「卵は1日1個まで」は本当? 牛乳よりもヤギ乳? ドクター秋津がジャッジ! 健康長寿の新常識

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総合内科医、秋津壽男医師(62)

 自身の健康を考え、日々口にする食べ物を意識している方も多いのでは。総合内科医の秋津壽男(としお)医師(62)が今回ジャッジするのは、食物の栄養にまつわる疑問である。

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「物価の優等生」や「完全栄養食品」という良いイメージがある一方、「コレステロールを増やす」というマイナス面も指摘されてきたのは、食卓でおなじみの鶏卵です。次の設問では、この卵について、古くから多くの家庭で言い伝えられてきた戒めが正しいかどうかを検討します。すなわち、

■【Q5 コレステロール増になるから「卵は1日1個まで」?】

卵のジョーシキ、ヒジョーシキ

 長らくコレステロールの過剰摂取とその弊害として動脈硬化のリスクが懸念されてきた卵。しかし結論を先に申し上げると、これは迷信に過ぎませんでした。食における最新の医学的知見では、健康な人なら、卵は1日に2個でも3個でも、食べて問題ありません。

 誤った風説流布の“犯人”はロシアの病理学者アニチコフです。彼は20世紀初め、ウサギにコレステロールをたくさん与える実験を行い、動脈硬化の原因になったと発表した。しかしウサギはそもそもコレステロールを全く摂取しない草食動物です。投与分がそのまま蓄積され、数値を上昇させてしまう。一方、人間の身体には、どんなにコレステロールを摂取してもその数値を一定に保つシステムが備わっている。ウサギの実験結果は人間には当てはまらず、そもそも前提が間違っていたのです。

 しかもその後、コレステロールには善玉と悪玉があり、人が生きていくうえで欠かせない栄養素であることが分かりました。通常、人間は体内で全コレステロールの80%を生成し、20%を食事から摂っています。

 最新の研究では「食物由来のコレステロール制限で数値を下げられるのは2割まで」ということが判明しました。たとえば悪玉コレステロールの数値が200とすると、食事でコレステロールを断っても、2割の40しか減らず、160以下にはならないのです。一方、肉類や卵をいくら暴食しても、数値が200を超えることはありません。先に述べたように、調整システムが働くためです。こうした点から、アメリカのFDA(食品医薬品局)は、こう勧告しています。

「コレステロールは下げるべきである。特に脳梗塞や心筋梗塞のリスクのある人は本気で下げるべきだ。しかし(それは体内生成分のコレステロールについてであり)、食物由来のコレステロールは心配しなくても良い。食餌療法の必要はない」

 迷信に振り回されてきた日本の厚労省も昨年ようやく、食べ物から摂取するコレステロールの多寡は心配しなくて良い旨の声明を公式に出し、FDAに追随する形となりました。

 最初に述べたように卵自体は完全栄養食品で、良質のタンパク質やビタミンAが豊富です。私たちが食べ物から摂取しないといけない9種類の必須アミノ酸も全てバランスよく含んでいる。カロリーの問題さえ気にしなくても良ければ、健常者は何個食べても大丈夫。むしろ積極的に摂って疲れ知らずの体を作りましょう。

 卵と並び、完全栄養食品と言われるのは、牛乳です。もっとも戦前、戦中の日本人、とりわけ農村の住人は専ら別の動物の乳を飲んでいました。ヤギの乳です。そこでこう問いたい。

■【Q6 普及した「牛乳」と戦後に消えた「ヤギ乳」栄養パワーはどっちが勝る?】

ヤギ乳、恐るべし

 流通が発達し、牛乳が普及した現代の日本では、ヤギ乳はほとんど飲まれていません。しかし、哺乳類の乳は多々あれど、人間と同じβカゼインが成分の主体であるヤギ乳は、母乳に最も近いと言われています。

 しかも牛乳と比べると、カルシウムやカリウムは1・2倍、ビタミンB2やナイアシンは3倍ほどと、あらゆる面で栄養価が勝っている。ミネラルもバランスよく含まれ、疲労回復や動脈硬化予防になるタウリンにいたっては、牛乳の20倍も含有しています。

 そのうえ、脂肪球が牛乳の約6分の1と小さく、消化吸収しやすい。それも中性脂肪に変化しない中鎖脂肪酸の割合が高い。この中鎖脂肪酸は、ココナッツオイルに多量に含まれている。昨今、認知症予防、中でもアルツハイマー病対策に有用として注目を集めたため、聞き覚えのある方も多いのではないでしょうか。

 かように栄養面の効能で牛乳をはるかに凌ぐヤギ乳ですが、普及していない故に生じる唯一の欠点は、値段が張ること。ネット通販で探すと200ミリリットルで500円近くや900ミリリットルで1000円以上という商品が目につきます。

 さて、次は「食べ合わせ」に着目しましょう。

■【Q7 「ウナギと梅干」×で「トマトとキュウリ」〇は本当か】

食べ合わせの言い伝えは本当か?

「ウナギと梅干は食べ合わせが悪い」。昔からよく聞かされますが、これも医学的には何ら根拠のない迷信です。実際は、梅干の酸味が胃酸を濃くし、ウナギの脂分の消化を助けてくれますから、良い食べ合わせと言える。この迷信が生まれた理由として、贅沢や過食の戒め説などがありますが、はっきりとしたことは分かっていません。

 一方、トマトとキュウリは野菜サラダで組み合わされることが多く、問題があるとは考えにくい。しかし、キュウリにはビタミンCを壊す「アスコルビナーゼ」という酵素が含まれている。これがトマトのビタミンCを台無しにしてしまうのです。近年は異論も出ているようですが、ビタミンCを重視する方はサラダからキュウリを外した方が無難でしょう。

特集「『ドクター秋津』がジャッジ! 健康長寿の『新常識10』――秋津壽男(総合内科専門医・秋津医院院長)」より

秋津壽男(総合内科専門医・秋津医院院長)

週刊新潮 2016年9月22日菊咲月増大号掲載

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