象)に『さいぜんれつ』と名付けた仔牛を出品した地元宮城県登米市の小野寺正人さん(42)が、優勝にあたる「優等賞1席」を獲得しました。宮城県の生産者がこの大会で日本一の栄誉に浴したのは初。その牛舎を訪ねると、「トップを獲れるなんて、全然、思ってもみませんでした」と言いながら笑顔で迎えてくださいました。

 牛舎を訪ね、まず感じたのは、とても清潔なこと。小野寺さんも「きちっと管理すれば、牛たちもそれに応えてくれますから」と話します。

 小野寺さんが、祖父の代から始めた畜産の仕事を引き継ぎ、就農したのは、今から約20年前のこと。界隈は、「仙台牛」のブランドで知られる和牛の一大産地。周囲の仲間と切磋琢磨しながら、和牛づくりの面白さに目覚めていったのです。和牛のオリンピックでは、鹿児島、宮崎、大分の九州勢がどの部門でも強く、優勝することは、宮城県の畜産関係者の悲願でした。6年前、長崎で開催された第10回大会で、小野寺さんは、同じ「種牛の部」の2区に雌牛を出品し、優等賞5席を獲得しました。その時、「1席だった若雌に目を奪われた」といいます。生産したのは、宮崎県日南市の70代の女性。「このクラスの牛を育てなければ金メダルはない。そう思い、毎日、その牛の写真を眺めながら5年間を過ごした」と小野寺さん。その女性とは今でも交流を続けているのだそうです。

 どうすれば金メダルを獲る牛が育てられるのでしょう。「『さいぜんれつ』は生まれた直後から他の牛とは違っていた」。小野寺さんはそう回顧します。その観察眼に違わず、この仔牛は、昨年6月の県最終選考会で代表の座を獲得します。本大会は9月。全国で闘える牛にまで磨き上げるため、小野寺さんは地元の迫町の繁殖農家やJAみやぎ登米畜産課職員の力も借り、『さいぜんれつ』の四肢を鍛えに鍛えたのです。「審査最終日までの約2か月半、メンバー総掛かりで毎日1時間半以上、ブラッシングや運動を続けた。優勝は“チーム迫”の賜物。おかげで和牛産地としての宮城を全国に発信できました」。そんな言葉を聞きながら、どんな世界でも、頂点にはひとりの力では立てないのだ、と痛感しました。

 全国ブランドの「仙台牛」ですが、JAみやぎ登米の佐野和夫・代表理事専務は、「ここまでの道のりは平坦ではなかった」と漏らします。特に苦労したのが「脂質」。オレイン酸を含むもち米を餌に混ぜるなど、試行錯誤を重ねた結果、今日があります。登米市は県内有数の稲作地帯。「だから、うちの牛は最高の稲わらを食べてるよ」と小野寺さん。「代わりに、ここらの田圃の堆肥は全部、地元産」。これぞ「耕畜連携」のお手本です。

 宮城県北東部に位置する登米市は、ほぼ中央を迫川が流れ、東を雄大な北上川が貫流する。水運に恵まれ、米どころとして名を馳せてきた。JAみやぎ登米は、1998年、登米郡(当時)の8JAが広域合併し、発足。農業産出額は約316億円。宮城県内第1位を誇る。

 榊原勇・代表理事組合長が話す。

「県内1位の農畜産物に、水稲、肉牛、キュウリ、キャベツ、スプレー菊があります。15年前に化学肥料や農薬を減らす環境保全米運動を開始し、作付面積の約9割の約8300ヘクタールでその栽培に取り組んでいます」

 その間起こった2011年3月11日の東日本大震災で、地域は、甚大な人的被害や建物被害を被った。

「震災で被災した施設の復旧に要した期間はほぼ1年。津波被害を受けたお隣の南三陸町の沿岸部などでボランティア活動を継続的に行いました。一番大変だったのは、原発事故に伴う、放射能対策。稲わらや堆肥の除染活動など、安全安心を最優先し、万全を期して臨みました」

 昨年、組合員の小野寺正人さんが全国和牛能力共進会で日本一の栄誉に輝き、注目を集めた登米の和牛。仙台牛ブランドの約4割は同JAの生産だ。和牛の餌に利用されるのが、環境保全米の水田から生まれる稲わらである。一方、市内に7か所ある有機センターで和牛の排泄物から有機質肥料を生産し、水田に堆肥として散布、還元している。「環境保全米運動は“赤とんぼが乱舞する産地を目指そう!”が合言葉。田圃の生き物調査も実施した取組が評価され、3年前には農林水産大臣賞も受賞しました」(榊原・代表理事組合長)

 震災を乗り越え、復興に向かうJAみやぎ登米の資源循環型農業が、今、全国から熱い視線を浴びている。

村上佳菜子の目
登米でシャリに「仙台牛」が載ったお寿司をいただきましたが、お肉が柔らかく甘いのにびっくり。でも、美味しいのは当たり前。登米で育てられる「仙台牛」は、赤とんぼが乱舞する田圃の稲わらを食べて育っているんですもの。そして、その牛の排泄物が堆肥として田圃に還元されます。なんてすばらしいエコシステムなんでしょう。私の周りには、体型を気にしてお肉を食べない若い人が結構多くいます。こういう上質なお肉なら、絶対、食べた方が健康にいいよ、とアドバイスしたいです。

[提供]JAグループ [企画制作]新潮社 [撮影]荒井孝治 [ヘア&メイクアップ]岩澤あや [スタイリング]吉田謙一(SECESSION)