第七回 プロ意識に勝負を挑み続ける、園子温さんの「アマチュア力」

ラッキィ池田の天才ウォッチ!―成功のヒミツは「子供力」―

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第七回 プロ意識に勝負を挑み続ける、園子温さんの「アマチュア力」

●アマチュアの真剣勝負はすごい!

 僕は、いつも「アマチュア」でいようと心がけています。とは言っても、ダンスの振り付けをすることで報酬を頂いていますので、それでいて「アマチュア」ってどういうこと? となると思いますが、これには意味があるのです。

 かつて、F1ドライバーで“音速の貴公子”と呼ばれたアイルトン・セナがレース中の事故で亡くなった時、永六輔さんがラジオで「セナはアマチュアだね。事故で亡くなるなんて」とビックリするような発言をして、多くのセナファンから「セナをアマチュア呼ばわりするなんて失礼だ!」という意見がたくさん寄せられたことがありました。それを受けて、永さんはこう言ったんです。

「アメリカのインディカー・レースは、レース前にレーサーたちが集まって誓うんです。『俺たちは死なない。なぜなら、俺たちはプロだから!』 つまり、その言葉からするとセナはアマチュアだと言ったのです。でも、ここから先を聞いて欲しい。僕は『アマチュア』という言葉を『素人』という言葉に訳しません。僕の言う『アマチュア』とは、『そのことが好きで好きでしょうがない人』をいうんです! そして、世の中を変えていくのも、いつもこの『アマチュア』です!」

 たぶん、そのときから僕はつねに「アマチュア」でいたい、「アマチュアって素敵だなぁ」と強く思い始めたのだと思います。



 立川談志さんは「いいか!世の中の物はだいたい人間が作ったんだ。だから人間に壊せない物は無い!」とお弟子さんの談春さんに言ったと、『赤めだか』で読みました。

 子供は大人に比べると頭が柔らかい分、無邪気で奇抜な発想力があります。ただ圧倒的に大人に負けるのは「経験」です。しかし、その「経験」こそがクセ者なのです!

 だいたいの物事や技術は、洗練されて構築されていくと、いわゆる「守り」に入りがちです。つねに新しい世界に突き進むのに僕が一番「邪魔」だと思う物は、「プロ意識」です。どんな組織でも、古い「プロ意識」に囚われすぎていると先に進めないどころか、「アマチュア」に足をすくわれて、オセロゲームのように根こそぎひっくり返されます。

20150412 French Chanbara Championship 022

 以前、「スポーツチャンバラ」というスポンジ状の棒でひっぱたき合うスポーツの取材に行ったとき、なぜこの「チャンバラ」をスポーツにしようとしたかをたずねるとこんな答えが返ってきました。

「剣道の師範が子供と剣道をやったときに、子供が竹刀をでたらめに振り回したんですよ。そうしたら師範は『それは剣道ではない』といって試合をしなかったんですね。それはおかしいと思ってね。じゃあ、もしもこれが本物の刀だったらどうするんですか? 子供に負けるんですか?」



 このスポーツチャンバラは面白くて、剣も帯刀タイプや長いヤリなどいろいろな種類があって、二刀流でもなんでもありなんです。これならあなたも剣道の達人に勝てるかも知れないですよ!

 そんなアマチュアの勝負の凄さを書いた小説に、団鬼六さんの『真剣師 小池重明』があります。読んでいて鳥肌が立つ本です! プロを総なめにする伝説のアマチュア将棋指し、小池重明を知ったら、きっと「アマチュア=素人」とは言えなくなるでしょう。

●世の中がひっくり返るときは、競争にすらならない

 さて、話は突然ですが、スマホで車を呼べる「Uber(ウーバー)システム」が近頃どんどん世界で広がっていますよね! まだ利用されていない方に説明しますと、このUberシステムに加入すると、いつでもどこでもお抱え運転手が迎えに来てくれるのと同じことになるのです。

 このシステムは、スマートフォンがあれば世界の主要都市どこでも使えるシステムで、登録はいたって簡単、クレジットカード番号を登録するだけ。車を呼びたいときにアプリでUberを開くと、すでにあなたのいる場所がスマホのGPSで出てきます。そして周辺にUberの車が何台あるかが出てきます。あなたが行きたい場所の住所を打ち込むと、その場所までの料金と、あと何分で近くの車が迎えに来られるかが表示されます。あとは実行ボタンを押せば、高級車と英語が話せる運転手が迎えに来るのです!

