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新横綱「稀勢の里」の横っ面を張り飛ばしていた「百田尚樹」

 地響きのような大歓声は、往年の名力士に勝るとも劣らない。初日を白星で飾るなど、連日、豪快な取り組みを披露する新横綱・稀勢の里(30)。相撲ファンは益荒男ぶりに拍手喝采だが、その稀勢の里は昨夏のある日、ベストセラー作家の百田尚樹氏(61)に横っ面を張り飛ばされていた。

「百田さんの本は大好きで、以前からよく読んでいます。『永遠の0』に始まって、『ボックス!』とか『海賊とよばれた男』も良かったし、『大放言』も面白かった。いまでは息子も、ほとんどの作品を読破しています」

新横綱・稀勢の里(右)、稀勢の里に奮起を促した『カエルの楽園』の著者、百田尚樹氏(左)

 感慨深そうに茨城県牛久市の自宅で振り返るのは、稀勢の里の父親である萩原貞彦さん(71)だ。

「小さい頃から“見たい”“知りたい”と、好奇心が旺盛な子でね。中学を卒業して鳴戸部屋(現・田子ノ浦部屋)に入門したての時期も、小説やハウツー本など幅広く読んでいたようです。先代の鳴戸親方(元横綱・隆の里)は“身体ばっかり強くなっても頭が空っぽじゃダメなんだ”が口癖で、弟子の読書にも理解がありました。もっとも、マンガとなると話は別だったようですが」

 早くから読書に親しんできた稀勢の里だが、百田氏の著作に触れたのはつい最近のこと。手にしたきっかけは父親の薦めだった。

「息子が通算6回目の綱取り挑戦を前にした、昨年8月の地方巡業に出る時でした。何冊かの本と一緒に『カエルの楽園』を持たせたのです」

 百田氏と言えば、今年1月に参議院議員の青山繁晴氏との共著『大直言』(新潮社)を上梓したばかり。精力的に執筆に取り組む百田氏の著作は20を超えるが、萩原さんはどうして『カエルの楽園』を選んだのか。

■土俵外の張り手

 昨年2月に出版された『カエルの楽園』は、隣国の脅威にさらされるツチガエルの国を舞台にした物語だ。描かれる国のあり様が、尖閣諸島周辺で挑発行動を繰り返す中国との緊張が高まる日本の姿と重なるせいか、累計部数は30万部に迫るロングセラーになっている。

「長く日本出身横綱の不在が続いた相撲界の現状や、自分を取り巻く環境を見つめ直すきっかけになればと思ったんです。その上で自分に求められていることを理解すれば、あとは迷うこともないはずですから」

 萩原さんは、取り立てて外国出身の力士を意識していたわけではないと話す。

「言うまでもなく、19年も横綱の地位を守り、相撲界を牽引してきたのは外国出身の力士たち。彼らには敬意を払うべきです。ただ、横綱に昇進してその一角に食い込もうとしていた息子には、力士とは日本の歴史と伝統に裏打ちされ、神話の時代にまでさかのぼる国技の担い手である、という自覚を持って欲しくてね。百田さんの本を読めば、横っ面を張られたように目を覚ますかな、と思ったわけです」

相撲評論家の中澤潔氏はそんな親心に理解を示しつつ、次のように指摘する。

「今場所も42人の幕内力士のうち14人が外国出身者です。もはや、彼らなくして大相撲は成り立ちません。ただ、ファンの中にはこの状況を必ずしも良しとはせず、“日本出身の力士がだらしなさ過ぎる”と嘆いたり、どこか物足りなさを感じている人が少なくないのも事実なんです」

その上で、

「稀勢の里は、父親からの“お前が頑張らなければいけないよ”というメッセージを理解して、“これからの角界を背負って立つのは自分なんだ”と発奮したのでしょう。決意を新たに昇進を果たしたことは、相撲界にとって本当に喜ばしいことです」

 身長187センチ、体重175キロという横綱にも、土俵の外での張り手は効果てき面――。

デイリー新潮編集部

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