パラ五輪の義足選手 “道具ドーピング”批判でオリンピック断念

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熊さん リオ・パラリンピックで史上初の出来事が起きそうなんだって。

ご隠居 健常者に勝る障害者――ドイツの走り幅跳び選手、マルクス・レームのことじゃな。たしか事故で右脚の膝から下を失い、義足を付けとるんじゃったな。

 リオ・オリンピックの優勝記録は8メートル38だったけど、彼の自己ベストは8メートル40! そもそもレームはパラリンピックではなく、健常者と競う“オリンピック”に出場するはずだったんだ。2012年のロンドン・オリンピックでは、彼と同じように義足を装着した選手が出場して拍手喝采を浴びていた。レームに対しても、当初は温かい声援が送られていたんだ。

 ところが14年、欧州選手権代表選考を兼ねたドイツ選手権で状況は一変。健常者たちを尻目に優勝したレームにケチがついた。

 「義足は“道具ドーピング”だ」って言うんだ。

 たしかに彼の義足は、歩くためではなく跳ぶためのもので、一流企業の先端技術で製作されておる。そこで“肉体の進歩”というより“道具の進歩”にすぎない、と批判されたんじゃな。「これを許したら、脚を切断してでもメダルを獲ろうとする者が現れる」と警告する人もおるそうじゃ。

 侃々諤々(かんかんがくがく)の末、レームは欧州選手権、更にはリオ・オリンピックの出場も断念させられた。

 走り幅跳びだけでなく、100メートル走など短距離走でも、早晩“逆転現象”が起きるそうじゃ。ボルトが“義足”に負けたら、そりゃあシラけるじゃろうな。

 でも、道具を使いこなす技術を軽視しちゃいけないよ。でないと、フェラーリやBMWが鎬(しのぎ)を削ってるボブスレーなんか、“道具の進歩”競争以外の何物でもないってことになる。

 ただ、障害者と健常者を単純に比較はできん。例えば42・195キロを1時間半で走ってしまう“車いすマラソン”と健常者のマラソンを同列に扱うのは明らかにおかしいじゃろ。

 とにもかくにも、レームの登場は17日。さてどんな跳躍を見せてくれるかな。

週刊新潮 2016年9月15日号掲載

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