 先日タイのバンコクへ行ったとき、このUberがすごく便利でした。というのも、日本においてはタクシーが安全で上質なのでとくに問題ないのですが、タイのタクシーはたまにメーターを倒してくれない運転手がいて、料金をボラれることもあるのです。まあ、レートが違いますから日本円にして500円かそこらなので、そこは泣き寝入りするとしても、さらに困ることに、タイのタクシーは乗る前に運転手さんに行き先を言わないと商談成立しないのです。つまり、乗せてくれない! 運転手さんが英語が話せない時はタイ語で説明しなくてはならなくて、これはとても大変です。それを考えると、Uberは乗る前から行き先の住所が運転手のiPadに入力されているので、Googleマップを見ながら最短の道を行ってくれます。しかも、カード決済なのでお財布を出す必要もないのです。

 比べるまでもなく、このUber、何から何まで便利ですよね。

 今、これが世界の主要都市で利用されているのです。これはタクシーにとってものすごい脅威だと思いませんか? 僕たち日本人は日本のタクシーが優れていることを知っていますが、日本に来る旅行客の皆さんがすでにUberシステムに登録している状態で東京に来ると、東京のタクシーに乗ることなくUberを利用するんです。つまり、どちらがいいか競争すらさせてくれないんです!

 今までも世の中がひっくり返ったときが沢山ありましたよね。ご飯を薪で炊いていたのが電気炊飯器になったところまで遡らなくとも、レコードからCDに変わったときを思い出してください。みんな口々に「やっぱりアンプを通して聴くレコードの音って温かくていいよね。僕はレコード派だな」と言っていたのも束の間、やがてすぐにデジタルの便利さに負けてしまいました。今、ビデオデッキで映画を観ている人も少ないですよね。

 携帯電話が出てきたときも、当時は固定電話の方が料金が安いので「こちらからかけるときは公衆電話を使っています。携帯は受信用ですね」といっていた芸能マネージャーが沢山いましたが、今ではそんなことしている人は見ませんね。

 どんなに頑張っても、便利なものには適わなかったりするのです。日本のタクシー会社も「アプリで呼べるタクシー」と対抗策を出して頑張っていますので、是非とも海外の人たちに優良なところをアピールできるといいですね。

●プロじゃないけど、最高!なダンサーたち

 アマチュアに足をすくわれないようにするには、こちらもアマチュアになって好きな道を追求し続けるのが一番です。それまで積み重ねてきた「経験」に常に疑問符を突きつけながら、純粋に「好き」を追求する。それが「子供力」です。

 僕がダンスにのめり込んだ場所も、ディスコという社交場です。もちろんプロのダンサーなんておらず、映画『サタデー・ナイト・フィーバー』のように、昼間は工場で働いているお兄ちゃんが夜はファンキーな格好でディスコに現れて、流行のステップを格好よく踊っている……そんな姿に憧れて、僕はダンスに夢中になりました。深夜に放送していた『ソウル・トレイン』という番組では、いわゆる流行のディスコソングとは違う、もっとディープでずっしりとしたファンキーな曲に合わせて踊るクールな黒人ダンサーの踊りに釘付けになりました。今見ても格好いいですよね!

 彼らはテレビの中でこう叫んでいました。

「俺たちはプロじゃねえ!(イェーイ!) でも俺たちは最高のダンサーだ!(イェーイ!)」

 そんなアマチュアの最高峰のダンスの集大成が、マイケル・ジャクソンのダンスです! ブロードウェイのプロのダンサーにはないオリジナリティーに溢れたダンススタイルに、世界中がしびれましたよね! ダンスの世界をひっくり返した瞬間を見た気がしました。

●ちくわ天やコロッケを乗せるそば屋のような、園子温監督のキャスティング

Sono Shion (Love & Peace) at Opening Ceremony of the 28th Tokyo International Film Festival (21808669303)

 映画監督の園子温さんも、映画のスタイルをドンドン開拓しているチャレンジャーですよね。すなわち「プロを唸らせるアマチュア力」があります。園子温さんの「アマチュア力=子供力」はキャスティングにも表れています。

