「東京のすごい味は?」と問われて食通が即答した「すごいピッツァ」の衝撃度

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 いまや「頼んでから30分以内」に届くのが当たり前になりつつあるピザ。

 エビマヨネーズやら照り焼きチキンやらパイナップルやら、これピザの具?と言いたくなるトッピングさえスタンダードになってきた。

 しかし、「おいしいもの」のためならば万難を排し地の果てまでもゆく情熱に溢れた食エッセイの名手、平松洋子さんが「これぞ東京のすごい味です!」と胸を張ってオススメするのは、スタンダードだけを提供する、東京は中目黒に店を構える「聖林館」のピッツァ。

 この聖林館、多様化するピザ文化(?)にあらがうかのように、ピッツァメニューにはマリナーラとマルゲリータの2種類しかない。

 20年前に聖林館の前身「サヴォイ」を訪れたとき最初に受けた衝撃はいまでも忘れられないといい、この時の印象を平松さんは『日本のすごい味 おいしさは進化する』のなかでこう綴っている。

「中目黒に石窯で焼くピッツァを出す店があると聞いて出かけると、マリナーラ(トマト、にんにく、オレガノ)とマルゲリータ(トマト、モッツァレラ、バジル)の2種類だけ。ナポリピッツァ独特のもちもち、かりっと焼き上がった生地のおいしさに驚嘆したが、とりわけ衝撃的だったのは、舌のうえで生地が跳躍するような生命力、表現力。食べ終わっても、まだ舌がざわざわと騒ぐ。すごいピッツァを焼くひとがいるものだ」

 食通をもってして、「以来ずっと食べ続けているのに、はじめて食べたときの驚きは変わらない」と言わしめるとは、一体どんな高級な食材が使われているのかと不思議になるが、店主の柿沼さんによれば「特別なものは何も使いません。粉もチーズもトマトも、身近で手に入る日本のもの」なのだとか。

 それなのに、衝撃的なほど美味しいのはなぜなのかと言えば、それはピザ作りに人生を懸ける柿沼さんの情熱のなせる技。炉内の循環温度を落とさないよう1週間で20束以上を消費するナラの薪で焚く石窯は開店以来20年間、1日も休まず稼働中だ。すなわち365日、定休日はない。

 行こうと思い立ったら、いつでも行ける手軽さも素晴らしい!

 最後に、聖林館のピッツァに対する平松さんの熱い思いをもう一度、同書から引用する。

「火傷しそうな熱い生地を頬張ると、舌が刺激されて躍り出す。鼻をくすぐる粉の甘い香り、口のなかには生地の焦げ、ふくらみ、へこみ、厚さ、薄さ、奔放に跳ねまわるようなトマトの酸味、オリーブオイルの光沢、しなだれる熱いチーズ、これはなんだと興奮しながら、あっというまに1枚ぺろりと平らげてしまう」(『日本のすごい味 おいしさは進化する』より)

 どんなに忙しくても30分後に自宅でピザを味わえるのは便利でいいけれど、わざわざ出かけていってこそ、窯出し30秒の熱々ピッツァの衝撃と巡り会える。

デイリー新潮編集部

2017年10月8日掲載

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