沢田研二が土下座、歌手の“歌詞忘れ”はなぜ起こる?

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見た目は昔と変わったが……

 弘法は筆を誤り、猿も木から落ち、ベテラン歌手は歌詞を忘れる。ジュリーこと沢田研二(68)は正月ライブで歌詞を忘れ、約3600人のファンに土下座で謝罪をした。その瞬間、往年のスーパースターの脳内には、どのようなスパークが起きていたのか。

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 1月8日、沢田は毎年恒例の正月ライブをNHKホール(東京・渋谷)で開催。

“反原発”を掲げる山本太郎参院議員の選挙応援をしただけあって、東日本大震災や原発事故をテーマにした曲で構成された内容だった。

 観客の1人が言う。

「中盤、『Pray~神の与え賜いし』という曲を歌い始めた途端、ジュリーは“忘れちゃった”と演奏をストップさせました。それから、“何ごともなかったように、もう一度、よろしく”と言ってから歌い出し、最後はスポットライトを浴びながら観客席に向かって土下座した。ジュリーにとって思い入れのある曲なので、びっくりしました」

 1967年に、ザ・タイガースのリードボーカルでデビューして50年。一線に立ち続けた沢田がなぜ、歌詞を忘れてしまったのか。

 神経内科が専門の米山公啓医師によれば、

「人間の記憶には、新しくものを覚える“記銘”、記憶を留めておく“保持”、記憶を思い起こす“想起”という3つの過程があります。年齢を重ねると脳の神経細胞が減少するうえ、神経細胞を繋ぐ軸索の髄鞘が劣化し、情報の伝達速度が遅くなってしまう。わかりやすく言うと、軸索が電線で、髄鞘がそれを覆う絶縁体のビニール。そのビニールが古くなって、漏電するようになった結果、その3つの能力が低下するわけです」

■ボケ防止に効果的

 つまり、加齢に伴い、“ど忘れ”は増えていくわけだが、よりによって大事なところで“ど忘れ”をするのにも理由がある。

 脳神経外科の工藤千秋医師が解説する。

「歌詞などの記憶は、脳の前頭葉と海馬という部分で整備されます。一方で、前頭葉は感情のコントロールも司っている。コンサートなどの大舞台で、歌手が歌詞を間違えたり、忘れたりしてしまうのは、緊張やその曲に対する思い入れなどの感情に前頭葉が支配されて、記憶情報が引き出されず、“ど忘れ”を起こす場合があるからです」

 大舞台といえば、NHK紅白歌合戦だが、確かに細川たかしは、十八番の「浪花節だよ人生は」の歌詞を84年と2006年の2回も忘れ、大御所・北島三郎も98年、「根っこ」という曲の“忘れるな”というフレーズを忘れ、照れ笑いで誤魔化した。おまけに、矢沢永吉は09年、代表作の「時間よ止まれ」を披露したものの、2カ所にわたって歌詞を間違え、NHK側が気を使って字幕を消す始末だった。

『「もの忘れ外来」徹底ガイド』の著書がある奥村歩医師の話。

「ですが、歌手活動は、ボケ防止にはとても効果的です。歌手の方は、ファンに飽きられないように常に新しいことに挑戦しなければなりません。沢田さんはいくつになっても、新曲をつくってファンの前で歌い、また、ライブを行うことで、バンドメンバーやスタッフなどいろんな人との交流も生まれている。そのおかげで、脳が活性化するのです」

“ど忘れ”したとはいえ、いまも脳内は、「TOKIO」の衣装のようにスパークしているのだ。

ワイド特集「最後の福袋を買い占めろ!!」より

週刊新潮 2017年1月19日号掲載

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