11億円詐取の「三井住友」元副支店長 “企業内リンチ”乗り越えの経歴

ビジネス

  • ブックマーク

Advertisement

 今どき、実に豪気である。銀行員が11億円を詐取して散財したのち、手元にはなお5億円。おまけに、かの「曰くつき行」出身だというから、興味は募るばかりだ。

 ***

9年間でおよそ搾取した額は11億円!(イメージ)

 三井住友銀行から1億9000万円を詐取した疑いで、同行大森支店の元副支店長・南橋浩(54)が逮捕されたのは12日であった。警視庁担当記者の話。

「南橋は、架空会社名義で普通預金口座と外貨預金口座を開設。米ドルの為替レートを不正操作で円高にして入金し、円転する際に相場に戻して差益を得ていた。時効分も合わせると、9年間でおよそ11億円を詐取していたとみられます」

 6月中旬、国税局の税務調査で発覚し、銀行は翌月に南橋を懲戒解雇。9月下旬には刑事告訴していた。

「神奈川県大和市内の一軒家で妻子と暮らしていましたが、数年前からは別居状態。騙し取った金は、風俗店で知り合った愛人につぎ込んだほか、FXやマンション投資、また子どもの養育費や借金返済に充てたと供述しています」(同)

 解雇後、南橋は新宿区内のワンルームマンションに移り住み、「妻子に累が及ばぬように」と親戚の姓に改名している。部屋からはおよそ3億円の現金が見つかり、ほか2億円余りの預金があったという。

■隠語「H」で呼ばれ

 こうした所業に暗い影を落としているのは、その経歴である。鹿児島の商業高校を卒業した南橋は、1980年に平和相互銀行に入行した。

 70年代の経営陣内紛に端を発し、同行が数々の不正融資事件の舞台となってきたのはご存じの通り。大蔵省の検査で融資額の半分が不良債権と判明し、86年10月には住友銀行に吸収合併されてしまうのだが、そこで平相銀出身者を待ち受けていたのは、残酷な仕打ちだった。

「関西の都銀だった住銀は首都圏に足掛かりを得た一方で“お荷物”を抱え込むことになった。彼らは時に罵声を浴びせ、時に廊下に立たせたり坊主刈りを命じたり……。『企業内リンチ』とも呼ばれた大粛清によって、3300人の平相銀出身者の大半が、数年で住銀から去っていったのです」(金融専門紙ベテラン記者)

 経済ジャーナリストの須田慎一郎氏も、

「当時、平相銀出身者は頭文字の『H』と隠語で呼ばれ、『Hは言われたことはできるんだ』などと言われていました。実務能力はあるが、自分たちホワイトカラーとは違ってブルーカラーだという蔑みの気持ちが込められていたのです」

 91年にバブルが崩壊し、

「首都圏の支店はむしろ住銀の重荷となってきました。平相銀は元々19時までの営業で水商売の顧客も多く、支店も変わった場所にあった。その大半は賃貸物件だったため、契約終了とともに多くの支店を閉鎖。これに合わせ、苛烈なリストラが一段と進みました」(同)

 さらにその後、

「01年には三井グループとも合併し、平相銀出身者の居場所は、本店はおろか支店にもほぼなくなりました。今回の容疑者は“絶滅危惧種”でありながら副支店長まで昇った成功者の部類。高卒ゆえ、住友や三井の大卒行員のライバルたり得なかったのも、奏功したのでしょう」(前出ベテラン記者)

 不遇をバネに、闇の華を咲かせたというのだ。

ワイド特集「答えは風に舞っている」より

週刊新潮 2016年10月27日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。