第一回 子供スイッチを押そう!

ラッキィ池田の天才ウォッチ!―成功のヒミツは「子供力」―

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第一回 子供スイッチを押そう!

●「子供スイッチ」とは、物事にワクワクするスイッチ

「おまかせでお願いします、なんて言われちゃうとハリキっちゃいますよ!」

 白髪交じりの初老のタクシー運転手さんは、ニコニコしながら僕にそう言った。

「子供スイッチ」がONになる音がカチッと聞こえた気がした! 「子供スイッチ」とは、その名のとおり押せば子供になってしまうスイッチだ。

 みなさん、「子供スイッチ」押していますか?

 本当に子供は自由で素敵です。泣いたと思ったらすぐ笑い、思うまま欲しいままに自分の感情を表に出す。ようやく歩き始めた子供は、街のあちこちに興味を示し、犬や猫はもちろん虫やゴミにまでワクワクしながら街を探検している。時には立ち止まりしゃがみこみ、指をさしたり話しかけたり……まだ真っ白な自分のウィキペディアに少しずつ書き込みをしていく。

 もう少し大きくなると、唄を歌いながらスキップしたり、少しの段差を上ったり下りたりしたり、横断歩道は白いところだけをケンケンしたり……自分のオリジナルステップで、まるでフレッド・アステアやジーン・ケリーのミュージカルシーンのように、ダンスしながら街を歩く!

 もちろん彼らは子供なので「子供スイッチ」を入れなくても常にスイッチON状態なのです。

 物事に興味を持ち、何かをやりたいと願う“欲望”とは、人が人である第一条件かもしれません。

 ニーチェは言いました。「人は何も欲さないよりも、いっそむしろ無を欲する!」と。そして子供は「宇宙の第一運動である!」とも。

 やがて小学校も3年生くらいになると、さすがに少しずつ大人になろうとして(というか、自分よりもちっちゃな子供と比べて自分は大人なんだと自慢したいので)常に日常をミュージカルのようにダンスしながらは過ごさないが、それでも何かお願い事をすると、たちまち「子供スイッチ」が入って、よろこんで仕事してくれます。たとえそれが、大人が面倒くさいと思う……ゴミだしや掃除や買い物……の類でもよろこんで、われさきにと仕事してくれるのです。「ゴミ捨ててきてくれたの? すごいね! ちゃんと缶やペットボトルも分けて捨てられたんだ!」「お買い物できた? わあ! 今度はもっとたのんじゃおうかな?」なんて褒めたりでもしたら、どこまでも喜んで働いてくれる!

 そこでふと考えるに、本来「仕事」とは、常に「ワクワク」できて冒険心いっぱいで出来るものなのではないでしょうか?

 ラッキィなことに、僕は常に「みんなが楽しんで踊れるダンスを作ってください!」「ちょっとクセがあってヘンテコなものをお願いします!」と、ワクワクすることが大前提な振り付けを望まれながら30年間も仕事させて頂いているので、この「子供スイッチ」がまるでバスの降車ボタンのように体中のいたるところにあって、いつでもON出来る状態なんです。

 みなさんにも必ず「子供スイッチ」があるので、押してみてください!

 でも、そもそも自分や誰かの「子供スイッチ」って、どうやったら押せるの?

 ハイ! 今日はそれをお話したいと思います。

●ワクワク仕事のポイントは「任せちゃう」こと

 そこで、先ほどのタクシーの運転手さんとの会話です。

 たしかその日は中目黒でCMの撮影があり、そのまま地方に行くスケジュールだったので、タクシーを拾って東京駅に向かいました。基本的に僕は電車移動ですが、バッグも大きかったし中目黒から東京駅ってちょっと乗り継ぎがややこしそうでしたので、車移動にしたのかな。休めるしね。最近は、タクシーに乗ると必ず運転手さんが「ルートはどうしますか?」と尋ねてきます。このときも運転手さんにそう聞かれたので、「おまかせします」というと、初老の運転手さんは笑ってこう言いました。

「ほう! これはいいお客さんを乗せましたな。じゃあ、グルッと遠回りしてメーター稼いじゃますよ!」

「いいですよ。でも、逆走でもしない限り結果でいうとたいして料金変わらないんじゃないかな。逆にちょっとゆっくりしたいので、おまかせしますよ!」

 すると運転手さんは頷いて、

「お客さん、わかってくれてありがたいですよ。われわれは常に良い道探してお客さんのために走っているんですよ。わざわざ遠回りして少しのお金稼いで嬉しいですかね? 普通は『おまかせでお願いします』なんて言われたら、ハリキっちゃいますよ! ハリキって良い道選んで走りますよ! 仕事ってそういうもんじゃないですかね。まかせてください! 最短かどうかはわかりませんが、空いていて快適な道を行かせてもらいます!」

 ときたま女性の運転手さんに当たることもありますが、その女性運転手さんは、以前乗せたお客さんがあまりに「こう行け! ああ行け!」とうるさくなじるものだから、お客さんを降ろした瞬間、目眩がしてしばらく走れなかったと話していました。

 どうです? この話には、「子供スイッチ」を押して仕事できるかどうかのポイントがあると思いませんか?

