第六回 前提を外して新しい価値を生む、秋元康さんの「規格外力」

ラッキィ池田の天才ウォッチ!―成功のヒミツは「子供力」―

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第六回 前提を外して新しい価値を生む、秋元康さんの「規格外力」

「チームしゃちほこ」「ジャニーズWEST」など、数々のアイドルの振り付けも手がけるラッキィ池田。AKB48のシングル「心のプラカード」の振り付けを担当した際に、プロデューサー秋元康さんのアイドル運営には他のグループと決定的に異なる点があることに気づいたといいます。ヒントは、ものづくりの街・秋葉原!

●子供の会話は予測不能!

 以前、TBSテレビがMPIという英会話スクールと共同で作った「Cat Chat 英会話たいそう」というDVDの振り付けをしました。このDVDは、多くの小学校でも教材として使われているもので、日常の会話がそのまま英語の歌になっているので会話とジェスチャーをセットで覚えられるものなのですが、これがなんとも飛んでいる会話で楽しいのです!

「これ、かっこいいね!」「ありがとう」「いい自転車だね」「こわれています」「なおせると思います」「頭いいね~」「わたしたちチャンピオンだ!」「やったね!」……こんな会話なのです。でも、この突拍子もない会話が子供達に大人気!

 MPIで長年子供の英会話の教育を研究してきた松香洋子さんに「どうして会話がこんなにブッ飛んでいるんですか?」と聞くと、「だって、子供の会話っていつも予測不可能じゃない。それが活きている会話なんですよ」という答え。そうですよね~。子供との会話って予測不能です!

 でも、この「予測不能」な「子供力」が、常識の枠を取り払って新しい「価値」を生み出す可能性が大いにあるんですね。

 ヴィトゲンシュタインは「太陽が明日ものぼるだろうというのは、一つの仮説である。すなわち、我々は明日太陽が昇るかどうか、知っているわけではない」と言っていますが、新しい企画を考えるとき、とかく「時間」や「予算」などの決まりごとに制約されて、まだ誰も見ていない未来を、簡単に見てしまってはいませんか? 今回は、「規格外」の発想には大きく「子供力」が関わってくるというお話をしたいと思います。

●完成品ではない「部品」のアイドルグループをつくった秋元康さん

 立川談志さんが「価値観が同じで、相手のレベルまでこちらが達していないとき、その空間を埋める行為が“尊敬”だ」と言っていますが、同じ音楽業界に携わっている自分としては、圧倒的にCDの売り上げを誇っているAKB48を作り上げた秋元康さんのことを“尊敬”せざるをえません。

 AKB48が2014年に発売した37枚目のシングル「心のプラカード」の振り付けを依頼された時、秋元さんは僕にこう言いました。

「この曲で、みんなでディスコダンスしたいんだよね~! ラッキィさんも昔踊ったと思うけど、あの頃はみんな、ディスコで同じダンスを踊ったじゃない? あの感覚って経験した人しか分からないんだよね~!」

 ……あれ? でもその前の「恋するフォーチュンクッキー」で、みんなディスコダンス風に踊っているじゃないですか?

「違うんだよ、コンサート会場をまるごとディスコティックにしたいんだよね! 意外とうちのファンのみんなはそれぞれの応援スタイルがあって、『恋するフォーチュンクッキー』も揃っては踊らないんだよ」。

 なるほど全員にディスコダンスを踊らせたいか……秋元さんの底知れぬ野望を感じた瞬間でした。

 そうして、往年のディスコダンスやステップを駆使して作った「心のプラカード」は、たくさんの人に楽しんではもらえましたが、ファンの人たちがみんな同じ踊りをするまでにはいきませんでした。難しいですね。

 そもそもAKB48の魅力って何でしょう?

 それは「いつでも会いに行けるアイドル」ということです。そしてAKB劇場がある場所は秋葉原。秋葉原といえば電気街ですね。

 以前、「秋葉原電子部品ものづくりマップ」という、どこにどんな電気の部品が売っているかが一目でわかる地図の取材で、「秋葉原駅前商店街振興組合」の理事長・八巻秀次さんにお会いしたことがありました。もともと秋葉原は戦前から電気店があり、戦後は露天商から始まっていろんな電気の部品を売っていて、みんなそれでラジオを作って売っていた。それが飛ぶように売れたので、今度は個人でテレビも作って売ったりしていた。ここは“ものを作りたい人が集まる街”なのですね。

 なるほど、そういう指向の人達に向けて作ったのが、身近に感じられる「会いに行けるアイドル」なんです。だからAKB48には「総選挙」があって、自分たちでセンターを決めることができる! 昔からラジオを作ったりテレビを作ったり、その後はパソコンを作ったり自分の好きにカスタムしたり……それと同じ感覚のアイドルなんですね。

