「男はつらいよ」は日本人の悪いところを描いた? 山田洋次“解剖”講座

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 寅さんこと渥美清が亡くなってちょうど20年。命日の8月4日には、山田洋次監督がトークイベントを開催し、記念上映会も行われた。没後20年の記念ムックも発行されるなど人気が衰えることはない。

 だがしかし、本誌(「週刊新潮」)のスクリーン欄でもお馴染み、映画評論家の白井佳夫氏は苦々しそうに言う。

「衰えるどころか、『男はつらいよ』が一番いい日本映画であるかのような風潮が高まっている。もちろん渥美清はいい役者ですよ。何でも演じられて、ちょこっとしか出ていなくとも、映画が面白くなる。それだけに寅さんしか演じなくなったのが残念です」

 そんな白井氏を講師に迎えた市民講座「山田洋次監督の映画を徹底解剖する!」が9月15日に東京・阿佐ヶ谷の劇団展望で開催される。一足先に中味を伺うと、

「山田監督の作品が全て悪いというわけじゃない。ハナ肇主演の『馬鹿まるだし』など馬鹿シリーズでは、日常生活の中にあって世の中の矛盾や人間の欠点を笑いの中に描く松竹大船調の正道でした。しかし『男はつらいよ』の寅さんは、適当に働き、恋をして、相手が本気になったりすれば逃げ、帰りたくなったら柴又に帰る……放浪とも言えない、甘えと馴れ合いの連続です。むしろ日本人の悪いところを描いた映画ではないか、そんな話をしたい」

 その寅さんをやめると山田監督が宣言した瞬間を白井氏は目撃している。

「シリーズ10本目を撮り終えた頃です。松竹の興行主達が集まる会に出席した山田監督が『そろそろ私も疲れてきました。ほかにも撮りたい作品があるので、寅さんはこの辺で終わりにしたい』と言ったんです。するとある興行主が『とんでもない! こんなにヒットしているシリーズが終わったら我々はどうなるのか』と言いだし、山田監督万歳、男はつらいよ万歳が叫ばれたんです。もう撮り続けるしかないだろうな、と思いました」

 そこまで言っちゃあ、お終いよ、というイベントに。

週刊新潮 2016年8月25日秋風月増大号掲載

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