「安倍が憎けりゃ特区まで憎い」でいいのか 石破茂元大臣が語る特区の意義

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■国家戦略特区は悪なのか

石破茂初代地方創生担当大臣が語る特区の意義とは

 加計学園の獣医学部新設に絡む疑惑が取り沙汰されるなかで、民進党は国家戦略特区という制度そのものを問題視するまでに至った。「国家戦略特区制度の停止・見直し法案」を参院に提出したのだ。

 しかし、もともとは民進党の前身の民主党も官僚主導から政治主導への移行を志向していたはず、というのはよく指摘されるところである。仮に加計学園の件に問題があるとしても、国家戦略特区自体を否定するというのは、「坊主憎けりゃ」式の「首相が憎けりゃ特区まで憎い」だと見られないだろうか。NPO法人フローレンスの駒崎弘樹氏は、国家戦略特区を悪者のように論じる昨今の風潮に、ネット上で懸念を示している。

 ポスト安倍の筆頭として、名前が挙がることが多い、石破茂初代地方創生担当大臣も、新著『日本列島創生論』の中で、特区の意義を語っている。そもそも特区にはどういう意味があるのか、わかりやすい説明となっているので、抜粋、引用しながらご紹介しよう。例として取り上げているのは、農業関連の特区である。

 農地法など農業関連の法律には、さまざまな「してはいけないこと」が定められており、中には、現状に合わなくなっているものや、地域によっては緩和しても良いのではないか、というものがある。

 代表的なものとしては、企業の農地所有を禁じていることが挙げられる。実は株式会社は農地を所有してはいけないことになっているのだ。農地を法人が所有している場合は、「農業生産法人」で、役員の過半数が耕作者である必要がある。企業は農地を所有ではなく、賃借することしかできない。

 これが企業の参入への障壁となっているのが現状である。というのも、貸借の場合、地主の都合で、ビジネスの計画が左右されたり、頓挫するリスクがあるからだ。

 さらに農地法では、農地に生産と関連しない構築物を建ててはならない、というルールもある。簡単に言えば、農産物を提供するレストランを建てることは禁止されているのだ。

 こうした様々な規制が、農家が新しいことにチャレンジすることや、企業が農業に参入することの壁となっている。

■特区レストランは大繁盛

 こうした規制について、石破氏はこう述べている。

「農地法などによる様々な規制には歴史や必然性があります。だから、法律そのものをいきなり変えてしまうと、新たな問題が生じる可能性は十分あるでしょう。

 そこで、まずは希望する地域で、特区の形で試験的に規制を緩めることにしました。

 現在、全国に様々な特区がありますが、農業では兵庫県養父市や新潟市が代表的な存在でしょう。養父市長の広瀬栄さんは、この分野への関心が高く、真っ先に特区に手を挙げた首長です。

 たとえば、ここでは農業関連機器メーカーが農地を所有して、試験的に農業を営んでいます。ただし、彼らの狙いは、農産物そのもので儲けようといったことではありません。

 製品を開発するにあたって、実際の農地で機械を動かすことが重要なのですが、これまでは自前の農場を持つことができなかった。それが特区によって、ようやく実現したというわけです。

 農家レストランも、新潟市の特区で実現し、大変な人気を呼んでいます。見渡す限りの田んぼの中にポツンと建つ一軒家のイタリアンレストランは、そこで採れた新鮮な野菜、お肉、そして新潟の誇る美味しいお米を使った最高級の料理を提供しており、周囲の風景と相まってまさに『オーベルジュ』といった雰囲気を醸し出しています。

 このように、まずは特区で実験をして、それで成功すれば、法改正等も検討していくべきでしょう。

 言うまでもないことですが、企業イコール『悪』ではありません。悪い企業もあれば、良い企業もあります。日本においては後者のほうが多いでしょう。

 その企業と一次産業とが互いにメリットのある関係を構築していくことで、農業の可能性は大きく広がると思います」

■議論は前向きに

 特区を設けて、新しい可能性を模索するというのは、ごく常識的な政策に見えるのだが、国家戦略特区もまた、今や「政争の具」になりつつある。石破氏は、同書の終盤で、このように述べている。

「メディアも、また一部の政治家も、一種の対立構造を作ることが好きです。しかし、そういうものから良い結果が生まれるとは思えません。結局、対立構造を作ると、その解消のために人的、時間的なものも含めて多大なコストがかかるからです。その分のロスが大きくなれば、前向きな方向に使える労力が減ってしまう」

 果たして、「首相憎けりゃ……」から、前向きな政策は生まれるのだろうか。政局の話は娯楽としては面白いかもしれないが、多くの国民が望んでいるのは、前向きな政策論議なのではないだろうか。

デイリー新潮編集部

2017年6月15日掲載

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