侍ジャパン プレミア12「初制覇」も、金メダルを狙う「東京五輪」は苦戦必至か?

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 第2回世界野球「プレミア12」は11月17日、日本が宿敵・韓国を決勝で破って、初優勝を飾った。日本球界として、来年の東京五輪へ弾みが付いた格好だが、国際大会の経験を持つ専門家はどう見ているか。日本代表の打撃コーチとして、2009年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で世界一に輝いた野球解説者の篠塚和典氏に聞いた。

「『プレミア12』は大会自体の意味合いが少し薄かったので、選手たちも集中するのが大変だったと思います。決勝の韓国戦は『これぞ国際試合』という雰囲気でした。初回にいきなり先制されても、逆転に成功した。日本らしい緻密な野球と本塁打を組み合わせた得点で、それをよく守り抜いた。選手は世界一に胸を張るべきだと思います」

 さらに、篠塚氏は日本野球の底力を感じたとしたうえで、こう続ける。

「クライマックスシリーズや日本シリーズと同様に、国際試合は短期決戦がゆえに戦い方が難しい。実力がある選手であっても、大会期間に調子の波が合わなければ、結果が出ないことが多い。今大会は、広島の鈴木誠也、楽天の浅村栄斗が好調を維持し、打線の核になれたのが大きいですね。そして、決勝で逆転本塁打を放ったヤクルトの山田哲人。調子は万全とは言い難かったですが、最後に実力を発揮した。こういう選手が出てくるとチームは勝てますね」

 思い出されるのは、2009年のWBC決勝・韓国戦。9回裏に追いつかれた日本は、延長10回表、不調に苦しんでいたイチローが決勝タイムリーを放ち、WBC連覇を果たした。勝負の流れを決定するという意味で、「プレミア12」でみせた山田の本塁打はイチロー同様の“重み”があったと、篠塚氏は指摘する。

「形は違いますが、山田には、あの時のイチローのような存在感がありました。当時の日本代表はイチローを中心としたチームでしたが、彼はまったく打てなかった。イチロー本人が試合を重ねるごとに、考え込んでしまっているのがよくわかりましたね。周囲もそういう空気を感じて、チーム全体に重い雰囲気がありましたが、イチローが韓国相手に本当に大事な場面で打った。チームの雰囲気がガラリと変わって『勝てる』と確信しました」

「プレミア12」決勝の韓国戦は、先発の山口俊が初回に3失点を喫したが、その裏に1点を返すと、2回裏、山田が逆転3ランを放って試合の流れを引き戻した。決勝戦を向かえるまで、不調に悩まされていたが、山田にとってもチームにとっても、まさに起死回生の一発。WBCのイチローを彷彿とさせた一打だったというわけだ。

 一方、篠塚氏は、侍ジャパンの投手陣には“課題”があったと指摘する。

「投手陣については、選手層の薄さが気になりました。巨人の菅野智之とソフトバンクの千賀滉大が代表入りを辞退しましたが、それだけ、両リーグの2枚看板の存在感がずば抜けているということ。『プレミア12』の主軸となった投手は巨人の山口でしたが、彼のような投手が3~4番手にいるような投手陣の厚さが理想ですね」

 来年にはいよいよ東京五輪が開かれる。日本球界の悲願は、もちろん金メダルの獲得であるが、侍ジャパンは再び“世界一”を勝ち取ることができるのだろうか。

「『プレミア12』の優勝は称賛に値しますが、それをもって東京五輪で『金メダル確実』とは言いにくいですね。まずは、各国がどういう選手を揃えてくるか。おそらくメジャーリーガーは参加しないでしょうけど、五輪はスポーツ最大の祭典です。それに向けて、各国とも力を入れてくるでしょう。メジャーリーガーに準ずるような素晴らしい選手がたくさんいるので、彼らにどう対応するのか。データの分析を含めて、緻密な部分もしっかり取り組まないと、苦戦が予想されます。ただ、打線について心配はありません。『プレミア12』で不調だった選手が復調する可能性もあるし、調子がいい核となる選手が2~3人いれば、得点力は確保できます。先ほども触れましたが、投手陣は、菅野と千賀を中心に、安心して試合を任せられる投手が3~4枚はほしいですね。こういった選手が揃えば、かなりの確率で金メダルが見えてくるのではないか、と思います」

 稲葉篤紀監督は「プレミア12」の初優勝で涙を見せていた。東京五輪で見せる涙は嬉し涙か、それとも……。

週刊新潮WEB取材班

2019年11月27日掲載

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