松嶋尚美、大島美幸、東尾理子…“ママタレ”を巻き込む「赤富士」「妊娠菌」ブーム

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松嶋尚美

 不倫愛の末、夫・鉄幹との間に6男6女を儲けた与謝野晶子は「産屋物語」にこう記している。曰く、

〈妊娠の煩い、産の苦痛(くるしみ)、こういう事は到底男の方に解る物ではなかろうかと存じます。(中略)産という命掛の事件には男は何の関係(かかわり)もなく、また何の役にも立ちません〉

 明治、大正期の文壇に名を馳せた女流歌人が、〈一種の神秘な感に打たれ〉たと綴るように、妊娠・出産は人智を超えた感覚をもたらすという。それは科学が進歩を遂げた平成の世においても変わることはない。〈何の役にも立〉たないオトコに代わり、女性たちが頼るのはスピリチュアルかつ不可思議なジンクス――。

 その最新のネタが目下、多くのママタレを巻き込んで大ブームとなっている「赤富士」なのだ。

 スポーツ紙の芸能デスクが解説するには、

「確かに、ここ数年で一気に広まりました。出産を控えた女性芸能人が“赤富士”の絵をブログにアップするのは、もはや恒例行事になっています」

 赤富士といえば、葛飾北斎の手になる「富嶽三十六景」の1点「凱風快晴」が有名だが、

「いま流行っているのは浮世絵とは無関係で、妊婦が陣痛の真っ最中に赤ペンで描いた富士山と太陽の絵を指します。この、文字通り赤い富士山のイラストを妊活中の女性の身近に置くと妊娠しやすくなる、というわけです」(同)

「妊活たまごクラブ」(ベネッセ)の米谷明子編集長によれば、ブームに火が点いたのは5、6年ほど前。

「オセロの松嶋尚美さんや小倉優子さん、東尾理子さんが、自分で描いた赤富士をブログに掲載したことで、一般にも浸透していきました。森三中の大島美幸さんが、一昨年に出版した妊活本の付録に赤富士の絵をつけたこともブームにひと役買ったと思います」

 その他にも、藤本美貴に辺見えみり、矢沢心、熊田曜子など、陣痛の最中に赤ペンを握ったママタレは枚挙に遑(いとま)がない。オトコの目には「奇習」としか映らないものの、「ベビ待ち(ベビー待ちの略)」と呼ばれる妊活女性たちからは圧倒的な支持を集めているという。

■東尾理子が語る

東尾理子

 そんな赤富士との出会いについて、

「私の場合は不妊治療をしていた頃、友人でモデルのSHIHOちゃんから赤富士の絵をプレゼントされたことがきっかけでしたね」

 と明かすのは東尾理子ご本人である。

「旦那(石田純一)と一緒に神社を巡ったり、ホットヨガに通うのと同じで、赤富士も願掛けのひとつと考えていました。ただ、妊娠・出産に向けての“心の準備”にはなったと思います。私も陣痛が来た時に絵を描いてブログで公開しましたが、妊活中の女性から“お守り代わりに携帯の待ち受けにしています”と感謝されたので描いてよかったな、と」

■なぜ「赤富士」なのか

 それにしても、なぜ子宝祈願に「赤富士」が持ち出されるのか。

 都市伝説に詳しい評論家の唐沢俊一氏によれば、謎を解くカギは『竹取物語』にあるという。

「『竹取物語』は、子宝に恵まれなかった老夫婦が光り輝く竹の中にかぐや姫を見出すシーンから始まります。物語はかぐや姫が月に帰ることで幕を閉じますが、その前に、お爺さんとお婆さんに不死の薬を手渡したという説がある。ただ、かぐや姫を失っては不死になっても意味がないと考えた老夫婦は、山の頂上で薬を燃やしてしまう。これが不死の山、すなわち富士山の起源だという。つまり、古くから富士山と“子宝”を結びつける発想は存在したのです」

 なるほど、荒唐無稽に思えたジンクスにも、それなりの謂れはあるのだ。

■妊娠菌のお裾分け

 他方、大流行となった「赤富士」について語る上で避けて通れないのが、ある「菌」の存在だ。

 2度の流産を乗り越えて男児を出産した、森三中・大島美幸は著書にこう記していた。

〈「子宝赤富士」のジンクスって知ってる? 陣痛中の妊婦さんが描いた赤い富士山と太陽の絵を飾っておくと、「妊娠菌」がうつるっていうもの。私もいろんなかたに赤富士をいただいたので、ご恩返しに今回の陣痛のときに描いてみたよ〉

 また、5歳の娘を持つ神田うのも、表現こそ少々異なるものの、

〈ではいきますよーーー‼妊婦菌ビーーーーーム〉

 と自身のブログ(2011年7月9日付)で豪快に「菌」を撒き散らしている。

 確かに、「妊娠菌」という響きにはドキッとさせられるが、これは妊婦特有の疾病を引き起こす病原菌などではなく、

「たとえば、私たちの職場で妊娠が発覚した女性社員は、“妊娠菌を置いとくね!”と言って産休に入ります。妊活女性の間では自然に交わされる言い回しで、次の人にバトンを渡すという意味が込められているのです」(米谷編集長)

 こういった考え方自体は、しかし、いまに始まったものではない。

 民俗学者で新潟県立歴史博物館参事の板橋春夫氏が言う。

「日本には昔から“あやかり”という言葉があります。実際、妊娠を望む女性は、子沢山の母親から腹帯を譲り受けたり、腕の良い助産婦さんのハンカチやアクセサリーをお守りとして身に着けていた。そうすることで、自分も“あやかろう”としたわけです。俗信にベースとなる言い伝えがあるという意味では赤富士も同じ。神社の鳥居の色である赤には呪力があるとされ、それに富士山の神秘性が加わったのだと思います」

 先の唐沢氏が続けるには、

「ひと昔前なら、子作りや育児の悩みは同居している家族や近所の主婦に相談できた。しかし、核家族化が進んだ現在、そうした情報はネット頼みになっています。赤富士や妊娠菌が一気に浸透したのもブログやSNSの影響でしょう」

特集「陣痛最中に描いた『赤富士』が大ブーム?『ママタレ』を巻き込む『妊娠菌』という奇習ビジネス」より

週刊新潮 2017年2月9日号掲載

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