電通・博報堂の「大人数で来るバカ」「本当は自分では何もできない横流しバカ」

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

■私が見てきた「電通と博報堂」バカざんまい(2)

 中川淳一郎氏の新著『バカざんまい』(新潮新書)の発売にちなみ、氏が20年に亘って見つめてきた広告業界の“バカざんまい”なエピソードをご紹介する。五輪エンブレム問題や過重労働で注目を集めた、電通・博報堂の知られざる“バカ”な実態とは。

 ***

浮世を睥睨する両本社ビル。左が電通で右が博報堂

 では、「広告業界バカざんまい」を4つ紹介しましょう。

【大人数で来るバカ】

 大人数の会議については前述したとおりですが、社外で何かする時も同様で、大挙押し寄せます。どうも、電通・博報堂は「大人数で行けば客に忠誠心を見せられる」と考えている節があるのです。

 展示会や記者発表会は芸能人が出演して新商品をアピールする、華やかな場所。なのに、会場となるホテルの大広間の壁際には黒く無粋なスーツの男達がズラリと並んでいる。何をするわけでもなく、ただ立っているのです。

 会見を受注した代理店の現場を担当する営業・イベント部署の社員だけでなく、普段は姿を見せぬその上司や役員、広告の買い付けをする社員など。挙句には別の代理店の営業担当まで来てしまう。

 彼らは手持無沙汰で、イベント制作会社の人が作った運営マニュアルなんかを覗き込み「よし、この通り、ばっちりだな」なんて確認をして頷いたりする。それでいて、看板が少し曲がっていたりしたら、制作会社の若者に「おい、あそこ、直しなさい」なんてエラソーに指示をします。「細かな問題も見逃さない気配り営業マン・大田原源一郎・47歳、押忍! ワシ、クライアントに対しては120%の誠意大将軍に徹します!」なんて考えているのでした。

 クライアント企業の関係者と思われる人が目の前を通ったら、それがこの日のハイライト! 「どうもどうも! このたびはおめでとうございます!」なんて挨拶をするも、クライアントはさっと会釈をするだけですぐにどこかへ去ってしまいます。代理店マンと違い、やることがあるのです。

中川淳一郎氏

■北朝鮮の労働党大会さながら

 ともあれ源一郎はそうやって「来ている証拠」を作ったところで、携帯の着信に慌てて大広間の外へ出てロビーでしばらくやり取りをする。そのまま時計をチラリと見るなどしてはゆっくりと、諸葛孔明も真っ青の見事な撤退ぶりで会場を後にし、かくして「クライアントの晴れ舞台に顔だけは出した」という事実を源一郎は確定させるのでした。

 加えてこうした発表会には、広告代理店マンだけでなく、テレビ局の営業もやってきます。クライアントは心の中で「お前たち、別に来なくてもいいのに……。むしろ会場狭くなって記者の皆さんに迷惑なんですけど……」と思っています。

 記者発表会は本来は記者が中立の目で商品の実力や、CMの面白さなどを冷静に取材するものなのですが、代理店マンとテレビ局の営業が、いちいちスピーチが終わった後などに拍手をするんですよ。

 まさに会場は、北朝鮮の労働党大会さながら。偉大なる金正恩同志のスピーチが終わった後のような状況の中、記者は気まずそうに下を向きます。

 ところで展示会については、下請けのイベント会社が現場を回すものですから、代理店のイベント部署の社員はまぁ、現場監督みたいなもので、何か問題があった時に対処する程度です。だから実際ヒマ。運営マニュアルを見るふりをしたり、無理やり現場の課題をメモったりします。それでもま~ヒマなので、私などかつて、イベントコンパニオン好きなクライアントの要望に応え、各社のブースのナンバー1美女(私基準)に写真を撮らせてもらい、プロフィール付きでアルバムにまとめたりもしました。

【本当は自分では何もできない横流しバカ】

 大手代理店社員はスキルが足りていないところがあります。イベントについては、下請けの制作会社の若者の方が様々な最新の演出方法を知っていたり、優秀な施工業者を知っていたりします。代理店社員は下請け社員を呼んで、クライアントから与えられたオリエン内容を自分の解釈も入れつつ伝える。

 クライアント→代理店営業→代理店イベントスタッフ→イベント会社という流れで、間に2工程の「伝言ゲーム」が発生するわけです。イベント会社が優秀であれば、クライアントは、「正直、代理店いらないんだけどな。でも、CMも発表会もウェブも一括して頼めるし、まぁ、オレの仕事減らせるからいいか……」と中間ピンハネ業者である代理店が入ることを良しとするのです。

 私がいたのはPRという部署で、ここは、テレビのディレクターや雑誌編集者、新聞記者等にクライアントの商品・サービスを説明し、各メディアに合った企画を考えて掲載・オンエアを目指すところです。

 この時重要なのはもちろん商品力ですが、PR担当者とメディアの企画者が円滑な関係を築いていることも欠かせない。電話一本で「資料お送りしていいっすか!」「いいっすよ」みたいに言える間柄であると強い。しかし、私のいた部署の若手にはメディアへのコンタクト経験がほぼないという猛者もちらほら。それお前の本職だろ!と思うも、「自動車業界に強いPR会社に相談します」と、給料高いくせに下請け頼りの情けない姿を見せます。

 ***

 残り2つの「バカざんまい」例は、私が見てきた「電通と博報堂」バカざんまい(3)にて

 私が見てきた「電通と博報堂」バカざんまい(1)はこちら

特別読物「この連載はミスリードです【拡大版】 私が見てきた『電通と博報堂』バカざんまい――中川淳一郎(ネットニュース編集者)」より

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者。一橋大学卒業後、博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年退社。ライター等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』等。「サッポロ黒ラベル」党。

週刊新潮 2016年11月10日神帰月増大号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。