「山口真由」は2年で終止符… 人材流出が加速「財務省」の退職事情

国内 政治 週刊新潮 2018年7月19日号掲載

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山口真由の場合

 彼らの期の以前から全員留学が既定路線だったが、97年組は留学から帰った入省5年目に3、4人が一気に辞め、その後もぽつぽつと役所をあとにしていった。そして9年後の06年組も、16人の採用に対して10年余ですでに5人の退職者を出した。その一人、「東大法学部首席卒業」を枕詞にメディアで活躍するのが、ニューヨーク州弁護士の山口真由だ。

 彼女のこれまでの経歴は華麗の一語に尽きる。札幌市内の中学卒業後、上京して筑波大学附属高校で学び、東大法学部に進学する。法学部での履修科目の評価はすべて「優」で、3年の時に司法試験に合格、4年時には国家公務員試験にも上位で合格し、財務省の内定を受けた。高校、大学の7年間は、あたかも財務省に入るための準備期間のようにも見えるが、本人の弁も、「小学生くらいから官僚志望で、官僚になるなら東大法と心の中で思い描いていた」とまるでブレがない。

 06年、官庁の中でも最高峰の財務省に入省し、主税局調査課に配属されて小学時代から温めてきた夢を現実のものとした。

 とはいえ、財務省の新人教育は厳しい。1年生はコピー取りに加え、国会や他の部署との連絡役にこき使われ、徒弟制度時代を彷彿させる育て方は今も変わっていない。近年は女性の採用が増えたとはいえ、男性が圧倒的に多い男社会の財務省にあって、今も女性の新人教育は鬼門のように映る。

「同じ主税局調査課を振り出しにした先輩に片山さつきさん(82年、現参院議員)がいますが、省内に女の人を甘やかしてはうまく育てられないという意識が強くあったようです。ですから私の場合、主計局などとやり合う時に、『絶対に泣き落としはするな』と上司から禁じ手にされた。女性だということで甘やかしてしまうと後で苦労するからと、本当に厳しくやられました」

 財務省の中でも主税局調査課は、海外税制の調査研究などどちらかというと学究的な雰囲気が強い。それでも、山口はわずか2年で憧れだった官僚生活に終止符を打った。

「財務省は、個人の発言より組織の発言が優先される組織です。どちらかというと、私はアカデミックにあるテーマについて一人でじっくり考えるタイプで、とりわけ『この5分間で最適な動きを』と反射神経が要求されるこの組織で働くのは向いていないな、と感じたのがきっかけでした」

 辞職後、司法修習を受けて弁護士の道に進んだ。15年には法律事務所を退職し、米ハーバード大学ロースクール(法科大学院)に入学。ここでも優秀な成績を修め、ある科目ではクラス最優秀のディーンズ・スカラー・プライズを受賞した。(文中敬称略)

(3)へつづく

岸宣仁(きし・のぶひと)
1949年埼玉県生まれ。東京外大卒業後、読売新聞社に入社し経済部で大蔵省などを担当。退社後は経済ジャーナリストとして活躍。主な著書に『税の攻防 大蔵官僚四半世紀の戦争』(文藝春秋)などがある。

特集「『官僚たちの夏』は来ても… 『財務省』人材流出で日本は大丈夫か――岸宣仁(経済ジャーナリスト)」より

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