 人を傷つけてまでして自分の思うままに動いてもらうのか、それとも、子供のようにウキウキワクワクしながら、笑顔で喜んで働いてもらうのか。どちらが気持ちいいのかということです。

●「NO」を使わず思考してみる

 僕が心がけていることに、なるべく「NO!」という言葉を使わずに思考していくというルールがあります。特に子供に対してはこの「NO!」を使わないようにしています。

 例えば、僕は子供合唱団のステージングもやっていますが、子供たちは列になって合唱するので、さすがに、いくら子供は自由が素敵だといっても、見た目はきちっと列が揃っている方が格好がいいのです。大人になれば列を揃える美しさが理解できるので、美を追求して様々な、まるで万華鏡を覗くようなフォーメーションを展開できるのですが、いかんせん子供は誰かに見てもらいたいという意識が薄いので、列もぐちゃぐちゃで練習の集中力もすぐ切れてしまいます。特に、まっすぐに立っていられない。まっすぐ立つことは大人でも難しいので、それを子供にいちいち「ほら、ダラダラしないでまっすぐ、気を付けしなきゃダメ!」といっても、効き目はほとんどないのです。

 そこで僕が編み出した、まっすぐになる作戦があります。

「じゃあね、今から4つポーズを言いますから覚えてみてね! できるかな? 1つ目はカマキリのポーズ! こうやって両手をカマキリにしてね。いいね! 2つ目はあたまに耳を作ってウサギさんだよ。うん! 3つ目はダラ~っとしただらしないポーズ! おっ! いいよ! はい! 最後の4つ目は、シャキーンっと気を付けのポーズ! 出来てるね。……じゃあ、1つ目のカマキリ! はい、2つ目のウサギさん! 3つ目はダラ~ん。4つ目はシャキーン! よ~し、それじゃあね、次の歌のときは4つ目のシャキーンで歌うよ!」

 こういうと、子供たちはしばらくはハリキってシャキーンとして歌うのです。でも少し時間がたつとまた自然にダラ~んとしてくる。そのときは、

「あれっ? 今ね、1番のカマキリのポーズのひとはいなかったけど、3番のダラ~んのポーズの人が何人かいたよ。今は4番だよ! だって、この歌は4番のシャキーンのポーズで歌う方が格好いいと思わない?」

 こんな風に、NOを使わずに注意が出来ます。何よりも、子供たちに「格好よくハリキリたい!」という「子供スイッチ」を押させることが大切なんです。

●「子供スイッチ」を押せばこんなことも出来ちゃう

 さて「子供スイッチ」=「ハリキリスイッチ」とも言えるのですが、「ハリキリスイッチ」が入るとこういうことも起こるという、面白い話があります。

 2015年10月21日は映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』でタイムマシンの「デロリアン号」が未来に到達した日でした。この「デロリアン号」は車に詳しくなくともほとんどの人が知っている、あの時空を超える車です。

 僕は車のプラモデルを作る趣味があるので、よくプラモデルの雑誌を見たりするのですが、あるときユニークな車を目にました。

「バック・トゥ・ザ・フューチャーの『デロリアン号』をノーマルな『デロリアン』に改造しました!」

 ノーマルな「デロリアン」……つまり、映画の「デロリアン号」に付いていたむき出しのタイムマシンのメカを取り除いた、ステンレスボディーのスタイリッシュな「デロリアン」のプラモデルが載っていたんです。

 これ、普通は逆ですよね。モデルカーの世界に詳しくない方にも説明すると、例えばBMWのZ3にミサイルをつけて、映画『007』の「ボンドカー」にするとか、マツダのコスモスポーツを改造して『ウルトラマン』の「マットビハイクル」にするなど、実在の車のプラモデルを改造して、劇中車を作るというのが普通なんです。それなのにこの「デロリアン」は、劇中車「デロリアン号」のプラモデルから、わざわざタイムマシンのメカを削って作っているんですね。

