『創価学会』を出版した田原総一朗 学会と公明党の政教一致は「大した問題じゃない」

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 ジャーナリストの田原総一朗氏(84)が『創価学会』(毎日新聞出版)を上梓した。池田大作名誉会長(90)が公の場に姿を現さなくなって8年余となるが、その池田氏に複数回にわたるインタビューを実現した田原氏の総括本といっていいだろう。だが、その内容は「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日系)で見られるような、歯に衣着せぬいつものスタイルとは異なる。田原氏の眼に、現在の創価学会はどう映っているのだろうか。ご本人に訊いた。

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――なぜ、いま『創価学会』という本を出版したのでしょう。

田原:創価学会へは1964年、公明政治連盟を改組して公明党を結成した時に初めて取材をしました。当時は日蓮正宗の本山である大石寺にも行っているし、学会員の座談会にも参加した。それ以来、学会には関わってきたから、いつか一冊の本にしたいとは思ってきた。たまたま毎日新聞から声がかかったというのもあるんだけど。

――半世紀以上にわたって取材してきたというわけだ。だが、池田氏は8年以上も表舞台に出て来ていない。健康状態はどうなのでしょうか。

田原:わからないね、生きているとは思うけど。

――『創価学会』では、初代会長である牧口常三郎(1871?1944)の生い立ちに始まり、戸田城聖(1900?1958)が2代会長に就任するまでが最初の一章に費やされ、学会の歴史が分かりやすく描かれている。第2章から、いよいよ3代会長を務め現名誉会長の池田大作氏が登場する。かつて田原氏は池田氏の単独インタビューに成功している(「中央公論」95年4月号)。再掲載を期待していたが、それも細切れで引用される程度だ。

田原:池田さんについて書きたかったのは4点だからね。第1は、なぜ戸田城聖の話を聞いて入信する気になったのか。これについては「逮捕されても、転向しなかったから」と答えている。第2に、ボクは池田さんに「他宗を邪教と言って攻めるのは孤立するだけだから、止めたほうがいい」と言っていたんだけど、これについては「その通り。ちょっと時間はかかるかもしれないけれど、必ず止めます」と答え、実際にそうするようになった。第3に、ボクは「公明党があるから、あなたは非難される。公明党を辞めてしまったらどうか」と言うと、池田さんは「うちは選挙があると、みんなが結束し、頑張れるのです。それが創価学会のエネルギー、バイタリティにつながっていくのです」と、政教一致ギリギリのことを話したこと。第4に、創価学会は“前世・現世・来世”というけれど、ボクはピンとこない。見たことがないし、誰も見ていないからね。なのにどうして信じられるのかを問うと、池田さんはこう答えた。「あるかどうかはわかりません。でも、あると思ったほうがいい」と。そのわけを、あの世があると信じていれば、人はこの世でいいことをする、という。なかなか素直な男だと思った。この4つを書きたかったんだ。

――田原氏は、池田氏に肩入れしているかのようにも読みとれる箇所もある。例えば、1957年に池田氏が公職選挙法違反の容疑で逮捕され、のちに無罪となった件では、田原氏はこう綴っている。「彼は会長として激務を続けながら、被告人として裁判所に出廷するという生活を続けた。日本の刑事裁判は検察から起訴されれば、99%以上の高率で有罪になるといわれる。その中で無罪を勝ち取ることがいかに困難だったか想像に難くない」……。

田原:ボクはね、ずっと検察がやっつけようとする人間の味方をしてきたの。ロッキードの田中角栄(1918?1993)、リクルート、堀江貴文(45)、鈴木宗男(70)、小沢一郎(76)……。池田名誉会長さんと話してみると、田中角栄や松下幸之助(1894?1989)などに通じるものがあるんだな。危ないことでも素直に答える。べらんめえ調でね、誌面に載る時には直されるんだけど。今回、この本には3年かかってるんだ。取材に1年半、後の1年半は創価学会との交渉だよ。彼らは全面改定してくれと言ってきたこともあった。もちろん断ったけどね。ボクは誰にも遠慮はしないから。

――学会はどの部分について書き直しを求めてきたのだろうか。

田原:日蓮は「立正安国論」で、当時の日本に他国が攻めてきたり災害が起こるのは、邪宗を信じるからだと、他宗を攻撃した。科学が発展した今ではあり得ないこと。ボクはそれを池田名誉会長さんに止めるように言ったし、書いているけど、そこをもうちょっと穏やかにしてくれないかと学会は言ってきた。学会員は日蓮の教えを批判できないからね。

――今回の本の出来には満足しているのだろうか。

田原:感じたことは全て書いたと思っている。公明党についても書いているしね。公明党=創価学会であり、自民党が公明党と連立したのは学会の票が欲しいから。腐敗した自民党と連立している疑問も書いたしね。

――創価学会と公明党との政教一致の問題については、どう考えているのだろうか。

田原:大した問題じゃない。アメリカの大統領は就任時に聖書に手を置いて誓っている。完全に政教一致じゃない? ドイツのメルケル首相(64)はキリスト教民主同盟の党首ですよ。政教一致に反対するのは、ヨーロッパではフランスだけなんだから。

――学会員が選挙時になると、知人に連絡を取り票を集めるF(フレンド)票についてはどう思っているのだろうか。

田原:学会の力を伸ばせることだからね、各党がやっていることでもある。立憲民主党だって共産党だって、支持層は自分の知り合いに応援を頼んでいる。だから池田名誉会長さんは「選挙が学会のバイタリティになる」とキワドイこと言っていたしね。

――田原の古巣であるテレビ東京の選挙特番では、選挙運動に駆けつけた学会員のおばちゃんが「選挙をやると功徳になる」と胸を張って言っていたが。

田原:いいんだよ、信者が思ってる分には。幹部はそんなこと絶対に言わないから。

――いやいや、信者たちは、幹部にそう教え込まれているんじゃないの?

