五輪追及の小池知事、関係者から怒りの声…「ヒアリングさえない」

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 憤慨するのも無理はない。都政改革本部の調査チームが9月29日、東京五輪の費用が3兆円超になると公表し、3施設の建設見直しを求めた。しかし、「アスリートファースト」ではなく、「小池ファースト」ともいうべきそのやり方に「江東区」「招致委員」「ボート協会」は怒り心頭なのだ。

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「海の森水上競技場」は当初予算の7倍、491億円への増大が見込まれる(画像は東京都オリンピック・パラリンピック準備局「海の森水上競技場基本設計」より)

 小池都知事肝煎りの調査チームからヤリ玉に挙げられたのは、4つの競技である。

 都庁担当記者の話。

「ボートとカヌー・スプリントの会場である『海の森水上競技場』は当初予算の7倍、491億円への増大が見込まれ、宮城の長沼ボート場か埼玉の彩湖、岐阜の長良川への変更を求められました。バレーボールの『有明アリーナ』は2倍となる404億円に膨らむとして横浜アリーナなどの活用や規模縮小案を示された。また、水泳競技の『オリンピックアクアティクスセンター』も、2倍の683億円になるため、東京辰巳国際水泳場の改修利用などを提案されたのです」

 この3施設は、いずれも東京・江東区内での建設が予定されている。

 米沢和裕江東区議(自民党)が憤然として語る。

「小池都政には、選挙で圧勝したから何をしてもいいという傲慢さを感じます。オリンピック招致は開催地の機運が高まらないと難しいと言われていたから、江東区ではビラを配ったり、バッヂをつくったりと必死に活動しました。なのに、地元に何の説明もせず、“あれも変えます、これも変えます”と進めている。これでは、小池さんが批判した自民党都連の密室政治とまったく一緒ではないですか」

■FISAの調査

 むろん、日本ボート協会も黙っていられない。

「我々へのヒアリングさえないのに、一方的に見直しを提起されることには困惑しています」

 と打ち明けるのは、相浦信行業務執行理事だ。

「IOCが“アジェンダ2020”を14年に採択し、五輪費用の削減を打ち出しました。それに伴い、FISA(国際ボート連盟)の競技場設計責任者が10回以上来日し、コスト削減のため、代替地を含めて調査を始めた。当然、長沼ボート場もその候補に入っていましたが、何より問題は選手村。既存の宿泊施設では対応できず、余計に費用が嵩むことが見込まれました」

 さらに、彩湖は荒川の洪水に備えた貯水池であるために恒久施設の建設は困難、長良川は多額の整備費が必要なうえ、岐阜では“復興五輪”にマッチしないと判断されたという。

「都とFISAが協議を積み重ねた結果、海の森水上競技場の決定は覆らず、この7月からすでに工事は始まっています。そもそも、FISAのコスト削減のための調査は、都政改革本部の調査チームがわずか1カ月で行った調査と比べ、質的にも量的にももっと徹底したものでした」(同)

 小池都知事と東京五輪の主導権争いを演じる森喜朗大会組織委員会会長も、“本当に都が見直しを図るなら大変なことになる”と不快感を露わにした。

 さらに、招致委員会でスポーツディレクターを務めた荒木田裕子氏も不満を隠せない。

「各スポーツ競技の国際競技連盟との間で、選手村からの距離や観客収容人数などについて、何度もやり取りを行い、長い年月をかけて培った信頼関係のうえに競技会場は決まっています。それなのに、調査チームが“これ、お金がかかり過ぎ”の一言で切り捨てようとするのはあまりにひどいです」

 招致段階の“アスリートファースト”とは違ったものになっているという。

「ほとんどの競技場が8キロ圏内にあり、東京・晴海に建てられる選手村には1万数千人のアスリートが入居するはずでした。選手にとって最高の環境だったのに、節約、節約をお題目に、それが破壊されていくのが残念でなりません」(同)

 おためごかしの節約パフォーマンスに泣くのは、オリンピック選手なのだ。

「特集 嘘とペテンで盛り土した『豊洲と五輪』7問答」より

週刊新潮 2016年10月13日神無月増大号掲載

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