博多駅前の大陥没 大成建設が負う“責任と負担”

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 スーパーゼネコン4社の中間決算が出そろった。通期では過去最高益に届きそうにはないが、大成建設は352億円の黒字で好調を維持している。好事魔多し。それも特大級で、村田誉之(よしゆき)社長(62)は浮かない表情だという。

大成建設株式会社のオフィシャルサイト

 九州最大の都市福岡市。その玄関口であるJR博多駅前の道路で、大陥没事故が起きたのは11月8日午前5時頃のことだった。原因は、市営地下鉄七隈線の延伸工事。縦30メートル、横27メートル、深さ15メートルで陥没し、ライフラインのガスや上下水道管、そして電気設備が破断されたのはご存じの通り。福岡市交通局工事事務所の岸本信恭所長の説明では、

「一時は、ガス漏れや停電で現場を立ち入り禁止にしましたが、24時間体制で作業を行った結果、ライフラインはほとんど復旧し、15日朝には道路も通行可能になりました」

 道路は事故以前の姿に戻ったが、埋め戻された穴の周囲には基礎が剥き出しになったビルもある。その1つ「紙与(かみよ)パーキング駅三」を所有、運営する紙与産業がいうには、

「あのパーキングビルは247台収容可能で、事故発生時には100台ほど駐車していました。目下、お客様の車をいかに建物から出すかの対応に追われ、建物の安全性も確認できていません。補償請求は、こうした問題にメドが立った後になるでしょう」

 東京商工リサーチによれば、事故現場周辺に本社を置く企業は1324社。飲食店なども多数あり、そのほとんどが営業停止を余儀なくされた。

■2回目の陥没事故

「経済的な損害は小さくありません」

 こう語るのは、福岡市役所の幹部だ。

「交通局には、事故当日から3日間で補償の問い合わせが50件以上ありました。被害を受けた企業には電話番号などの連絡先と住所をお聞きしています。原因を解明し、補償範囲と対象を確定した後、市とJV5社の過失比率に応じて補償する方向。ですが、結論が出るまでには時間がかかる。被害企業はそれまで待てないでしょうから、一旦JV5社の代表に全額肩代わりしてもらう案が浮上しています」

 2年前に着工した七隈線の延伸工事はJV5社の請負で、その代表が大成建設なのだ。総事業費は450億円で20年の開業を目指していた。経済誌のゼネコン担当記者によれば、

「昨年4月、8年間社長を務めた“大成のドン”山内隆司さんが代表権を持つ会長に就き、常務の村田さんが社長に昇格しました。東大工学部建築学科卒の村田さんは、5年前に執行役員関東支店長になった後から、業界内で“次は村田”と囁かれていたのです。社長就任時に“すべての工事現場を訪ねて、ひとつずつ自分で確認していく”と大見得を切っていましたが……」

 だが、村田社長が七隈線延伸の工事現場に足を運んだ形跡は見当たらない。

「実は、陥没事故は今回で2回目。着工した年の10月、雨水管を迂回させる掘削工事で縦4メートル、横3・5メートル、深さ3メートルに亘って陥没。幸い、今回と同じくケガ人はいませんでした」(同)

 大成建設の広報室に話を聞くと、“全社一丸となり、復旧工事に取り組んでいます”と繰り返し、JVゆえに他人事のようでもある。

「大成建設は謝罪会見を開かず、専務が事故発生3日後の中間決算発表で、“ご心配をかけて誠に申し訳ない”と頭を下げただけ。責任感が希薄だといわざるを得ません」(同)

 大成建設の社訓「工場十訓」の1つに“責任はおもきものなり 後の世にのこる仕事の恥をさらすな”の言葉がある。よもや、村田社長は社訓をお忘れではあるまい。

週刊新潮 2016年11月24日号掲載

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