赤字38億円の大塚家具、転職社員の“通報制度”を導入?

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苦境に立つ“姫”

〈子供の楽しみに対する敵はいつでも父か教師である〉とは、永井荷風の「冷笑」の一節。翻って、まだ記憶に新しい大塚家具の親子ゲンカは、娘に軍配が上がり、“敵”である父親は放逐されるハメになった。だが、それから1年半で会社は営業赤字に転落し、人材流出にも歯止めがかからない。踏んだり蹴ったりの娘が乗り出したのは、裏切り社員の通報制度だった。

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 骨肉の争いが一応の決着を見たのは、昨年3月の株主総会。経済誌記者によれば、“かぐや姫”こと大塚久美子社長(48)の続投が決まった当初は、

「業績が一時的に好転しました。久美子社長はテレビ番組で積極的に変革をアピールし、最大50%オフの“お詫びセール”も成功させた。お家騒動を逆手にとって、大塚家具の店内で客の父娘が言い争うCMを放映するなど、話題作りにも余念がありませんでした」

 だが、今年に入ると状況は一変する。

 8月5日に発表された中間決算では、売上高が前期比で2割減、営業赤字は20億円に上った。それどころか、通期では38億円という過去最悪の営業赤字になる見通しだという。

 昨年の株主総会直前に2000円台をつけた株価も、いまや半分の有り様。

 この転落劇の原因は、

「久美子社長が手掛けた経営改革の失敗によるもの。彼女は創業者の父・勝久氏がこだわってきた会員制をやめ、中価格帯の商品を強化してきました。今月15日には中古・アウトレット専門店もオープンしますが、中間層はより安価なニトリやイケアに流れる。一方、“自宅を新築したので家具を買い替えたい”“結婚する娘に家具を贈りたい”といった理由で店を訪れる、かつての上客にもソッポを向かれつつあります」(同)

 そんな姫のピンチに追い打ちをかけるのが、親父殿の逆襲なのである。

■Tリスト

 大塚家具の社員が明かす。

「勝久さんは昨年7月、高級家具を主軸とする“匠大塚”を立ち上げました。しかも、現在80人の社員のうち70人までが大塚家具出身者です。富裕層を顧客に持つトップクラスの営業マンも、久美子社長のカジュアル路線に嫌気がさして匠大塚に移っている」

 ワンマン経営者の先代に勝負を挑む悲劇のヒロイン、というイメージも過去の話。業績悪化と相まって、“敵方”に転向する裏切り社員は後を絶たないのだ。そんな状況に業を煮やしたのか、

「転職活動を始めた社員がいると上司に通報されるようになった。以前は直属のマネージャーや店長などに話を通せば退職できましたが、最近は他店舗の店長まで巻き込み、総がかりで引き留められます」(同)

 この通報制度について、大塚家具の広報室は「事実無根」と言うが、

「匠大塚に移ろうとする社員は“あそこはすぐに潰れるからやめたほうがいい”“給料も安いし、福利厚生も最悪だ”と説得されるそうです。また、大塚家具には一度退職した社員を再び雇い入れる“再雇用制度”があります。しかし、匠大塚に移った社員は、通称“Tリスト”に名前が載って、再雇用の対象から外されてしまうのです」(先の社員)

 前門の営業赤字に、後門の父親。身内の裏切りまで頻発して、かぐや姫の戦いは正念場を迎えている。

「ワイド特集 男の顔は履歴書 女の顔は請求書」より

週刊新潮 2016年10月13日神無月増大号掲載

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