 その昔からアイドルは“素人っぽい”ことで人気がある面はありましたが、かといってテレビの前の僕たちが自分でグループを構成するところまでは参加できませんでしたよね。あくまで事務所やレコード会社が方針を決めていたのです。

 しかし、秋元さんは違います。

 この「心のプラカード」の時も、秋元さんは「センターが誰になるかわからないけど、もし指原さんがセンターだったら、博多でビデオを撮ることも計画しておいたほうがいいな。早めに準備しておこう」と言っていましたし、現に僕の振り付けは、指原さんがV2でセンターになることを想定して「トラボルタポーズ」の指がピースになったものを考えていました(結果は渡辺麻友さんがV1で、ポーズも普通のトラボルタポーズになってしまいましたが)。秋元さんは、このAKB48というグループは、あくまでファンが作るものだとしているんですね。そのために自分の計画がねじ曲げられることも承知なんです。そこが他のプロデューサーと違う部分なのです。

 市場にすべてをさらけだし、オープンにして活性化させる。これですかね。圧倒的な売り上げの秘訣は。

 ちなみに、僕が振り付けをしているアイドル「チームしゃちほこ」は、ファンがみんな僕のダンスを完コピしてものすごいエネルギーで踊っていますし、男性アイドルの「関ジャニ∞」や「ジャニーズWEST」のファンの皆さんにも、ダンスを楽しんでもらっています。

 しかし音楽業界の「経済効果」を焦点に考えると、秋元さんの、ファンにすべてを投げ、完成品ではないあくまで「部品」としてのアイドルを集めたまるで「秋葉原ラジオ会館」のようなグループ経営は、「英会話たいそう」に出てくる歌詞のような突拍子もない子供の会話を全部受け入れる、活きた経営なのだと思います。そして、秋葉原に集まる人達の心をよく理解しているやり方なんですね。あっぱれ!

●「焼きそばメロンパン」に「折り紙」……規格外の子供ビジネス!

 子供たちに将来、秋元さんのような発想力で「稼ぐ力」を持って欲しいと、「お金の大切さ」や「お金のセンス」を身につけさせるセミナーがあります。「キッズ・マネー・ステーション」という全国各地でやっているセミナーです。僕も常々、学校教育で「お金儲け」を教えないのはおかしいなと考えていましたから、このセミナーにはかねてから興味津々でした!

 僕は仙台のセミナーの主催者にお話を伺ったのですが、とても勉強になりましたね。まず、このセミナーは、参加する子供たちだけで「会社」を作ってもらいます。もちろんたった1人でも大丈夫です。それから、最初は何を売る会社かを決めます。次にその売り物を製作するための資金を調達します。親を説得して1万円借りるのもいいし、親が資本金を出してくれない場合は、セミナーが銀行としてお金を貸します。もちろん銀行ですので「利息」がつきます。

 さあ、資金調達ができたら商売の始まりです。例えばあるグループは新しいパンを作って売ろうと考えました。そのパンとは「焼きそばメロンパン」です! その理由が分かりやすくて、「パン屋さんで1、2を争う人気のパンを合体させたら、大ヒット商品になる!」とのことです。で、早速パン屋さんに「焼きそばメロンパン」を作ってもらいます。しかし、ここで問題が発生します。1個作るのに300円コストがかかるのです。普通なら諦めるのですが、子供ですから発注してしまいます。大事なのはここでセミナー側が「止めておいたほうがいい」とアドバイスしない事です。あくまでも子供の判断で最後までやらせるのです。で、出来上がった「焼きそばメロンパン」は儲けを得るために1個500円で売られます。

 お昼休みの仙台駅前、会社員は子供が売っているとはいえ、1個500円のパンには見向きもしません。そこで子供たちは「値下げ」を決断します。1個100円に値下げするのです。売れれば売れるほど赤字になるパンの誕生です! そして最後に、子供達に決算報告をさせます。するとそこで「お前が値下げしようと言ったから赤字になったんだ!」と、イザコザが始まるのです。

 これはすごくいい経験になるセミナーだと思いませんか?

 中には大人をビックリさせた子供もいまして、その子は「自分の作った折り紙を売る」という商売を考えたのです。もちろんセミナーの大人たちは「なるほど、じゃあ折り紙1個いくらで売るのかな?」「誰が買うんだろう?」と質問をしますが、「そんな物が売れるはずないじゃない!」とは言いません。で、結果はというと、なんとその子は2年連続して自分の折った折り紙を完売させたのです! きっと自分と同じ子供が何を欲しいかが感覚で分かっていたのか、それとも売り方にコツがあるのか……商才があることは間違いないですね!

 それにしても「焼きそばメロンパン」、聞くだけでお腹が膨れてきますね(笑)

●商売の「前提」を外したとき、思いもよらない価値が生まれる!?

