拉致問題で百田尚樹氏が「売国奴」と非難した政治家の名

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 北朝鮮による拉致被害者家族の横田滋さんの訃報は、改めて日本人にこの犯罪のむごさを知らしめる機会となった。関連して、作家の百田尚樹氏はツイッター上で、自身について「(拉致問題について)何もしていないクズです」と述べながらも一方で、この問題を無視し続けてきた政治家やメディアを痛烈に批判。恒例のことであるが一連のツイートはすでにネットニュースにもなっている。

「何もしていない」と言いながらも、百田氏のこの問題についての関心は強く、関連のツイートが大炎上した過去を持つ。

 2014年9月、亡くなった土井たか子元社民党党首を「売国奴」と評したツイートが問題視されたのだ。あえて死者に対して厳しいコメントをした真意は何か。

 著書『大放言』では、その発信に至ったプロセスを丁寧に書いてあるので、引用してみよう。

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「土井たか子は売国奴」発言

 これは2014年9月27日のツイートである。元社民党党首の土井たか子氏が亡くなったというニュースを見たときに書いたものだ。この言葉はまずツイッターとネット上で大炎上した。

「許せない暴言」

「死者に対する冒涜」

「デリカシーのかけらもない言葉」

 などなど。私はまさに人非人か極悪人のように罵倒された。この本の読者の中にも、百田尚樹が死者に対してひどい言葉を投げつけたというネット情報を目にした方がおられるかもしれない。たしかにその通りなのだが、彼女を売国奴と言ったのにはもちろん理由がある。私の言い分を書く前に、ツイートの全文を記す。

「土井たかこ(原文ママ)が死んだらしい。彼女は拉致などない! と断言したばかりか、拉致被害者の家族の情報を北朝鮮に流した疑惑もある。まさしく売国奴だった」

 土井たか子氏は社会党の委員長を5年、社民党の党首を7年務めた。左翼系の新聞やメディアには非常に人気が高かった。というよりも、そうしたメディアによって作られた人気と言えた。

 北朝鮮による日本人拉致疑惑が言われだしていた1980年代後半、土井氏は「北朝鮮の拉致などない」と何度も発言していたし、党の公式ホームページにおいても「(北朝鮮の)拉致は創作された事件」と主張する論文を書いていた。つまり彼女は拉致された日本人を救おうとはせず、それどころか党を挙げて北朝鮮を擁護し続けていたのだ。それだけでも売国奴と呼ぶにふさわしいが、土井氏にはもうひとつ重大な疑惑がある。

 ヨーロッパで拉致された石岡亨さんが、決死の思いで家族に当てた手紙が、1988年9月、ポーランド経由で日本に届いた。これは奇跡のような出来事である。もし手紙を書いたことが当局に漏れれば命は危ない。その手紙を日本まで届けた人物たちも同様である。しかし手紙は彼のために命を懸けた者たちの手によって、日本にわたってきた。

 手紙は同じく北朝鮮に拉致された有本恵子さんのご両親のもとに届けられた。実は有本恵子さんは北朝鮮で石岡さんと結婚してこどももいた。

 有本さんのご両親は外務省に娘の救助を要請するが、当時は政府自民党も北朝鮮の拉致を公式には認めていなかったため、相手にされなかった。この頃の自民党の姿勢も万死に値すると思う。

 外務省に無視された有本さんご夫婦は藁をもすがる思いで、当時、北朝鮮にパイプがあると言われていた社会党にお願いしようと、同じ九月に国会のエレベーターの前で土井氏をつかまえ、彼女に手紙の存在を伝え、娘が北朝鮮に拉致されていることを訴えた。しかし土井氏はまったく相手にしなかった。「拉致などない!」と断言していた彼女のことだから、これは当然の対応ではあるが、驚くべきことが後に明らかになる。

 14年後の2002年、小泉首相と安倍官房副長官が北朝鮮にわたり、金正日主席に拉致を認めさせた。このとき拉致被害者たちの多くの消息が知らされたが、そこには意外な事実があった。なんと、石岡亨さんと有本恵子さんは1988年11月にガス中毒でこどもと一緒にすでに死亡していたというのだ。1988年11月と言えば、有本さんが土井氏に手紙のことを伝えたわずか2カ月後である。こんな偶然があるだろうか。しかも北朝鮮は「遺体は洪水で流失した」と報告した。当然、本当の死因もわからない。

 土井氏が手紙の存在を北朝鮮に漏らしたことで、石岡さんと有本さんは粛清された可能性がある。もちろん確証はない。だからツイートでは「疑惑」という言葉を使った。

 そのツイートをした翌月の9日、社民党の又市征治幹事長が記者会見で私を非難した。私の発言が「党をおとしめる誹謗中傷」であるとし、「NHKの経営委員として不適格だ」と述べて、辞任を要求した。

 早速、朝日新聞をはじめ毎日新聞や東京新聞が喜んで記事にしたが、私はこの報道を受けて、ツイッターで又市幹事長に対してこう書いた。

「記者会見とかで言わずに、国会に呼べよ!」

 もし国会に呼ばれたら、又市幹事長と真っ向からやり合うつもりだった。

政治的評価として

 土井氏が石岡さんの手紙を北朝鮮に漏らしたかどうかについての証拠はない。しかし、実は彼女はそれ以外にも売国奴と呼ばれても仕方がないことをやっている。それは、韓国政府に捕まっていた拉致の実行犯・辛光洙の釈放を求める要望書を韓国政府に提出していることだ。

 拉致された日本人被害者を救おうとはせずに、日本人を拉致した北朝鮮の工作員を救おうとする――これを「売国奴」と言って何が悪い! ちなみにこのとき同じ要望書に名前を連ねたのが民主党の菅直人氏である(後に首相になっている)。

 もし国会に招致されたら、又市幹事長に土井氏の疑惑について尋ね、納得のいく説明を聞かせてもらおうと思っていた。しかし残念ながら、またもや私の国会招致はなくなった。

 たしかに日本には死者を鞭打つ文化はない。死ねば仏である。

 しかし政治的な評価は亡くなった後でもついてまわる。誤った政策や間違った政治的判断は、死後はなかったことに決してされない。それが政治家の宿命である。

「土井たか子は売国奴だった」という発言は、政治家・土井たか子氏に対する私の評価の言葉である。議論も炎上も堂々と受けて立つ。

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 さすがに現在の日本の政治家で拉致問題は無かったというスタンスの人は見当たらない。土井氏の後輩である福島瑞穂社民党党首も、「滋さんが生きていらっしゃる間に拉致問題が解決せずに申し訳ありません」とツイッター上でコメントを発表している。過去の経緯を乗り越え、与野党関係なくこの問題で共闘できる日は来るのだろうか。

デイリー新潮編集部

2020年6月16日掲載

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