イーロン・マスク発表の火星移住計画、実現可能性は

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 ホラとラッパは大きく吹けという。今年の国際宇宙会議で米の大富豪イーロン・マスク(45)がぶち上げたのは〈火星への100万人移住計画〉。「人類が絶滅せずに存続し続けるには地球外惑星への進出が不可欠」と主張するこの男、いったいどこまで本気なのか。

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夢は大きく「火星植民」

 電気自動車会社テスラ・モーターズや太陽光発電会社ソーラーシティを創業、映画「アイアンマン」のモデルとも言われる資産1兆2000億円の起業家イーロン・マスク。“現代の魔法使い”などとも呼ばれる男は幼い頃からSF好きで、スタンフォード大学大学院に進むもインターネット、持続可能エネルギー、宇宙開発こそ「人類の未来に貢献する」と起業したというから理想家肌も筋金入りだ。

 2002年に「人類の火星移住」を目標にスペースX社を設立、世界初の民間ロケット打ち上げ事業で宇宙ビジネスに風穴を開けた。

「目玉は大幅なコストダウン。大型ロケットの打ち上げ費用を圧縮、NASAや国防総省から受注を取りつけた。昨年はグーグルなどが1000億円の巨額出資を行い、話題になりました」(国際部記者)

 マスクは今年6月、2025年までに火星への有人飛行を実現させる、と宣言して世の度肝を抜いたが、今回は「火星植民」である。

 スペースXが開発する史上最大、全長122メートルの再利用可能なロケットに、100名以上が「快適に」搭乗できる宇宙船を搭載。従来は180日はかかるとされた火星までの道のりも最終的に30日に短縮、帰りは火星でメタン燃料を調達するという。1人1000万円で火星にいけるようにし、40年から植民開始、22世紀までに100万人が移住可能になるという。マスクは「最高の思い出になる」「死ぬ確率は高いけど」と会場を笑わせながらも「この計画のためには私財もなげうつ」と熱く語ったのだ。

■“現代の英雄”

 宇宙事業に詳しいベンチャーキャピタリストの青木英剛氏は言う。

「火星に裕福な人ばかりの100万人都市が実現すれば、経済効果は数十兆円に及ぶはず。実現のハードルは高く投資も巨額になるが可能性はある。しかし今回はマスク氏の理想に共鳴する仲間を募るのが主眼では」

 JAXAの的川泰宣名誉教授は冷静だ。

「机上の空論に過ぎませんよ。冷や水を浴びせたいわけでなく、スペースXは有人宇宙船の飛行も実現していないのですから。技術的に詳細を検討して今回の発表に到ったとは思えません」

 ただ、と言葉を継ぐ。

「私はケネディ大統領のアポロ計画にリアルタイムで接しているのですが、そのときは正直、“ハッタリだな”と思ったものです。でも、人類の月面着陸は実現しましたね。マスク氏が大きな夢や目標を掲げることは科学技術の進歩にとっては良いことと思いますよ」

 さらに言えば、と科学作家の竹内薫氏は言う。

「常識を覆して数々の成功を収めたマスク氏はいわば“現代の英雄”。その期待感と計画のインパクトで資金調達することも視野に入っているはず。人類の未来のため火星を目指す、というのも本心なのでしょうが」

 富裕層は火星に脱出、人口爆発後の汚染された地球が残される……なんて未来ならホラであってほしい。

「ワイド特集 男の顔は履歴書 女の顔は請求書」より

週刊新潮 2016年10月13日神無月増大号掲載

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