 またしても映画好きの関根勤さんが、「ラッキィ! 園子温監督の『地獄でなぜ悪い』観るたほうがいいよ!」というので観に行ったら、映画のエネルギーがもの凄すぎて、泣けるシーンじゃないのに涙が出てきました!(客席は大爆笑でした!) それほどの、最大級のバカ映画でした! あまりにも面白すぎたので、関根さんに「もう一度観に行きましょう!」と言い、一緒に観に行きました。この時すでに関根さんは4回目でした。それでも「馬鹿でぇ~~~!」って大笑いしていました(笑)

 この映画の星野源さんが良いんです! 星野さんは2015年の紅白歌合戦にも出た人気アーティストですが、当時はまだカルト的な人気だったと思います。そんな彼をキャスティングした経緯が、映画のパンフレットに出ていました。

「プロデューサーと2人で、気の弱い橋本役をどうしようかと下北沢で飲みながら相談していたら、飲み屋の前のヴィレッジヴァンガードの女子店員が星野源くんのポスターを張っているところに遭遇したので『星野くんっていいの?』って聞いたら『すごくいいです!』って言うんで、『映画とかはどうかな?』って聞くと『絶対いいと思います』っていうから、プロデューサーと『星野くんでいこう!』って決めたんです」

 園監督はヴィレッジヴァンガードの店員の意見で決めちゃった! そんなことが本当にあるのかと思って、僕は下北沢のヴィレッジヴァンガードの店員さんに話を聞きに行きました(笑)。

 大野さんという女性店員さんの話を聞いて、さらにびっくりしました。

「朝早くでしたね。星野源さんのアルバム『ストレンジャー』が出たのでコーナーを作ってCDを陳列していたのですが、おじさんみたいな人が来て『この人映画にどうなの?』って聞くんですよ。わたしは星野さんがドラマに出ていたのを知っていたので、そのおじさんが監督だと知らないで『ああ、映画すごくいいと思いますよ!』って言ったんです」

 僕は園監督が朝一番に行ったというところがさすがだと思いました。パンフレットにはあたかも飲んでいる道すがらの出来事で偶然に決めたかのように書かれていますが、そうではないのですね。もしかすると、飲んでいる間に星野さんに目をつけたのは本当かもしれません。でも、自分の映画の大切なキャスティングをそんなことでは決めない! 園監督は映画が大好きな「アマチュア」ではありますが、「素人」ではないのです。このキャスティングセンスは並大抵の映画監督では出来ません。

 この感覚は、食べ物屋さんで言うと、僕の好きな「立ち食いそば屋さん」や「セルフサービスのうどん屋さん」に近い感覚なのです。そこには必ず「ちくわ天」と「コロッケ」があります。老舗のおそば屋さんやうどん屋さんにはないものですよね。美味しいものはスタイルにとらわれずに乗っけてみるという感覚。星野源さんの演技は、「コロッケ」の親しみやすさと「ちくわ天」の深い味わいでいっぱいでした! もちろん、他の俳優陣は老舗のおそば屋さんの味のような最高の演技だったことも付け加えさせてください。


 ベネチア映画祭で7分間ものスタンディングオーべーションを受け、世界を笑わせた映画『地獄でなぜ悪い』は、一見ヤクザの抗争のシーンが目立ちますが、その実映画監督を目指す純粋な青年を……つまり園監督自身を描いた作品です。まだご覧になっていない方は、是非とも観てみてください。

 ちなみに、「世の中を変えるのは『アマチュア』です!」という素敵なことを言った永六輔さんは、あのコント55号が出てきた時、NHKのオーデションで「動きがうるさすぎる! こんなのは売れない!」って言って落としたそうです(笑)。そういう僕もポンキッキーズに出演していた安室奈美恵さんを「この子バラエティーには向かないね。売れないかも」と言っていましたっけ! ダメダメですね(笑)。

 皆さんもプロの常識に負けずに、「子供力」で突き進みましょう!

ラッキィ池田

1959年生まれ。『サタデー・ナイト・フィーバー』に影響を受けてディスコに通い始め、自己流でダンスを学ぶ。80年代半ばからダンサー・振付師の仕事を始め、日清食品カップヌードルCM等の斬新な振付けやバラエティ番組での奇抜なファッションがブレイク。以後、多数のCM、ヒット曲、テレビ番組等の振付けを行い、近年は『ようかい体操第一』やAKB48『心のプラカード』、「手裏剣戦隊ニンニンジャー」の振付けでも話題となる。子ども番組「いないいないばあっ!」「にほんごであそぼ」、NHK紅白歌合戦の振付けや吉本興業・東京NSCの講師も長年務めている。