銀行口座が持てない、賃貸契約ができない、保険に加入できない――フツーの生活が送れない! 暴力団離脱者の前に立ちはだかる「壁」

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 平成4年に暴力団対策法(暴対法)が施行され、平成22年の福岡県を皮切りに、全国で暴力団排除条例(暴排条例)が制定された。
 その甲斐あって毎年、暴力団離脱者は増え続け(年間約600人前後)、平成29年3月の警察庁のまとめによると指定暴力団構成員数は、統計が残る昭和33年以来、初めて2万人を切った。

 また、国家公安委員会が認定する全国の暴力追放運動推進センター(暴追センター)が離脱を支援した元暴力団員は7年間で4170人。内、把握できている就職者数は90人で約2%。では、残りの98%の人たちは、どうしているのだろうか。

 長年、暴力団に入ってしまう若者たちや暴力団離脱者について研究している犯罪社会学者・廣末登さんによると、

「ヤクザの斜陽に反比例して、若いギャング――半グレや不良外国人が幅を利かせているのです。そうした人たちに、ヤクザを辞めて行き場を失い、同時に『組の掟』という鎖から解き放たれたアウトローが合流し、悪事を重ねています」

 もちろん、暴力団から足を洗うと決心した当事者たちは、カタギになって生きる覚悟をしている。ところが、生活の基盤となる真っ当な収入を得るための職にありつけないのが現状なのだという。悪いことに手を染めなくても、生活保護に頼ってギリギリの生活をしている人も多い。

「元暴5年条項」という縛り

「暴排条例は自治体が定める規則ですが、その中に暴力団を離脱した者も暴力団員等とみなし、銀行口座を作らせないなどの規制を設ける源となった『元暴5年条項』といわれるものがあるのです」

 この条項によると、暴力団を離脱してから5年は銀行口座新規開設ができない、インフラを除く契約行為ができない、生命保険他に加入できないなどの制約が課せられるのだという。

 暴力団離脱者と分かれば雇い主が雇用を見送る可能性が高いのに、給与振り込みに必要な銀行口座が作れないと言えば、申告したも同然。

「元暴の人は、ハロワも一般とは別の窓口が用意されています」

 そう語るのは、全国で唯一の特定危険指定暴力団・元幹部だった中本さん。2年前、訳あって獄中離脱し、出所後、保護観察所の勧めで「ハローワーク」に出向いた。

「担当は、就職先として、すぐに県外を勧めてきました。理由は『県内にいたら、騒がしいことが起こるんじゃないですか』ということでしたね」

 さらに、地元企業でも面接時にあえて離脱者だと言う必要はないが、採用になってから人伝に元ヤクザと分かれば取り消されるかもしれない。だったら、顔見知りのいない県外にある協力雇用主(出所者雇用を受け入れる事業者)が良かろうとの「配慮」だという。人生のほとんどを過ごした地元を離れる気は、中本さんにはなかった。

 あるいは、会社が事情を承知して雇っても、「元ヤクザ」という経歴は周囲の人にとって近寄りがたい反面、嫌がらせやイジメの種にもなる。実際、職場で、物が無くなれば疑いをかけられたり、「このヨゴレが」などと罵られたりという経験をした離脱者は多く、離職につながるケースもある。

「暴対法、暴排条例以前は、たとえ元暴力団員でも、本人が真剣に社会復帰を望めば、周囲も理解を示して受け入れてくれる日本的な人情は存在した」と廣末さんは言う。暴排の締め付けが制度化した現在は、「元」がついても「暴」という文字が見えれば普通に対応してもらえない傾向にある。

はっきりと決まっていない「制約期限」

「本当にGマーク(暴力団構成員を指す)が外れたタイミングはいつなのか、つまり元暴5年条項の社会的制約のスタートは、警察署で『脱退届を受理』された時か、それとも、刑務所で離脱指導を終え『(Gマーク解除)告知』された時なのか、その点を知りたかった。しかし、未だにこの答えは出ていません。この部分は、誰に聞いても曖昧です」

 離脱した中本さんは現在、北九州・小倉でうどん店を営んでいる。賃貸契約ができなかったが、信頼してくれたある家主さんが契約なしで物件を貸してくれた。しかし、口座がないので常に手提げの金庫を持ち歩き、テナントビルなのに火災保険に入れないので火事が何より心配だという。

 では、概ね、であっても離脱から5年経過すれば、確実に警察や自治体が制約の解除に動いてくれるのだろうか? 東京都内で開かれた警察政策フォーラムの席で、それについて質問を受けた警察関係者は「5年以降は、各団体の判断にゆだねている」と、無責任ともとれる受け答えをしている。

 元犯罪者、元ヤクザなら、そのくらいの制約を受けても当然、という意見もあるかもしれない。しかし、真剣に、真面目に社会に復帰したいと望んでいる人には、元暴5年条項は期限からして余りにも曖昧で、生殺し的な制約だ。

 この制約に行く手を阻まれ、来た道を逆戻りしてしまう人が増えてしまうのであれば……「離脱を勧めて再犯を防止する」という警察主導の暴排運動の的を外しているようにも見えるのだが……。

デイリー新潮編集部

2018年7月19日掲載

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