田原:そうじゃないと思う。だって、病気が治ったって、結局みんな死ぬんだから。

――ミイラ取りがミイラになったわけではなかろうが……ひょっとして創価学会に入信したのだろうか。

田原:ボクは特定の宗教の信者ではないけど、無神論でもない。やっぱりね、きちんと正しいこと、世の中の為になることをやっていれば、天が見ていてくれるという気持ちはある。でも、信者になると主体性がなくなっちゃうからね。ボクは主体的でありたいから、どこにも入信しないんだ。

――じゃあ投票は公明党に?

田原:それもないよ。ボクはずっと日本共産党に投票してきた。この間の選挙では、立憲民主党に入れたけど、基本は共産党。だって自民党批判で、一番よく調べているのは共産党だもの。ただ、あそこは政権取る気は全くない。もっとも、取ったら大変だけどね。

――集票マシンとなった創価学会は、自民党の支持団体という声まで上がっていることについてはどう考えているのか。

田原:原田稔会長(76)はじめ8人の幹部に話を聞いていますが、いま創価学会は正念場だと思っている。安倍内閣が進める憲法改正に、もし平和の党を謳う公明党が賛成したら、創価学会の存在が揺らいでしまうからね。その時は、学会員が公明党から離れていく。原田会長以下全員が「頑張ります」と答えているよ。公明党が与党にいるのは、自民党にブレーキになることだからね。

――『創価学会』を出版して、これまでに反響はあっただろうか。

田原:面白いのは、「この本を読んで、初めて創価学会がわかったという会員がいる」と学会幹部が言っていることだ。第1次宗門戦争、第2次宗門戦争、そして藤原弘達『創価学会を斬る』への言論出版妨害事件、信者はそういうところに触れちゃイケないと思ってきたみたいなんだ。この本には、全部それが書いてあるからね。

――元々、日蓮正宗の信徒団体にすぎなかった創価学会だが、77年1月に池田名誉会長が学会内の講演で「出家も在家も同格」と発言したことで宗門からの怒りを買ったことをきっかけに、池田名誉会長は宗門に対し謝罪。79年に3代会長を辞任することになる(第1次宗門戦争)。また、91年11月には創価学会は宗門から「解散勧告」と「破門通告」を受けた。いわゆる第2次宗門戦争だ。先に紹介した「中央公論」のインタビューで、田原氏は「創価学会が日蓮正宗(宗門)から破門されたら、もう宗教法人ではないのではないか」と重要な質問を池田名誉会長に投げかけている。それについては、今回はまったく触れていない。

田原:宗門から破門されたために、創価学会は世界に広めることができた。それまで宗門は「他宗は邪教」と言ってきたから、池田名誉会長さんは欧米に行くだけで「キリスト教を認めるのか」などと大反対を受けてきた。それが創価学会の破門につながった。宗門は池田名誉会長さんを潰したかったんだね。

――ただし、これについては一方的に描かれた感が強い。創価学会が破門されるに至った理由を学会の主任副会長である谷川佳樹氏(62)に語らせている。谷川氏曰く、「創価学会側としては登座当初から日顕を非常に立てていました。ところが、学会員たちが本当に尊敬しているのは名誉会長なので、それが正直に態度に表れるわけです。例えば、文化祭などで名誉会長が登場するとわっと歓声が上がる。しかし日顕に対してはそうはならない。それが宗門側としては面白くなかった。要するに嫉妬していたわけですね」。破門の原因はただの嫉妬、と言わんばかりだ。しかし、当時、宗門側は、月刊「文藝春秋」(92年2月号)に第67世法主・阿部日顕が「宗門はなぜ『破門』を通告したか 創価学会会員に告ぐ」として、13ページにわたる文章を寄せている。その中には、信徒である池田名誉会長の横暴ぶりが書き連ねてあるのだが、それについて田原氏は触れず、「宗門が破門を通告した理由を説明し、学会員に脱会を呼びかけたが、ほとんど効果はなかったようだ」と書くのみ。

田原:「報道は中立」とかなんとか言うけど、そんなものはあり得ないんだよ。ジャーナリズムに中立はないんだ。まだ若い頃、ボクは日米安保に反対する全共闘と機動隊の闘いを取材に行った。全共闘の側から撮ると、警棒と盾を持って学生を叩こうとする機動隊の画になる。機動隊の側から撮れば、ヘルメット被ってゲバ棒持った左翼運動家たちの画になる。真ん中にカメラマンを行かせたらケガしちゃった。君はどっち側から撮る?

――言わば“田原史観”で書かれた『創価学会』。その上で、政権を陰で支える創価学会に興味のある方はご一読を。

週刊新潮WEB取材班

2018年10月12日掲載

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