担い手も育てる「南郷トマト」の半世紀|vol.7

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 南米アンデス高原原産のトマトは、ナス科の緑黄色野菜。私も1歳10か月になる娘もトマトは大好物で、毎日食卓に上ります。果実が実るところを見せたくて、家でミニトマトの栽培にも挑戦しています。

 私が訪れたのは、福島県南会津郡只見町のさんべ農園。代表取締役の三瓶清志さん(53)は、地元の高校を卒業後、東京の農業者大学校に進みます。当初、短角和牛の生産を志しましたが、卒業後、「積雪の多い寒冷地で畜産は難しい」と思い直して夢を封印。地域の主力品目のトマト栽培に取り組む決意を固めたのです。

荒川静香さんと三瓶清志・やえさんのご夫妻。「さんべ農園」の社員は夫妻を含め4名。ほかにパートさん数名を雇用している。南郷トマトのほか、米、酒米も栽培。さらには、仲間と米焼酎の蒸溜所も創業する予定という。

 話は1962年に遡ります。涼しい夏の気候を味方に、旧南郷村の14の農家による夏秋トマトの栽培が開始します。周囲の町村にも広まり、66年に「南郷トマト栽培組合」が結成され、74年には「南郷トマト生産組合」に発展。やがて選果場もでき、栽培は発展の一途を辿ります。

 三瓶さんが就農する85年頃には、「南郷トマト」ブランドが市場で定着。品種も今の「桃太郎」に更新され、安定出荷のため、パイプハウスの導入も進んでいきます。現在、南郷トマト生産組合の組合長を務める三瓶さんによれば、「南郷トマトは、甘みと酸味のバランスが抜群」とのこと。私もいただきましたが、その言葉の通りの美味しさでした。

 南会津にトマトが導入されてから54年。わずか14戸・50アールの作付面積で始まったトマトの栽培は、現在、122戸・35ヘクタールに拡大。販売額も昨年度実績で9億4668万円に上り、1戸あたり750万円超えを実現しています。その成功の秘密として、生産組合のメンバーとJA営農担当者による徹底した栽培指導、2003年に完成、翌年稼働した最新鋭の設備を持つ選果場が挙げられます。冬季に貯蔵した雪の冷気を循環させて出荷前に行う「予冷」は、エネルギーの節約になり、トマトの品質保持にも効果絶大。この地域ならではの知恵といえます。

小野孝さんは、Iターンを目指す若者に、「あれこれ考えていたら、この世界には飛び込めない。思い切りが大事」と助言する。

 南郷トマト生産組合の農家の平均年齢は54歳。全国平均の約66歳に比べると非常に若い。これは、新規に就農する若者の受け入れを積極的に行っているためなのです。近隣の南郷スキー場に通うスノーボーダーが、夏場、トマト農家でアルバイトをしているうち、夏と冬のメリハリのある生活に惹かれ、就農を決意するケースも多いとか。現在、新規就農者は20人余。副組合長の小野孝さん(54)も新規就農組で、1992年、30歳で福祉関連の仕事を辞め、神奈川県から旧南郷村に移り住んだIターンの1期生です。「最初は、先輩の農家やJAの皆さんに言われる通りにやるだけでした」と懐かしむ小野さん。絶妙のチームワークを誇る南郷トマト生産組合は、その活動が評価され、2014年度第44回日本農業賞大賞(集団組織の部)を受賞する栄誉に浴しました。

「雪深い寒冷地で食べていけるのは先輩から譲り受けたトマト栽培があるからこそ。その宝を後の世代により大きな宝にして返すのがわれわれの使命」という三瓶さんの言葉が胸に今も響いています。

JA会津よつば・南郷トマト共同選果場の前で。「ますますトマトが好きになりました」と荒川さん。

 福島県南会津地方で、「南郷トマト」の栽培が開始して54年。福島県を代表するブランド野菜となるまでには、先人の並々ならぬ苦労があったに違いない。JA会津よつば・園芸直販部の星晴博部長が言う。「まずは市場ルートの開拓。当初から品質の評価は高かったが、量が少なかった。価格低迷からリアカーにトマトを積み、一部を村内に振り売りした時代もあったと聞いています」

 現在、南郷トマトを卸す市場は、東京8、大阪1、県内1だという。「南郷トマトの棚を作ってくれる店を、パートナー店と位置付け、その販売ルートを大切にしています」

 その販売戦略が、5年前の東日本大震災の折、功を奏することとなる。震災直後に発生した東京電力福島第一原発の事故に伴い、福島県の農畜産物が風評被害に曝されたことは記憶に新しい。発電所から約150キロも離れたここ南会津地方もその例外ではなかった。大手の量販店が「福島県産」というだけで、南郷トマトの取引を控え始める中、パートナー店の大半は、従来と変わらぬ付き合いを遵守してくれたという。

 JA会津よつば・南郷営農経済センターの佐藤実センター長も、「モスフードサービスの熱い支援にも感謝しています」と話す。

「いち早く、検査機関で検査を行い、安全性を確認したとして、震災後も、ぶれることなく、モスバーガーに南郷トマトを使用してくださっています」

 むろん、災害は震災に限らない。半世紀の間には、度々、集中豪雨や台風の被害を蒙っており、毎年のように降雪によるパイプハウスの倒壊などの被害に見舞われている。それでも、南郷トマトは、雪深い山間地にしっかりと根を下ろし、常に復興への道を歩み続けていく。

[提供]JAグループ [企画制作]新潮社
[撮影]三原久明 [ヘア&メイクアップ]岩本郁美 [スタイリスト]Mi-knot Inc.