 なぜなんだろう。そんな事をしなくても元の「デロリアン」のプラモデルを買って作れば……あれっ? もしかして!? そう。元のデロリアンのプラモデルはないのです。どのメーカーを探しても、あのゴテゴテしたタイムマシンの付いた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の劇中車ばかりなんです。

 何故か。それは実在した元の「デロリアン」はプラモデルにする販売権利がどこにあるのかわからなくなっているからだそう。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の劇中車なら、版権が映画会社にあって、たぶん簡単に許諾がとれたのでしょう。

「デロリアン号」の原型となった車は、実はかなり数奇な運命をたどった車なのです。

 この車は、アメリカの大手車メーカーGMの副社長までいったジョン・ザッカリー・デロリアンという人が1975年に独立し、1981年に発表した車です。デザイナーはあのジョルジェット・ジウジアーロ! フォルクスワーゲンの「ゴルフ」やフィアット「パンダ」、日本のいすゞ「117クーペ」に日産「マーチ」、ロータス「エスプリ」にマセラティ、アルファロメオ……数えたらキリがないほどの有名な車を世に出している天才デザイナーで、ジャンルは違いますが、サザンの桑田さんや秋元康さんのような大ヒットメーカーですね。

 その天才ジウジアーロがデザインした「デロリアンDMC-12」は、発売してわずか1年足らずで会社が倒産して、2度と作られることのない幻の車となってしまいました。

 ジョン・デロリアンとジウジアーロが車を作るにあたって、もしかするとこんな会話がなされたのではないか? と勝手に想像してみました。

デロリアン「よう、ジウジアーロちゃん、元気ィ? 今度新しい車の会社作ったから、是非とも第1号をデザインしてチョー!」

ジウジアーロ「デロリアンちゃん、GMの副社長までいったのに辞めちゃったんだってね。もったいないね! だって次は社長じゃん!」

デロリアン「あんな面白くもない車ばっかり作っていたら、退屈であくびしかでないよ。それよりジウジアーロちゃん、これまでたくさん車作ってきたと思うけど、僕はジウジアーロちゃんに、注文なんか付けないからね! 好きにやっちゃってよ!!! もう、みんながぶっ飛ぶような未来の車作ろうよ! ヤッホー!」
ジウジアーロ「いいの? やっちゃって! うれしぃーーーー! ハリキっちゃうよ! じゃあさ、ドアは、上に持ち上げるガルウイングにしようよ! めっちゃ格好良いじゃん! それにガルウイングって乗り降りも便利で実用的なんだよ。あっ! ひらめいちゃった! ボディは何色だと思う?」

デロリアン「なになに? フェラーリのように赤とか?」

ジウジアーロ「ブーーーーー! 車体の色は、シルバー! なぜなら車体はステンレスだから!」

デロリアン「す、す、す、ステンレスって、キッチンの流しのステンレス? すっげ~画期的じゃん! 絶対に錆びないし、超格好いい! もしかしてキッチン大好きママさんにも受けるスーパー未来カーになっちゃうかもね! ようし、こうなったら、デロリアンワゴンとか、デロリアンミニとか、いっぱいいっぱい未来カー作っちゃおうよ! GMなんかクソくらえ! イヤッホー!!!」

 なんとも勝手な想像でスミマセン!

 結果、デロリアンの夢も虚しく、発売されたのは「DMC-12」のみで、あえなく倒産。その後復活することもなく、ジョン・デロリアンは2005年に生涯を終えたのでした。

 しかし、世界中の一般人のほとんどが購入するのをためらった車「デロリアンDMC-12」は、映画の劇中車として世界中に知れ渡ることになったのです。

 天才ジウジアーロの「子供スイッチ」をONにしたデロリアンさん。回り回って、世界中に夢を運んだ素晴らしい未来カーを作ったと僕は思っています。

 このように「ワクワク」を産みだす「子供スイッチ」。

 さあ、みなさんも「子供スイッチ」を押して未来を夢見ようではありませんか!

ラッキィ池田

1959年生まれ。『サタデー・ナイト・フィーバー』に影響を受けてディスコに通い始め、自己流でダンスを学ぶ。80年代半ばからダンサー・振付師の仕事を始め、日清食品カップヌードルCM等の斬新な振付けやバラエティ番組での奇抜なファッションがブレイク。以後、多数のCM、ヒット曲、テレビ番組等の振付けを行い、近年は『ようかい体操第一』やAKB48『心のプラカード』、「手裏剣戦隊ニンニンジャー」の振付けでも話題となる。子ども番組「いないいないばあっ!」「にほんごであそぼ」、NHK紅白歌合戦の振付けや吉本興業・東京NSCの講師も長年務めている。