有害物質99%カットでも… 「加熱式」も「紙巻き」と同列規制の「たばこ暴論」

ドクター新潮 健康 その他

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 ヒートアップすると、ろくなことにならないものである――。有害物質が大幅にカットされた加熱式たばこを、紙巻きたばこと同様に扱うべきだという「暴論」が幅を利かせようとしている。ちょっと待って、そう「加熱(ヒートアップ)」せずに、冷静に考えてみましょう。

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 許された場所で、ルールを守って嗜(たしな)んでいるのに「チッ」と舌打ちされる。挙句、「臭(くせ)えよ」と暴言を吐かれる。内心、「お前の香水のほうが臭えよ」と言い返してやりたいところだが、その言葉をグッと飲み込み耐える。ただひたすら耐える。今や我々は日陰者。時にはまるで犯罪者のように扱われる身分。おとなしくしております――。

 世の喫煙者は現在、「悲哀」を味わわされている。ロバート・キャパや松田優作がたばこを咥(くわ)えてキメてみせたのも今は昔。愛煙家は肩をすくめての生活を余儀なくされているのだ。仕方なく、愛する「紙巻きたばこ」から、燃焼による副流煙や灰が出ず、においも少ない「加熱式たばこ」に“宗旨替え”した喫煙者も多いに違いない。事実、すでに喫煙者の約2割が加熱式利用者と言われ、愛煙家の中で加熱式への「熱」は高まっているのである。たばこを吸うにしても、極力、他人様に迷惑をかけないようにという愛煙家の「しおらしさ」が伝わってくるが、

「目下、加熱式を吸っている人たちも厚労省をはじめとする『禁煙原理主義者』に目の敵(かたき)にされています」

 と、たばこ業界関係者は指摘する。

「先の通常国会最終盤の7月18日、改正健康増進法(受動喫煙対策法)が成立し、2020年4月以降、『例外』はあるものの、飲食店など屋内での喫煙は紙巻きも加熱式も原則禁止となることが決まりました。ただし、紙巻き、加熱式、それぞれ喫煙専用室を設ければ、そこでは吸っても構わないという『救済措置』が取られています」

 その結果、厚労省の専門委員会において、紙巻き、加熱式両者の喫煙専用室の設計基準が話し合われていて、直近では7月27日に続き、8月29日に同委員会が開催されたのだが、

「そこでは加熱式の喫煙専用室も紙巻きのものと同基準、具体的には“喫煙室の入口から室内に向かって毎秒0・2メートル以上の空気の流れがあること”という基準で構わないという議論が進められているんです。紙巻きと加熱式では、決定的に『有害性』が違うというのに……」(同)

 加熱式は、たばこ葉を燃やさずに蒸して楽しむもの。そのため、紙巻きのような煙は出ない。実際、紙巻きに比べて加熱式の有害物質は「プルーム・テック」(JT)で「99%」、また「アイコス」(フィリップ・モリス)と「グロー」(ブリティッシュ・アメリカン・タバコ)では「約90%」低減されている。にも拘(かかわ)らず、紙巻きと同列に扱うのは暴論だろう。

 これらの数字は各たばこ会社側が公表しているものに過ぎないとの見方もあろうが、東海大学の関根嘉香教授(室内環境学)は、

「私は非喫煙者でたばこは大嫌いですし、禁煙推進派です」

 こう断った上で、

「しかし一方で、たばこを吸いたいという人もいて、吸うことでリフレッシュし、いろいろな物事を生産できる人も現実にいる。『たばこ』というだけでとにかく排除しようとする昨今の議論の進め方は乱暴です。科学的データに基づいて冷静な議論をしなければいけないと思います」

 と、最近の「禁煙ファシズム」的な議論に警鐘を鳴らすのだ。関根教授が、自らのグループが8月末に学会で発表したばかりの論文のもとになった実験・研究を振り返って続ける。

「紙巻きと加熱式のいわゆる主流煙を比較すると、発がん性物質であるホルムアルデヒドは加熱式が約300分の1、アセトアルデヒドに関しては約4800分の1でした。このように、紙巻きに比べてリスクがかなり少ない加熱式を、紙巻きと同じ扱いにしてしまうのはどうかと思いますね。例えば、バーベキューの煙にも有害物質は含まれているはずです。そう考えれば、たばこだけを極端に全部規制するのはやはりおかしいのではないでしょうか」

 受動喫煙について研究している秋山幸雄・元産業医科大学准教授(安全衛生マネジメント学)も首を捻(ひね)る。

「燃やすのではなく温めて蒸気を吸い込む加熱式は、紙巻きよりも有害成分の種類も量もはるかに少ない。したがって、加熱式の喫煙専用室の基準は、“毎秒0・2メートル以上”よりも低く設定できると思います。科学的に物事を考えるのであれば、データに基づいて基準を定めるべきであり、紙巻きに合わせておけば安心という考え方はいささか粗っぽいでしょう」

 同じ宗教でもキリスト教とユダヤ教をごちゃ混ぜにしていいわけはないし、アジア人だからといって日本人と韓国人を同一視するのにも無理がある。ましてやミソと何とかを一緒くたにしてはいけない。似て非なるもの。それは結局、いくら似てはいても「非なるもの」なのだ。

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