黄金の郷が育むいわて「純情なす」の味――かがやいてる、元気な農家

BrandVoice

  • 共有
  • ブックマーク

 多くの尊い命を奪った「3・11」の東日本大震災から早7年半――。愛知県生まれの私ですが、震災の前年、同時にシニアデビューした羽生結弦選手が宮城県出身だったこともあり、他人事ではいられなかったのが、昨日のように思い出されます。

 そんなわけで、今回、被災地の農業の現場を見て回るチャンスをいただき、とても光栄に感じています。これまで、東日本各地の農家の皆さんを視察してこられたフィギュア界の先輩、荒川静香さんからも、「佳菜子ちゃんは、食べることが大好きだから、きっと務まるわよ」と後押しされました。至らぬ点も多いかと思いますが、どうかお許しください。

 最初に訪ねたのは、岩手県南部に位置する一関市の花泉地域。立派なハウスの中に入ると、整然と並んだ畝に沿って伸びた枝に、美味しそうななすがたくさん実っていました。

 なすを育てているのは、小岩菜摘子さん(65)。2つのハウスにそれぞれ約800本ものなすの木が植えられています。「くろべえ」という品種名の通り、光沢抜群のなすを手で持ってみると、ずしりと重いのに驚かされました。思わず、「すごい!」と叫んでしまったほどです。

 県内一の生産量を誇るJAいわて平泉の「なす栽培」が、この花泉地域で始まったのは、1979年頃。小岩家でも、その5年後、菜摘子さんの義父母の代から手がけられています。当時は露地栽培で、2003年、菜摘子さんが栽培を引き継いだとき、ハウスに切り替えられました。

 一関市と平泉町を管内に抱えるJAいわて平泉は、水稲、畜産、園芸を組み合わせ、経営を安定させる複合型農業を推進しています。小岩家でも、水稲と畜産は息子さんの小岩仁さん(36)が中心で、それをお父さんの小岩昭夫さん(67)が支えており、なすを菜摘子さんが担っています。また、昭夫さんは、32歳から60歳までの間、農繁期を除いて千葉の方に単身で働きに出られ、一家の経済を支えられたのだそうです。

 菜摘子さん自身は、一関市の非農家出身。「大型免許を取ってトラックに乗り、トラクターやコンバインでの作業もこなしましたよ。近所のお子さんから“ダンプかあちゃん”と呼ばれてました」と話します。「目標を立てて、それにむけてがんばる。それの繰り返し」という言葉は、われわれアスリートの世界にも通じる金言です。5年前、小岩さん夫妻は、農業大学校で畜産を学び牛削蹄師の資格を持つ長男の仁さんに、一家の主の座を委譲。今年から、株式会社KOIWAの社長となった仁さんも、「安心して農業に取り組める土台をつくってくれた両親には本当に感謝しています。ゆくゆくは農家レストランも手掛け、若い人にとって農業が魅力に感じられる存在となるよう、がんばりたい」と夢を紡ぎます。

 話をなすに戻すと、現在、JAいわて平泉のなす生産部会の組合員は花泉地域を中心に99戸を数えます。17ヘクタール栽培し、出荷量は850トン。生産高は約3億円に上ります。部会では、今年、なすの栽培マニュアル「なすブック」も作成しました。なすの特性や育苗、収穫選別、病害虫防除など、栽培に必要な基本情報を写真付きで掲載。部会の全員に配布され、好評を博しています。同JAでは、数年前から自治体と共に新規就農者の拡大に力を入れており、この試みは、その施策を後押しする武器になることでしょう。第二、第三の小岩ファミリーが現れ、世界遺産の金色堂を擁するこの郷が、さらに光輝くことを私も願っています。

 今年の3月11日午後2時46分、JR一ノ関駅前にサイレンが鳴り渡った。7年前に襲った東日本大震災の犠牲者への黙祷を行うためだ。この行事に参加したJAいわて平泉の女性部と青年部も、「3・11を風化させない行動日」と題し、おにぎりと豚汁を道行く人にふるまった。

「コメは岩手県のフラッグシップ米として昨年から栽培を始めた『金色の風』。豚肉も野菜も地域で生産したもの。遠来の観光の方から、後で励ましの手紙もいただきました」

 そう語るのは、JAいわて平泉の佐藤鉱一・代表理事組合長。同JAは、一関市と平泉町を管内とし、2014年に発足。震災による建物の損壊は少なくなく、地域の農業は、停電、断水、燃料の不足などにより、大きな打撃を被った。また震災直後に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い、牧草や稲わらが放射能汚染を被り、管内の重要な事業であるシイタケの原木露地栽培にも大きな影響が生じた。

「畜産関係が影響を完全に払拭するのに3~4年かかった。シイタケは今も地元の原木は使えないので、県北や秋田から供給してもらっています。再生産活動は緒についたところです」(佐藤・代表理事組合長)

 そんな地域の希望の星が、前述の岩手県産・期待の新米「金色の風」だろう。昨年27ヘクタールだったこの地域での作付けは、今年、61ヘクタールに拡大。「さっぱりとした食感なのに甘みがあり、美味しい」と消費者からの反応も上々という。発足以来、JAいわて平泉は、「黄金の郷づくり推進対策事業」に取り組んでおり、水稲、畜産、園芸のそれぞれの分野で、経営規模を拡大し、新規就農を希望する人たちを後押しするための助成を積極的に行っている。複合的農業経営の先進地域を目指す世界遺産のお膝元の復興への歩みは力強い。

村上佳菜子の目
一つの作物を育てるだけでも大変なのに、三つの分野を手掛け、それぞれに高いクオリティを発揮されているのに驚きました。ファミリーの絆って本当にすごい。菜摘子さんにつくっていただいたオリジナル料理のなすサラダ、なすそうめんも最高でしたよ。ふだんは料理に入れる素材としてしか目にしない私ですが、今回は、その食材をつくった現場を訪ね、つくった人の思いも知ることができました。これからは、大好きなお料理を、もっとゆっくり味わって、しあわせを感じたいですね。

[提供]JAグループ [企画制作]新潮社 [撮影]荒井孝治 [ヘア&メイクアップ]岩澤あや [スタイリング]吉田謙一(SECESSION)