 お腹が一杯になったところで、アフターディナーにコーヒーの話題はいかがでしょう。

「子供力」が世の中の常識にとらわれずに発想していく力だとしたら、「ザ・ミュンヒ」のコーヒーは子供力満点! コーヒーの頂上をいくコーヒーでしょう。それを飲んだ人たちからは「レジェンド!」「他に比類なし!」「神への冒涜?」など絶賛の声しかありません!

 みなさんもコーヒーが好きですよね。でも、普段僕もみなさんも飲んでいるコーヒーは規格内のコーヒー??? そうなんです! この「ザ・ミュンヒ」のコーヒーは規格外のコーヒーなんです!

 それは大阪の八尾にありました。駅から歩いて15分、普通の民家が並ぶ住宅街にポツンとある「ザ・ミュンヒ」というお店。ここのコーヒーは、まぎれもなく日本一です!

 僕は予約をしてうかがったのですが、時間が夕飯時ということもあってか、お店には誰もいません。「えっ? ここが有名な『ザ・ミュンヒ』なの?」って不安になるくらい、お店の中にドイツのバイクがあったりする以外は、普通の喫茶店に見えました。

 ところが、カウンターから出てきたマスター……詩人の中原中也が年をとったらこんな感じになるのではと思わせる雰囲気のご主人……田中完枝さんが、僕を「コーヒーの迷宮」に案内してくれるのでした。

「お電話いただいた池田さんですね。ご存知かもしれませんが、うちのコーヒーは規格外のコーヒーです。あらかじめご予約いただきましたので、すでに4時間近くかけてコーヒーを入れておきました。そのコーヒーを飲んでみてください」

 そう語るマスターの入れたコーヒーは、なんとまろやかでフルーティーなことか! コーヒーがフルーティーなんです! コーヒーの苦味や、いやみが全くなく、ありえない位にまろやかで、味わった事のないやさしい薫り! これがコーヒーか? 僕はひとこと「これ、コーヒーなんですか? コーヒーってこんなに美味しいんですか?」と言うのが精一杯で、言葉に表現出来ないほど美味しかったのです! まるで飲んだ瞬間に、それまで口も聞いてくれなかったコーヒー豆が「僕のことわかってくれた?」ってニコニコして喋ってくれたような……そんな感動が……。

 でも、これを1杯入れるのに4時間近くかけているって本当ですか?

「池田さん。僕はコーヒーが好きでね。銀座に美味しいコーヒーのお店がありまして、その味をずっと追い求めてきました。どうしたらあの味を出せるのか。どうしても僕は追いつきたくて努力してきたんです。で、あるときにようやくその味にたどり着いたのです。

 でもね……そのときに思っちゃったんですね。『追いついたからって何なんだろう? それじゃあ、そのお店に行ってコーヒーを飲めば同じじゃないか』って(笑)。そこから『僕だけのコーヒー』を探す旅が始まったんです。

 で、あるときにふと思ったんです。コーヒーをお客さんに提供する条件はなんだろう? って。それは『時間』なんですね。じゃあ、時間を度外視したらどんなコーヒーが出来るんだろうって。普通、コーヒーはだいたい5分以内でサービスするでしょう。それを考えなかったら? ってね。それで出来た『規格外』のコーヒーがこれです。85度のお湯でゆっくりゆっくりドリップして、最初の1滴が落ちてくるのに3時間! そのあとは40度のぬるま湯にチェンジして、1時間かかって120cc抽出するんです」

 田中さんは言います。「これは飲むポエムです! コーヒーのポエムです! うちは、大阪では一番! 日本でもコーヒーの味なら10のランキングに入る人気店です。でも、ご覧の通り、お客はいません。売上はたぶん……最下位です(笑)。でも、このポエムを味わいに来るお客さんがいるんです。それでいいんです……」

 マスターのなんて格好良いこと!

 AKB48の秋元康さんのように、「規格外」の発想でたくさんの利益を得るわけではありませんが、「ザ・ミュンヒ」のマスターは、唯一無二の「価値」を生み出したと思います。

「明日太陽が昇ることは誰も知らない」のですから、「子供力」でどんどん型にとらわれない発想をしようではありませんか。

ラッキィ池田

1959年生まれ。『サタデー・ナイト・フィーバー』に影響を受けてディスコに通い始め、自己流でダンスを学ぶ。80年代半ばからダンサー・振付師の仕事を始め、日清食品カップヌードルCM等の斬新な振付けやバラエティ番組での奇抜なファッションがブレイク。以後、多数のCM、ヒット曲、テレビ番組等の振付けを行い、近年は『ようかい体操第一』やAKB48『心のプラカード』、「手裏剣戦隊ニンニンジャー」の振付けでも話題となる。子ども番組「いないいないばあっ!」「にほんごであそぼ」、NHK紅白歌合戦の振付けや吉本興業・東京NSCの講師も長年務めている。