首都58万世帯停電、東京電力の損害賠償はどうなる

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 首都機能が麻痺した。信号機は都内200カ所で灯火が消え、電車は運転を見合わせ、霞が関の省庁内も真っ暗。原因は、10月12日に埼玉県新座市内にある東京電力の関連施設で起きた火災だった。この火災で主に都内西部58万世帯が停電し、経済的な損失は億単位に上るといわれている。

火災が発生した新座洞道 出典:東京電力ホールディングス

 停電が始まったのは15時30分ごろ。現場の懸命な復旧作業の甲斐もあり16時25分に回復したものの、その後も、池袋駅のホームや改札には黒山の人だかりができていた。損害を被った鉄道各社は、東電への賠償請求を考えているのか。都営地下鉄を運営・管理する東京都交通局によれば、

「停電の被害は大江戸線だけでしたが、影響人員は7600人。今後、東電の過失が判明したとしても、損害賠償の請求などは考えておりません」

 一方、9万1000人の足に影響が出た西武鉄道は、

「当社といたしましては状況を精査の上、適切に対応してまいります」(広報部)

 と、明言を避けたが、西武グループ関係者によれば、東電への損害賠償請求の準備を進めているという。

 また、映画館も上映中断を余儀なくされた。複合映画館「シネマサンシャイン」を展開する佐々木興業の話では、

「被害に遭った池袋の6館のうち1館がお客様の入れ替え中で、1館は本編前のCM中。残りの4館が上映中だったのです。すぐに停電だとわかり、館内アナウンスをしたので大きな混乱はありませんでした」

 停電は20分で回復したが、上映再開にはさらに時間を要した。

「上映終了後、払い戻しを求めるお客様も少なくありませんでしたので、“招待券”をお渡しして対応しました。損害額は二十数万円に上ります。現在、賠償請求については社内で検討中です」(同)

■「停電割引」は対象外

 大規模停電の“責任と補償”について、東京電力ホールディングスの広報室に聞くと、

「目下、火災の原因究明を行っている最中です。損害については、『停電割引』を行っています。今回の停電が弊社の過失によるもので、営業損失が出た場合、お客様からの申し出があれば、お話を聞いた上で“真摯”に対応していきたいと思います」

 過去の大規模停電では、どんな対応をしていたのか。

「直近では平成26年4月に多摩地区で約31万軒の停電がありましたが、その際に損害賠償を支払ったか否かは取りまとめていません。また、個々のやり取りについては回答を差し控えさせていただきます」(同)

 東電HDの廣瀬直己社長(63)も、停電翌日の世耕弘成経産相との会談後に“真摯”という言葉を何度か口にしている。だが、それを額面通りに受け取ることはできないのだ。全国紙の社会部記者は苦笑しながら、

「東電は、2年前に多摩地区で起きた大規模停電で企業や世帯に補償や割引をしています。それ以外にも、原因が不明のまま補償に応じたケースもある。例えば、平成10年8月の静岡県南伊豆町の停電事故では、営業所に相談受付の臨時窓口を設けたほか、7350世帯に案内状を送付して食品の腐敗や、冷蔵庫の故障などを補償しました」

 また、東電が損害対策だと説明する「停電割引」も、

「これは1日ごとに基本料金から4%を割り引く制度ですが、規定では1時間以上の停電が対象。東電の発表では、今回の停電は55分ですから、割引の対象外なのです」(同)

 東電は17日になり、“北区1500世帯での停電復旧が16時33分だった”と訂正。割引は、この世帯にだけ適用される。

週刊新潮 2016年10月27日号掲載

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