トキが増え過ぎて「もはや害鳥」佐渡の住民が困惑

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 新型肺炎の影響は思わぬところにも広がっている。上海歌舞団による「朱鷺(とき)」の日本公演がウイルス蔓延のために中止になってしまったのだ。

 この舞劇、1999年に中国の江沢民主席(当時)が日本につがいのトキ(ヨウヨウとヤンヤン)を贈ったことから日中友好の象徴として作られた作品だ。当時、日本では保護されていたトキが最後の一羽となってしまい、国産種は絶滅の縁にあった。トキの学名はニッポニア・ニッポン。何としても復活させたい政府(当時の環境庁)は、中国からもらい受けた2羽を、新潟県の「佐渡トキ保護センター」で大事に育て、今では自然繁殖するまでになっている。

 一昨年には秋篠宮家の眞子さまが佐渡島で行われた「佐渡トキ野生復帰10周年式典」にご出席。「環境後進国」と揶揄されがちな昨今、誰もが嬉しいニュースのはず、だった。

 ところが、最近になって地元の佐渡では、そのトキが問題になっているという。数が増え過ぎたのだ。

 獣医でトキの保護事業にも関わった葉梨輝夫氏(佐渡市在住)が言う。

「佐渡ではトキ保護センターが幼鳥を育て自然に放してきたのですが、観察して分かったのは、トキは意外に繁殖相手を見つけるのが上手だということ。現在、野生のトキは430羽ほどいますが、このペースだと数年のうちに自然繁殖だけで千羽を超えると見ています。それだけ佐渡が自然豊かであるとも言えるのですが……」

 増え過ぎると何が起きるのか。葉梨氏が続ける。

「佐渡には8年前に固有種と認定されたサドガエルがいます。これも希少な野生動物なのですが、サドガエルはトキの大好物。そういった捕食被害に加えて、もうひとつ問題が出てきた。トキは足に水かきがついていて、田植えの季節に稲の苗を踏みつぶしてしまう。このままの増え方だと、地元のコメ農家との摩擦も懸念されているのです」

 その淡いピンク色を指して「朱鷺色」と呼ばれるほど美しい羽を持つトキだが、大正の頃までは害鳥扱いされていた。

 そこで環境省の佐渡自然保護官事務所に聞くと、

「たしかにトキが苗を踏んで困るという声は農家から上がっておりまして、今年に入って4回、環境省と新潟県、そして佐渡市で座談会を開いております」(担当者)

 人間の都合で連れてこられたトキの子孫は、そんな事情を知るはずもなく佐渡の空を飛び回っている。

週刊新潮 2020年2月27日号掲載

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